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軍人王女の冒険譚(Devil's Teardrop)  作者: n.t
出生~少女時代
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剣と銃 その1

「イヤ~~~~、アッーあ~ぁ、おっとっとっと」


アーネットは伯爵目掛けて元気よく、グレートソードを上段から振り下ろしたが、さっとかわされ、空を斬った剣の重さに引っ張られて、よろめく


「隙アリ、ポコッ」


と、後頭部を伯爵に軽く木刀で殴られる


「あたっ」


と、その痛みに頭をかかえるアーネット。

8歳の少女が自分の身長より長い鉄の剣を振り回せば、剣の重さで振り回されてしまうのは当たり前だ。はた目に見れば、子供が大人の道具で遊んでるようで、可愛くもあるのだが、これでは剣術の練習とは呼べない


「ほらな、だから無理だと言ってるだろ」


と伯爵は、言わんことではないと、諭すのだが。それでもアーネットは諦めずに、また剣を振ろうと高々と、剣先を掲げて見せる。だが手が震えてプルプルしてる。


「やめやめ、立ってるだけで精いっぱいじゃないか」


そう言って伯爵は切り株に腰を下ろしてしまう。


「うぅ~~、くやしぃ~~~」


アーネットは涙目だ。まだあきらめずに、藁の束に向かっていって「イヤー」と打ち込んでみせる。ザクッと勢いよく突き刺さった剣先が今度は抜けない。


決してアーネットに剣術の才能がないわけではない。むしろ逆だ。小振りの木刀を使わせた時のアーネットはかなりよい動きをしていた。反射神経の良さは前々からわかっていたが、相手の動きをよんで繰り出す、攻撃・防御のセンスは抜群といってよかった。実際、伯爵が繰り出す攻撃を、すべて構えた時点で受けの姿勢をとられた時には焦った。


「隙がない」そう認めざるをえなかった。


だが、である。戦場においては剣といえばグレートソードに代表される、鉄の剣で敵を兜や鎧ごと殴打するのが常識なのだ。長さも重要で、剣先が届かない相手にはどうしようもない。アーネットの力では使えて小刀。ものの役にはたたない。それでも暴漢等からの護身用にはなるので、それで十分ではないかと、アーネットに諭したのだが、


「それではダメなの。人を守れないなら、剣術を習う意味がない」


と、彼女に言われて、伯爵は感心する。彼女の剣術へのこだわりは、護身ではあるが、自分のためではなく、仲間を守りたい、というところからきてるものであることが理解できた。たぶんそれは幼くして失った母のことが関係してもいるのだろう。


「それなら、既に剣で身を守るのは時代遅れかもしれんぞ」


と伯爵はいう。もう時代は剣より銃なのだ。もちろん近接戦闘になれば剣だし、まだ銃もマスケット銃といって、弾を打つごとに、火薬と玉を銃口から入れて準備しなければいけない代物で、その間に敵に襲われてしまえば、腰から短剣を引き抜いて対処しなければいけない。だが流れは明らかに銃なのだ。それに。。。伯爵には秘策があった。


「銃ってなんですか?」


とアーネットはまだ銃をみたことがなかった。確かに街中をあるく兵士が銃を持っていることは稀だった。なにしろ広い平野での野戦時にしか銃は実用に耐える品ではなかったからだ。一般市民には銃を見る機会はほとんどない。だが、この時代、技術革新の波は激しい。


「では、ちょっと面白いところにいってみようか?」


と伯爵は目に楽し気な表情をみせる。「どこですか?」と聞くアーネットに「内緒」といいつつ、二人は馬車にのってロンドンからバーミンガムという工業都市へ出かけた。


バーミンガムは古くから貴金属の加工、刀剣類、最近では銃、そして蒸気機関の開発が盛んで、水路が古くから発達していたことが工業地として発展した理由の街だった。そんな街へとはいっていくと、方々から煙突がのび、黒煙や蒸気を排出してるのがみえた。


「ほぇ~~」


っとその異様な景観にアーネットは車窓に顔を押し当て眺めていた。

街の多くの建物はちょっと大きめの家程度の工房がひしめき合っているのだが、馬車は高い壁で覆われた街の中心的な建物へと入っていく。その門は要塞を思わせる重厚な作りだった。


「ここは軍の兵器工場さ」


と、ちょっと自慢気に伯爵が馬車から降りたアーネットの耳元で語りかける。というのも既に室内から大きな物音が漏れ出ていて、普通に話しても聞こえないからだ。工場内に入ると、大きな機械が並び、時々「バシュー」といった轟音とともに、蒸気が噴き出していた。その建物の周りには多くの人々が働いている。それらを横目に奥へと案内される。2階に上がると、そこだけ工場から一転して王宮のような装飾になり、足元には絨毯が敷き詰められている。目的の部屋で伯爵がノックをすると


