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軍人王女の冒険譚(Devil's Teardrop)  作者: n.t
軍人時代
14/37

分隊長アーネット

「え~と、このあたりでいいのかな」


と肩から荷物を下ろした青年は、名をロブという。日に焼けた肌と軍服の擦り切れが、彼の勲章だ。今日は新しく配属された分隊の初顔合わせに当たる日で、彼はどうやら最初にやってきたようだ。


「確か、12時集合だったハズだけど、30分前は早すぎたかな・・・」


と、やや自分が慎重すぎたかと笑ってみる。だが周りの隊を見ると既に全員が揃って設営の作業を始めているところもあり、自分が早すぎたというほどでもない。


「この隊のメンバーは、みんなゆっくりしてるのかな」


と、少々不安に思う。がすぐあとに、がっちりとした体格の、ロブより遥かに日焼けした年配兵士がやってきた。


「オーウェン軍曹!、この17分隊なのですか?」


思わずロブが、そう叫んでしまう。彼が軍曹と知り合いだったわけではない、オーウェンが名の知れた軍曹なのだ、鬼軍曹ともよばれるが、人望もある。


「ああ、そうだ。よろしくな」


そう、軍曹が答えてロブの名前をさっそく確認する。そして他の者がまだ来ていないことを理解する。


「ロブは、若そうだが、いくつなんだい?」


と、軍曹は人が集まってないので、とりあえづ各兵の人となりを把握すべく年齢を聞いてきた


「18歳です。若く見えるかもしれませんが、15歳から軍にいます、戦地にも何度も行きました。軍曹の隊に所属できて光栄です」


と、ロブは嬉しそうに白い歯をのぞかせた。ロブにとっては軍曹は憧れに近い存在だ。鬼軍曹の元でも耐え抜く自身はある。それくらい入隊してからの3年間、必死に任務に励んできたつもりである。


「それは、嬉しいな。大いに期待するとしよう。だがロブよ。ハッキリ言っておくが、この隊は俺の隊ではない。隊長は少尉殿だ。そこのところ間違わないようにしてくれよ」


と、軍曹は念押しした。よくあることだが、古参兵は新米少尉をハナから相手にせず、軍曹を頭と思う輩がいるが、そんなことをしたら、俺が隊長と揉めることになる。特に今回の隊長は、相手が相手だ、そんな阻喪をしたら後が面倒なので、早めに釘をさしておかなければならない。


「それにしても、後のやつらは、どうしたんだ、まさか定時にご登場する気じゃないだろうな。そんなたるんだ奴がいたら、俺がこの隊の厳しさを叩きこんでやるからな」


と、物騒な言葉をどすの利いた声で呟くのだった。


「これはこれは、鬼軍曹殿。既に絶好調ですね」


といって合流してきた長身の男は、黒髪でやや南国風の風貌だった。

その様子をみたロブは、この人は確かベンという名前だったかなと記憶を辿る。この人も古参兵だ。軍曹と馴染みなところから見て、腕前も確かそうだ。と思い出している間にも、次々と仲間が集まって来た。みんな面構えがしっかりしてる。知ってる名前や、相当な腕利きも何人かいる。そんなメンツをみて、ロブはちょっとだけ気後れを感じてしまう。俺が最年少で経験も未熟かもしれない。さっきまでの自信が揺らいでいた。


「なかなか、いい部隊じゃんかよ、足でまといは、いなそうだな」


と、目つきも体つきもギラギラしている野獣のような男が、まるで自分が隊長がごとく、上から目線で発言してきた。早くも主導権を握ろうとする腹だ。


「ほら、オーランド、仲間を無駄に煽るような発言はやめろ!」


と、軍曹が一括するが、


「うるせー、ジジイ。いつまで現役やってんだよ、早く引退しろ」


と、軍曹にもこの口の利き方なのだ、だがそれくらいオーランドという男は腕が立つ。先の戦でも、拠点を守って獅子奮迅の活躍をし、味方の被害を最小限にしたと噂されていた。それだけの実践での結果をあげている。それがあっての軍曹への、ため口なのだ


「だけどよー、これだけのメンツを揃えるのは「王女様の面倒を見ろ」てことだろ?俺たち、とんだ貧乏クジなんじゃね? 俺たちが命を張ってるのは・・・」


と、暴言を吐き続けるオーランドに


「オーランド! お前それ以上、言ったら許さんからな。言ってはいけないことがあることをわきまえろよ」


と、軍曹が、真顔で注意する。これにはオーランドも「ヘイヘイ」といって従い、自分の荷ほどきに向かった。


この17分隊は、確かに故意的にベテラン兵が集められた。農民兵もいない、全員が職業軍人だ。それは第四王女が指揮する分隊だからだ。上役の誰かが厳命したわけではない、もちろんアーネットが懇願したわけでもない。ただ、誰もがこの隊のことを、他の隊と同列に扱うことはできなかった。分隊を束ねる小隊長もそうだし、大隊長も、その上もだ。末端とはいえ、自分の部下に王女がいるのだ、万一のことを考えると、何もしないという訳にはいかない。王からは「王女ではなく一士官として扱うように」といわれたというが、それでも、できれば早く王女の気まぐれが済んで、無事に王宮に戻ってくれることを願うばかりだった。


