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あじおんち!

作者: 激アツ姫

今日も定時のチャイムが鳴り、僕は帰りの支度を始めた。


「じゃあ皆、お疲れ。」


「お疲れさまでーす。」


同じ部署の仲間たちに挨拶をし、部屋を出る。

僕は仕事を早めに終わらせ、なるべく定時に帰るようにしている。

仕事終わりに街へ繰り出し、自ら見つけ出した店でマイペースにゆったりと食事を楽しむのが僕の趣味だからだ。

これができるのはうちの会社がホワイトなお蔭なので、結構感謝している。


会社は大きな国道に面している。

会社を背に、国道を右に進んでずっと行くと左手に公園があるのでその角を曲がる。

曲がって民家を2、3軒過ぎると小さめの駅があって、その傍に駐輪場がある。


ココが僕のお気に入りなのだ。


僕はさっとカバンからマイジョッキを取り出す。

駐輪場に入ると、まず奥に二輪専用の駐車スペースがあるのでそこへ向かう。


「今日は四台か、いいね!」


バンッ!×4

停めてあるバイクのガソリンタンクに片っ端から回し蹴りを喰らわすと、中のガソリンが漏れてきた。


「では早速……」


手前の原付にあいた穴にジョッキを当てがう。

とくとくとガソリンが注がれていく。


ジョッキの8分目くらいまで注がれたら、頃合いだ。

僕はいつも今日の頑張った自分と街に、こう言うのだ。


「乾杯!」


レギュラーのすっきりとした味わいが、喉元を通り過ぎる。

液体は疲労感を道連れに胃に落ちていく。


「ぷはぁ〜〜!!やっぱり仕事の後の一杯は最高だなぁ!」


喉越しに任せてゴクゴクと飲んでいたら、すぐ空になってしまった。

僕というやつは燃費が悪い。



「さてさて次は……おっ!」


もしやと思い、奥から二番目のホンダの穴に鼻を近づける。

すると特有のフローラルな香りが芳ってきた。


ハイオクだ。


「これはこれは、今高いのに……ハイオクを使っているとは。プチ贅沢させていただこうかな。」


タンクから漏れる甘美な露でジョッキをギリギリまで満たすと、思わず笑みがこぼれた。


「では、頂く!」


舌の上にハイオクのきめ細やかな粒子を感じる。

さらりと喉をすり抜けていくレギュラーとは対照的に、ハイオクはその深いコクと風味が特徴だ。

レギュラーで、洗い流した体内にハイオクが深く染み込んでいく。


「あぁ、いいなあ。日常の贅沢、最高だ。」



乾杯も済んだので、次は料理だ。


駐輪場を見渡し、ちょうどいい大きさの自転車を見つける。


「今日はこれにしよう。」


まずはペダルをもぐ。

ペダルは味が濃く、片手で食べられるのでガソリンにはちょうどいい。


「いただきます!」


ペダルにかぶりつく。

ジュワっと中から肉汁があふれ出て、口内に広がる。


そしてすかさずハイオクをグビッ。


「堪らないねぇ!」


もう片っぽも外して、かぶりつく。

そして、ハイオク。


口の中を幸せの波が往来していた。



続いてタイヤだ。

手刀でボディとの結合部をカット、取り出す。


「ではでは……」


タイヤ周囲のゴム部分を齧る。

もちもちとした歯ごたえが、ますます食欲を増幅させた。


「うんうん!最高だ、美味しい!」


リムやスポークは食べられないが、良い出汁がとれる。

そのままでは硬いグリップ部分と一緒に煮込めば美味しいスープの出来上がりだ。




一通り食べ尽したので、別の自転車を探しているといいものを見つけた。


「これは……今日はハイオクと言いラッキーだなぁ!」


なんとロードバイクだった。

ロードバイクはママチャリに比べると全体的に身が締まっていて、これまた旨い。

ヘルシーなので女性にもおすすめだろう。


しかしロードバイクといえばなんと言ってもギアだ。


ギアは外の殻を剥いて、中の歯車部分を食べる。

独特なクセがあるが旨味が濃く、ガソリンに合う。



「珍味!いただきます!」


歯車を少しずつ齧りながら、ハイオクをちびちびと飲む。

スローペースだが、アルミニウムの風味とハイオクの滑らかなコクが混ざりあい、

幸せが確かに体内に蓄積されていく。



「うん、美味しい。今日も。」


ギアとジョッキを持って駐輪場の外へ出ると、頭上には月が見えた。

今日も美味しい食事に出会えたことに感謝しながら僕は家路に着く。


さぁ、明日は何処へ行こう。

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