「どうぞー」


と気軽な声が返ってきた。それを聞いて中に入る二人。そこは思いのほか広くて、部屋の奥壁は上半分がガラス張りで、工場内が見渡せるのに室内は静かという、ちょっと不思議な空間だった。王宮までは煌びやかではないにしろさ、落ち着いた色調のなかにも金箔が随所に施された調度類は、工場には似つかわしくない格調高い雰囲気がただよう。ここは王族の閲覧室という意味合いもあるのだろう。


「ようこそ伯爵。それにまたこれは、可愛いお嬢ちゃんをお連れですな」


と目の前の白衣を来た初老の男性がアーネットをみて目を丸くした。


「あー、ロイ、この子のことは内緒にしてくれ」


と伯爵が言うと、ロイと呼ばれたこの男性は軽く頷き、みなまでおっしゃるなと手で制して。


「しかし伯爵にこんな可愛い隠し子がいらしたとは」


と老人は伯爵を「隅におけませんな」といった目でみる。


「いや違う、違う、そういう意味での内緒ではないぞ」


と伯爵は勘違いを正した、「え、それでは?」と疑問を呈するこの男性を、両手で抑えるように質問を制して


「まぁ後で説明するから、それよりアーネット、この人はロズワルド博士だ」


とアーネットに博士を紹介した。アーネットは「初めまして」と無難に挨拶をした。


「実はロイ、この子に銃を使わせたいと思って来たんだ」


と伯爵に唐突な依頼をぶつけられた博士は、少々驚きつつ


「こちらのお嬢ちゃんにですか?」


と聞き返した。無理もない、年端もいかない子供に銃を持たせるなど、正気の沙汰ではない。当時の銃といえば1メートルを超える長さで、銃を立てて銃口から弾と火薬を込め、それを針金で押し込めねばならなかったのだから、身長が120cm程のアーネットでは無理がある。なにより危険だし、戦場でしか使えないものなのだから、少女に使わせるなど意味がわからない。


「だが、拳銃なら打てるだろ?」


と伯爵は意味ありげな顔で聞いてくる。拳銃とは現代でもおなじみの短銃で、それ自体は銃の発明当初からあったものだが、あまり使い物にならない、銃身が短いだけで、やはり弾を込める作業が必要であり、主に携帯用の銃として開発された拳銃は、騎馬兵が補助的に使う銃として存在してはいるが、なにより高価で貴族のコレクションといった感じが強いものだ。それらを踏まえて、伯爵の顔をさっすると、それは軍の最高機密のアレを指していると推測できた


「い、いや伯爵、まさかアレのことですか?」


と博士は、狼狽しつつ、「それはさすがに・・」と困惑をみせるのだった。


博士のアレとは、この国の最先端技術で、まさに今帝国が切り札として開発中の回転式リボルバーのことを指していた。英国の銃は点火方式や薬莢の技術で、隣国フランスに一世代遅れたものになっていた。それらを一挙に挽回しようと、とある国を占領した際、発見されたリボルバーの設計図面を元に、帝国の力で実現させるべく、開発が進められているのだった。


「アーネット、ちょっとペンダントマジックを見せて欲しいんだ」と伯爵はアーネットにペンダントを出すように促してくる。この頃アーネットにとって伯爵は信頼できる人間だったので、隠す必要はなかったのだが、なぜここで、とは思ったが、首からペンダントを外して机の上に置いた。


博士は宝石に興味などない性格なので、魔結晶のことには気づかなかったが、なぜにペンダントなのだ?と不思議に思ってると、伯爵が


「ちょっとここにある3つの箱のどれかに、このペンダントを隠してくれないか」と博士に促してくる。アーネットには後ろを向いているように言う。


「なんの、手品ですか?」

と疑い深そうな目で、博士はとりあえづ、一番右の箱にペンダントを隠した。

それを正面を向いたアーネットがピタリと当てる。


「ほー、面白い余興ですな」

と博士はどんなからくりかと想像してみる。これを2回くりかえして、全てアーネットが当てると。


「確かに不思議ですが、これが、銃の件とどう関係があるのでしょうか?」


と、カラクリが解らないもどかしさも相まって、根本の問題を指摘してきた。


「うん、博士はこれを手品だと思うだろ? でもそうじゃないんだ、彼女の能力は本物なんだ、そしてこの当てる能力はペンダントだけではなく、遠くの離れた人間にも適用できるんだ」


と伯爵はやや大げさにアーネットの能力を言うのだった。それをフンフンと聞いていた博士は、ようやく伯爵の考えていることにたどり着く。


「つまり、それは遠くにいる敵の兵も狙い撃ちできる、ということですか?」


なるほど、という顔で答える。


「そう、遠くの指揮官を一発で仕留めることが、可能かもしれない、ということだ。」


とニヤリとする伯爵の顔に、博士はちょっと肝が冷える思いがするのだった。

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