17分隊の隊員は10分前に全員揃い、10分で身支度を整え、定時にキチンと配置についた。経験がある者は無駄に時間を必要としない、自分が要する時間をきちんと理解している。過不足なく行動できるのが、真のプロなのだ。その点で17分隊の全員が、そのことをわきまえたプロ兵士であることを示していた。


だが、隊長はそれから10分たっても現れたない。


「まったく、王女様は、軍隊を遠足旅行とでもおもってるんでしょうかね?」


と、今度は別の隊員が野次ってきた。さすがに10分も待っていると愚痴もでるものだが、そこをこらえるのも軍隊の鍛錬の一つということではなかろうか。


「化粧のノリが悪くて、時間がかかってるんじゃねぇの?」


と、たまらずオーランドが貴族の女性をバカにする定番の発言をする。


「ゴフォーーン」


と軍曹が特大の咳払いをし、無言の圧力で「いい加減にしないか」と威圧する。


他の隊は、既に自分達の宿舎の設営に入っている。新設の部隊なので、自分達の今日寝る場所も、作らねばならない。とはいってもあくまで仮設住宅なので、半日もあれば設営することはできるのだが、それでも夕飯やその後を考えると12時という時間は作業を始めるには、余裕がある時間ではなかった。


さらに時間がすぎ30分をすぎても隊長はあらわれない。17分隊だけが、じっと隊長の到着を待っていた。既に他の隊は、支柱を打ち付けるとこまでいっている。


「ねぇー、軍曹。軍隊って時間厳守じゃありませんでしたっけ?」


とオーランドが厭味ったらしく聞いてくる。


「隊長にも、事情がおありなのだろう。今しばらく辛抱するように」


と、軍曹はあくまで隊長を立てる姿勢を崩さない。


「あー、王女様、お腹の調子が悪くなっちゃったのかな? やっぱり軍隊で指揮をするなんてムリーってトイレにこもっちゃったのかも」


と、もう我慢も限界とオーランドが、愚痴をこぼしながら、立ってられないと言って近くの椅子に腰かける。


「俺も、なんだかバカバカしくなってきた。隊長がそういう方なら、部下だけが真面目に直立で待ってるなんておかしいよな」


と、別の者も不満を口にして、同じように木箱の上に腰掛けてしまう。


「お前ら、勝手なことは許さんぞ、隊長がどうであれ、ここは軍隊だ。そんな態度ではいざという時に、醜態をさらすことになるぞ」


と、軍曹がギロっとした目で隊員を睨みつけて、どうにか規律を守ろうとするが、それも限界に近い、皆の顔から不満が伺える。流石にもう限界かと思った矢先


「ヒ、ヒーーン」


と、その部下の我慢の限界を待っていたがごとく、馬のいななく声が聞こえて白馬が近づいて来た。馬上の人は、皆の前で、馬が止まるかどうかのタイミングで、颯爽と馬から飛び降りる。白馬に銀髪。長い髪が空を舞う。そのちょっとした絵になる光景に、17部隊の隊員だけでなく、他の部隊の者からも視線が注がれる。そんな視線を無視しつつ、アーネットは17分隊の前に立つと、手をパンパンと叩いて、周りの空気を換えた。


「私がアーネットだ。皆も知ってるとおり王の娘だが継承権はない、領主になることもなければ、結婚して貴族の妻になる気もない。私に取り入っても得することはない。あらかじめハッキリ言っておく。その上で、私を一人の軍人として扱って欲しい。


王族とか女だからといって、心配や手加減をする必要はない、私の命令に納得できるなら従ってくれ、できなければ従わなくていい、軍曹が別の命令を出すだろう


なお、明朝6時より訓練をおこなう、全員、白いシャツを着て丘の上に集合するように。以上だ」


言い終えて、何か質問はと問うが返答はなく、来た時と同じく颯爽と白馬にまたがると、また兵舎へと駆けていってしまった。この間、わずかに5分程度だった。


あっけにとられる隊員達。30分もまたされて、たった5分話して、後は軍曹任せかよ・・・と。


「へー、これは鼻っ柱の強いお姫様だ」


「さすがに女だてらに、自ら軍に志願してきたことはあるな」


「命令だけは、いっちょ前だな、だが戦場にたてば現実がわかる。びびって泣きださなきゃいいがな」


「訓練だってさ、あんな少女が何を教えてくれるっていうんだろうな?」


「なんでシャツ姿で訓練なんだ?」


と口々に不平不満をこぼす。だが軍曹は青くなっている。軍で上官の命令に従わなくていいなどとは絶対言ってはならないことだからだ。


死んでも絶対服従が軍の掟だ、どんな理不尽な命令だろうと死をかけて戦うのが軍人なのに、あんなことをいうなんて、王女様は何を考えているのだろうか。若くして経験がなく自信だけの高慢な貴族の士官はたまにいるし、それが悩みの種になることはよくあるが、軍規をまもらなくてよいという指揮官は見たことがない。女性ゆえの優しさなのか。。別の意味で困ったものだと頭を抱える軍曹だった。

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