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軍人王女の冒険譚(Devil's Teardrop)  作者: n.t
出生~少女時代
3/37

救出

アーネットが奴隷商の倉庫で泣きぬれている間に、彼女のネックレスをくすねた売人は、さっそくそれを馴染みの質屋へ入れにきた。


「どうだい、ちょっと目にしないペンダントだろ? 俺の勘じゃ相当なお宝だと思うんだよな」と大物をしとめた狩人のように、自分の獲物を自慢するのだった。

だが、質屋は返事をせずに、黙々とペンダントを調べていたが、ようやく拡大鏡を顔から外すと。


「おまえさん、これをどこで手に入れたんだい?」と出所を聞いてきた。その問いにあさっての方角を見ながら答える売人は


「いや、ちょっと実家に帰った時にさ、蔵で見つけたんだよ」とうそぶく。


「お前さんの実家に蔵だって? そんな高貴な血が流れてるようには、とっても見えないがね~」


と嫌味を言ったあと、周りを気にしながら顔を寄せてきてそっと耳打ちをする


「これは、相当やばい品だぞ。"魔結晶"は貴族でしか所有できないような高価な宝石だ。しかも固くて加工できないのに、これには何かの文様が刻まれている。こんなものは俺は見たことも聞いたこともない。お前、これ盗品じゃないだろうな?」と再度、宝石商は確認してきた。


「違う違う、誓って盗品なんかじゃない。俺はこう見えて、没落貴族の末裔なんだよ」と胸を叩いて見せる売人は、相当な品と聞いて、口元の緩みを抑えきれない。


「そうならいいが、没落貴族なら、この宝石一つで没落を免れるぐらいの価値ある物を、蔵に残してあるとは思えないがな・・・。

ともかくうちじゃ買い取れない代物だよ、街の競売所にかけるのがいいと思うぞ」と宝石商は提案した。


「競売って、あの貴族が群がって値段を競っていくあれか、そりゃ凄い!」もう売人の頭の中は、ペンダントの値段が吊り上がっていく光景が映っていた。


こうして競売会社に持ち込まれたアーネットのペンダントは、再度鑑定され、来週の競売の目玉として競りにかけられることになった。魔結晶はただでさえ稀少な存在である。ほとんど市場にでまわることはなく、金持ちから金持ちへと直接取引された。それゆえ今回の紋章が刻まれた魔結晶の話は社交界でも噂になるほど注目を集め、競売の当日にはこぞって貴族や大富豪が集まり、ちょっとしたパーティ会場並みの盛況を呈していた。競売は午前中に実物が展示され、それを見た客が値踏みをし、午後に競りが行われる。


午前中の閲覧で、ペンダントの美しさは誰もが確認した。コレクターはもちろん、話題の品を見るだけに集まって来た者でさえ、その輝きに魅了さえ、値段を予想して盛り上がっている。


「俺の給料一生分かけても買えないんだろうな」という庶民の声もあれば


「豪邸一軒分ぐらいはいくだろう」という値踏みする街の大富豪もいたり、


「領地を削ってでも手に入れてやる」と目をギラつけせるコレクターもいた


いよいよ午後になり、競売場にペンダントが運びこまれ、出品者として売人と宝石商が立ち合い、競売人が競りの開始を宣言しようとした時、会場内に全身黒づくめの武装集団がなだれ込んできた。その数20名ほど。警備兵との小競り合いがあったが、警備兵はあっという間に黒装束の一団に気絶させられ、地面に倒れていた。

「何者だ、貴様らは」と叫ぶ競売人をこれまた一撃で倒した黒服のリーダーは、

騒然としている客たちの前で拳銃を上に向けて数発発砲した。その音に場内はシーンと静まりかえる。そしてリーダーは出品者である売人と宝石商の前に立ち、


「これをどこで手に入れた?」と低い声で尋ねてきた。


「お前達は、何者だ、こんなことをして・・・」


と売人が叫ぼうとした瞬間、リーダーの腰の剣が一瞬の閃光を放つと、売人の右頬からタラりと血が垂れる。頬を目掛けて剣を振ったのだ。一歩間違えば頭が切り落とされたかもしれない恐怖に、売人の顔が引きつる。


