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軍人王女の冒険譚(Devil's Teardrop)  作者: n.t
軍人時代
26/37

南東王国との辺境戦 3万?

アーネットは単身、南東王国アラブの国境を越えて、密偵として敵地に潜り込む。森林の中を進み、街道沿いへ出る。この道は当然、敵砦にも続いている。いきなり敵砦に近寄るのは危険なので、近くの街を訪ねる。兵が駐屯する場所には必ず近くに街があったり、なければ村のような人の集まる場所ができる。万単位の兵が生活するので、その物資や日常生活に必要なモノがでてくるわけで、そこに、商人がはいってきて商売がなりたつからだ。それらの商人に紛れて情報を聞き出そうというわけだ。


敵の砦は煉瓦で高い壁を作り、周囲を覆っていて中を覗くことはできない。だが、中へ入る荷馬車の数や夕食時に出る煙の量、もちろん街の人の話などから、およその砦内での兵数を予想する。アーネットの見立てでは、およそ5000人といったところと見積もる。当初想像していたより人数がすくないと感じる。彼らは帝国の注意を引き、戦力を分散させるために、この地に駐留しているハズだ。5000人が少ないわけではないが、せめて倍の万人規模の兵でなければ、帝国への圧力としては弱いのではないかと思ってしまう。実際、帝国はこの敵砦内の兵数を2万人と予想して、それと同数の2万人を南東軍として、ビトリスの丘に駐留させているのだ。


ひょっとすると、南東王国アラブ軍は、この砦を防衛の為ではなく、兵数を誤魔化すためのカモフラージュのために作ったのかもしれない。2万と5千ではぐっと経費も安く済む。実際に南東王国アラブ軍は、帝国内へ侵攻しようという気はないのだろうから、減らせるなら減らせるだけ減らしたいと考えるのも無理はない。


帝国としては、この地で睨む合うだけの兵は無駄でしかない。戦略的には死んだ兵でしかない。だがこの砦を落とそうと思ったら、現在の2万では足りず、さらにもう1~2万の兵が必要になるだろう。だが何より帝国としたら南東王国アラブに侵攻することはできない。それは先日の上官少佐からも聞いた通りで、北東地域と、この南東地域で同時に戦闘を行うのは帝国の国力をもってしても難しいのだ。だったらさっさと南東王国アラブ軍は攻めてこないのだから、自軍を引いてしまえばいいではないかと思うのだが、それもやはり先日話を聞いたように、不可侵条約を結んでいるのならまだしも、国境沿いに大軍を配置されては、いつ侵略されるか不安で仕方ない。


しかもここへの道すがら、村々をめぐって話をきいたのだが、南東王国アラブ軍は時折、帝国内の国境沿いの村に夜襲を掛けるようなのだ。何を取るとか村人を襲うわけではなく、騎馬で突然襲ってきて、奇声を発して村中を走り回り、建物に火をつけ走り去る。倉庫が燃えたりしたら、冬への備蓄が燃やされ村には大損害になる。そんな被害を受けた村長は役人のところへ陳情にきて窮状を訴えるので、結果、自警団の親分のような帝国南東軍があの丘に駐留することになっているという訳だ。


日が暮れて、辺りが暗くなると、人通りがめっきり少なくなる。こんな田舎、当然といえば当然なのだが、夜になればこんな村ですることといったら限られる。酒を飲むか、女を抱く位しかない。アーネットは夜までまって、砦に忍び込んでやろうと思っているのだが、それまで街をうろついていても怪しまれないよう、どこか隠れる場所を探しているのだが、人気のない場所に入り過ぎたのか、怪しい男が声を掛けてきた。


「ほう、お前北人か? 珍しいな」


と、南東王国アラブ軍人の格好をした男がアルコールの匂いをさせながら話かけてきた。(ちなみに"北人"というのは、南方人が自分達より北に住む人種を指していう言葉だ。肌の色が白く、アーネットの場合はその特徴的な銀髪が北人として目立ったようだ)


「マズイ」


そうアーネットは反射的に敵兵に見つかったと思った。だが敵兵のアーネットを見る目は怪しんでいる風には見えない。


「はい、そうです」


と、北人であることを認める。こればかりは嘘はつけない。見た目が違い過ぎる。だがアーネットが身元がバレる恐れから自然とうつむきながら返事をしてしまったのが悪かったようで、それを誤ったサインとして受け取った敵兵は


