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軍人王女の冒険譚(Devil's Teardrop)  作者: n.t
出生~少女時代
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おとぎ話

アーネットがホワイトダウンズ家にやってきてから半年が経ち。ようやく彼女は、家人やウィル(ウィリアム伯爵)とも打ち解けて、自然に話せるようになっていた。

しかし相変わらず義兄はアーネットに愛憎混じったちょっかいをだしてくる。たまたま手と手が触れただけなのに


「バカ、汚ねぇ手で触んなよ、汚れがうつるだろ」


と大げさに体を話して、触れた手を「パンパン」とはたいてみせる。

そんな嫌がらせにも、慣れてしまったアーネットは


「そうですかー、さっきまで、お外で地面に手をついてた、あなたの方が汚れてると思いますよ」


と澄まして指摘しつつ、さらに口を尖がらがして言い返そうとする義兄を無視して彼女は隣の部屋へいってしまう。隣の子供部屋にはまだ3歳の義弟がいて、アーネットになついて「おねーちゃん」と気軽に抱き着いてくる。アーネットはこの新しくできた弟という存在が可愛くて仕方がない。ソファーにならんで絵本を読んであげたりしていた。だが義兄はそんな弟が許せない。というか、既にライバル視している。二人の仲になんとか自分も入ろうとして、あらたなちょっかいを出そうとしたところで、ウィルが、ふらっと門をたたいて大声で挨拶しながら入ってくる


「ちわ、邪魔するよー。 お、子供たちよ、みんな元気かな」


まるで煙突掃除のおじさんのような気軽さで入ってくるが、れっきとした伯爵である。王の右腕であり。広大な領地を支配し、戦場では十万の大軍を指揮する将軍なのである。歳は40を過ぎた壮年ではあるが、ガッチリとした体で背も高い。そんなウィリアム伯爵もアーネットに合うためにこの家を訪れる時は、一介の船乗りと身を偽っている。


3人の子供の頭を順番に撫でながら、ポケットからだした飴を渡していく。ウィルは子供の人気者だ。義兄もウィルの前ではアーネットへのちょっかいをしてこない。それは、ウィルにあっさりとアーネットへの恋心を見透かされて、アーネットのいないところで、こんな会話をしたからだった。


「オマエ、アンのことが好きなんだろ?」とウィルから突然つっこまれた義兄は


「誰が、あんなブス。好きになるかよ」とまっぴら御免という態度をとるので


「そうか、好きじゃないのか、じゃーいいか。実はアンが引っ越すって聞いてさ、オマエは反対するんじゃないかと思ったんだけど」


とウィルがカマをかけてみると、義兄の顔から、さーと血の気が引いていって、この世の終わりのような深刻さで


「う、嘘でしょ、いつ引っ越しちゃうの?」と青ざめた顔で聞いてくるので


「嘘だよ、アンはここにいるよ。だがアンはこの家に突然やってきたように、突然いなくなることもあるってことは覚えておけよ」


と言われてから、ウィルの前ではアンにちょっかいを出すことはなくなった。



「ウィルのおじさん、今日は南の国のお話をして」とアーネットが目を輝かせて聞いてきた。


「よしよし、南か。じゃーあれかな、伝説の魔法王国の話でもしようか」と提案すると、子供達はうんうん、とうなづき行儀よくウィルのまわりに座って聞き耳をたてた。


伯爵は実際は船員ではないので、他国へ行くときは戦争でいくことになるのだが、戦争の話を子供にしても深刻すぎるので、リアル3割、空想7割ぐらいに話を膨らませて話すのだった。最初はアーネットの心を開くために、伯爵の方から関心のありそうな話をしたのが初めだったのだが、彼女は女の子らしい、美しい花園とか可愛らしい動物とかの話には興味を示さず、むしろ男の子っぽい冒険や魔法の話を好んだ。


もっと驚いたのは、彼女は戦争の話を聞くと「どんな武器を使うのか」と興味をしめし、剣や槍、銃の使い方を聞くと「自分もそれを習いたい」と言い始めた、それを習ってどうするのかと聞くと「私もいつか冒険にでてみたい」と答えるのだった。それを聞いて伯爵は、やっぱり変わった女の子だなと思ったのだが、それはともかく、今では彼女の方から話をしてくれとせがむようになり、それがなにより伯爵にとってはうれしかった。


自発的に何かを求める。というのが重要なのだ。人間なら当たり前の感情だけれど、アーネットはいままでの抑圧された環境から、欲望を閉じ込め、感情も閉じ込め、殻を作り他人との接触を断ってきた。それが彼女なりの身を守る方法だったのだが、そのままでは人としての成長はない。自分の欲望を表にだして、欲しいものを取り込み、自分なりの考えを育てていく。その第一歩を彼女は獲得したのだ。



「むかーし、むかーし、南の地にそれはそれは栄えた国がありました。その国はエルドラドと呼ばれ、戦争も飢えもない平和な国でした。たとえ蛮族が攻めてきても、山々の頂に、空中都市を建設し、そこに住んでいたので、何人も攻撃することができなかったのです。空に浮いている都市ですからね、それを可能にしたのは魔法と呼ばれる力で、一たび神の呪文を唱えれば、天から雨が降り、大地から植物の芽が生えて、豊かな実りを人間にもたらしてくれたのです。


人間は歩いたり、走ったりする必要もありませんでした。魔法によって人は眠っていても勝手に移動することができたのです。空を飛ぶことも可能で、鳥のように街から街へ、ひとっ飛び。重い荷物も軽々と、牛何頭で引かなければ動かないような荷物を、魔法を使えば片手で運ぶことができました。なんとなんと、夜空に輝く星にまで行けたと言うのですから驚きです。


人との意思疎通も魔法を使えば言葉を使わずにおこなえ、遠くの人とも話すことができました・・・」


と、ここまで話したとき、


「それは魔法をつかわなくてもできるのでは?」


とアーネットが言い出すので、皆が???となり


「アンはそんなことができるの?」と一斉に皆から聞かれ、


「話すまではいかないけど、大体どんな気持ちなのかはわかるじゃない?」


と同意を求められ、いやいやそんなことはないでしょ、と皆に笑われて、アーネットは、あれ、私がおかしいのか? と自問自答を始めるのだった。


アーネットのこの様子を、しばらく観察してた伯爵だったが、兄弟から続きをせがまれて昔話を続けた



「この繁栄したエルドラドでしたが、もっと楽をしようとした人間は、魔法で人形に命をあたえ人間とおなじように動かせるようにしました。最初は人間の助けをさせるために作ったのですが、どんどん人間は自分達の仕事を人形に押し付けて、遊び呆けるようになってしまいます。


仕事を押し付けられた人形達は、いつしか遊んでばかりの人間に不満をもち、人間へ反抗をくわだててしまいます。それに怒った人間は、魔法を暴走させて、全ての魔力を使い切り、魔法を使えないようにしてしまうのでした。人形達は力を失って動けなくなってしいまいます。


そうして人間は救われたのですが、魔力を失った空中都市は落下して崩壊してしまいます。その後2度と人間は魔力を復活させることができず、魔法もいつか忘れてしまいます。そして人間は南の地から散り散りに移動し、今の我々の時代へと続いていくのです、と言うお話でした」


とウィルが物語を語り終えた時には、子供たちは眠っていた。でもアーネットだけは最後まで聞いていて、その結末に泣いていた。


「人間は魔法を失って、とり残された生き物なんですね」とつぶやいた。


「あー、いやこれはあくまでおとぎ話だから。本当の話じゃないよ」と伯爵はアーネットの肩を抱いて、心配しなくていいから、と慰めるのだった。

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