「もう一度だけ聞く、これをどこで手に入れたか答えよ、はぐらかせば次の瞬間にお前の首は地面に落ちる」


抑揚のない冷たい声に、凍り付いた売人は固まったまま答えた。


「奴隷です。奴隷の少女が身に着けていたものです」と恐怖で涙をながしながら白状した。


「その少女は、今どこにいる?」


黒装束のリーダーの追及は続く。


「先週、売られて契約主のもとへ」


もう既にアーネットはこの時、街の有力者である、穀物商人の元へ売られていたのだ。売人の襟をリーダーは手荒に掴み、


「そこへ連れていけ」


と短く指示をした。嫌など言おうものなら、首をへし折られそうな殺気を帯びていた。黒装束の男達がペンダントと売人を引き連れて会場から立ち去ると、暫し呆然としていた客達が、恐る恐る口を開く、


「な、何よあいつらは、宝石もっていっちゃたじゃないの」


と不満の声があがると、次第に口々に文句を言い始めた。気絶していた競売人も意識をとりもどし、事の一部始終を聞かされると激高して


「白昼堂々と、こんな非道が許されると思うなよ」


と大いに悔しがって最寄りの警察にどなりこんだ。


「この街の警備はどうなってるんでしょうかね? 白昼堂々武装勢力が我が競売所を襲撃してきたんですよ」


と憤懣やる方ないっといった表情で担当者に詰め寄る。


「はいはい、既にお客の方からも、そのような強盗が競売所を襲ったと報告を受けております」


と奥から出てきた署長が答える。盗まれたものや連れ出された人、他の被害者の状況等を聞き調書を部下に取らせる。


「わかりました、後は警察にお任せください」


と胸を叩いて署長は約束するのだった。その後、まだぶつぶつと文句をいいつづける競売人を署から送り出すと、署長は受け取った調書を、誰にも見えないようにそっとゴミ箱へ捨てた。そして


「触らぬ神に祟りなし」と心の中でつぶやくのだった。



アーネットが売られたという穀物商人の建物の勝手口へ一人の郵便配達人が近寄っていく、扉をノックすると、覗き窓から召使が顔を覗かせる。


「おや、いつものお兄ちゃんじゃないんだね?」


と召使の婆さんは、お気に入りのお兄ちゃんじゃないことを不満気に尋ねてくる。

それをこの配達人は顔色ひとつ変えずに


「あいつは、流行りの風邪にやられて、今頃高熱でうんうん唸ってるよ、俺は隣地区の担当なんだが、今日はあいつの分まで配達を命令されて、とんだとばっちりさ」


と肩をすくめて事情を説明するのだった。召使の婆さんは、仕方ないといった表情をすると鍵を外して扉を開けた。そして手紙を受け取ると、宛名を確認しようと身をかがめて覗き込む、その隙をついて配達員は婆さんの首に軽く手刀をトンといれると、倒れ込む婆さんをそっと支えてゆっくりと床に寝かせる。間髪を入れずになだれ込む黒装束の一団。配達人はこの仲間の変装だった。


次々と屋敷内の人物を襲っていく黒装束の一団。背後から気を消して忍びより、一撃で相手を気絶させていく。ほとんどの者が気づいた瞬間にはやられており、戦闘にはならない、静寂を保ったまま一団は奥へと入っていく。全ての召使や住人を倒し切り建物内に人が残っていないことを確認する。リーダーは耳をそばだてると、かすかな物音を感じ取る。それは裏庭の洗い場から聞こえてくる。ゆっくり裏口から外へ出ると背を向けた少女がひとり、山のように積まれた洗濯物に隠れて洗い物をしていた。彼女にゆっくりと近寄っていく。振り向いた少女は黒ずくめの男に驚き、身をすくめて怯える。男は腰を落とし、彼女と目線を合わせてから


「怯えないで、何もしません。あなたの名前を教えてください」


と優しく声を掛けた。


「アーネット」


と、ひきつった声で答える彼女に、男は跪いて被りものをとり、うやうやしく手を差し伸べてこういった。


「アーネット様、私達は王室の者でございます。どうか私と一緒に来ていただけないでしょうか?」


というと、胸元からペンダントを取り出して見せ、ニッコリと微笑んだ。


「あっ」


と小さく驚いて手を伸ばしそうになるアーネットは、男の目をじっとみてから、何かを感じたのか「うん」と小さく頷いた。こうして彼女は奴隷になる寸前で身柄を保護されたのだった。

(実際には既に契約書により奴隷になってはいたが、それは王室の力で全てなかったことにされた)

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