「いくらだ?」


と、一瞬アーネットにとって意味不明なことを言って来た。いくらって値段のこと? だが彼女は行商人にはみえないハズだ、別に売り物をもっていたわけではない。


「えっ、何のことですか?」


と、アーネットが聞き返そうとして、敵兵と目があった瞬間、言葉を失う。得体のしれない悪寒を覚えたからだ。


「ぬ、ふふふ。そんなの決まってるだろ? 一晩いくらかってことだよ。お前、まさか北人だからって値段をつりあげようってつもりじゃないだろうな」


アーネットは絶句した。この敵兵は自分をお金で買おうと言っているのだ。娼婦扱いされているのだ。アーネットはこれでも帝国内では王女なのだ、そんな目で見られることなどあるハズがない。とはいえ、小さい時の記憶もあるので、全く知らない世界という訳でもないのだが、突然のことで動揺を隠せなかった。


だが、今は一般人を装っているし、若干15歳の女が一人、薄暗い街角に立っていたら間違われるのもムリのないことだったのかもしれない。一呼吸して落ち着いたアーネットは男に逆に質問する


「あなた軍人でしょ、すごーい!! 私なら、いくらまでなら払ってもらえるの?」アーネットは乗り気に見せて、精一杯の可愛らしさを演じてみた。(後で思い出すたび、この時の自分の行動を後悔するのだが)


「うん、そうだなー、お前ならスタイルもいいし、その銀髪も撫でてやりたいし、3万でどうだ?」


自分を値踏みするような目つきに虫唾むしずが走るが、3万という評価にもアーネットは納得がいかない。宮廷生活ですっかり金銭感覚を失っている彼女には3万という価値が非常に低く感じられたからだ


「えー、3万?」


思わず口からでてしまったアーネットの言葉に、今度は敵兵が不満をもったようだ、どうやら彼にとっては3万は奮発した金額だったらしい


「どんだけお高く留まってやがるんだよ、これだから北人は嫌いなんだよ」


といい、もういいと手を振って背を向けてしまった敵兵に、今度はアーネットからそっと手を伸ばす。


「軍人さんは気が短いんだから、北人を抱きたいんでしょー?」


と言って、優しく背中をさすると、興奮した敵兵が目をギラつかせながら振り向き頷く。そして次の瞬間には手を引いて宿へ連れ込まれるアーネットは、その間、敵兵を汚物でも見るような目つきで眺めていた。



部屋に連れ込まれたアーネットは、いきなりベットへと押し倒された。男の鼻息があらく、せっかちに彼女の体をまさぐってくる。男はさながら獣といった表現がぴったりな感じだ。そんな男をなだめるように、アーネットがそっと両手で制しながらいう。


「ちょっと、南の人はせっかちね。それじゃ楽しめないわよ。北のやり方を教えてあげる」


と、どこで覚えたのか、アーネットは男をじらすように、恥じらいを見せながら


「服を脱がせてあげる」


といって、男を座らせたまま、真正面に立ち、上から男の眼をみながら、ゆっくりと服を脱がせていく、男はちょっと勝手が違うと思ったが、部屋の明かりでアーネットの美しい顔立ちに見惚れて、さらに透き通った白い手で体をさすられると、絵にもいわれる興奮を感じて、体を預けてしまう。


「そうそう、ベットの上でもジェントルに、それが北の常識だから」


と、これは完全にアーネットの幻想だ。洋の東西を問わず、男はベットの上では野獣だ。こうして次々と男のズボンも下着も脱がし終えると、最後に男の両手を優しく持ち上げ、それを背中にまわして交差させる。そして彼女の手首に巻き付けていた紐で素早く縛り上げた。うっとりとした表情でアーネットのリードを受け入れていた男だったが、さすがに両手を後ろ手で縛られると我に返って


「おい、これはどういうことだ!」と、ビックリして両手の紐を引きちぎろうとするが、紐は細い割になかなか切れない。


「その紐、特殊な編み方をしてるから、まず一人の力じゃ切れないから」


とアーネットがいいながら、今度は男の足も紐で手早く縛り上げる。実に手際がいい。ベットに両手両足を縛られた全裸の男が寝かされ、彼女は自分のスカートをたくし上げると、太ももにつけた鞘から短剣を抜き出し男に見せつけながら質問する


「さて、いろいろ教えてもらいましょうか?」


何から聞こうかと考える彼女に


「ふざけるな、お前は何者だ! 軍人がそんな簡単に秘密を喋ると思うか!」


と激高する男に、アーネットはしょうがないといった顔で、短剣を男の右目の前へもっていき、刃先を目に向ける


「右目が潰れても、命まではなくならないから心配しないでね」


というと、ジリジリと刃先を男の目に近づけていく。


「わ、わかった何でも話す」


男はあっさりと降参した。味方の軍の怠惰さにも呆れているが、敵側の兵もこの程度かとアーネットは失望の色を隠せない。


「では、あなたの所属とか、軍の人数とか、見張りの位置とかを教えてもらいましょうか?」


と、矢継ぎ早に質問をした。

すると、それにすらすらと喋る男。まー口が軽い。脅している方が呆れるくらいの口の軽さに、この男の話は話半分に聞いておかねばならないと用心するアーネットだった。

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