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チーズケーキ 7

 「まあいいや」とヒロちゃんは言った。「そいじゃ取りあえず、おめでとうって事で。今度オレも何かやるわ。シャーペンくらいしか買ってやれねえけど」

 シャーペンくらい…

 怖いわヒロちゃん。ユキちゃんの『ケーキをホールで食べたいから』ってくだりのところではあんなに愛しそうな声で話してたくせに、私には『シャーペンくらいしか買ってやれねえけど』ってなんだよそれは!

 もうほんとにっ!


 …もうほんとに、って思いながらもヒロちゃんらしいなって思っちゃうな…そしてこうやって電話かけて来てもらえてすごく嬉しいなって思ってる私がいるんだよね!しかもヒロちゃんからシャーペン貰える。やった!

 …あれ…

 でもこれ、通算5回目大振られをした感じになってない?


 いや、ダメだダメだ。もうそんな風に考えちゃ。だってこれから先ただ記録伸びていくだけだし。…ユキちゃんに対しても恥ずかしいかも。だって今、ユキちゃんはヒロちゃんのちゃんとした彼女で、自分の彼氏のヒロちゃんが、ずっと片思いされてた幼馴染の私に電話で誕生日のお祝いとか言ってるってわかったら、ユキちゃんの方こそ嫌な気持ちになるかもしれない。…私だったらすごく嫌だと思うんだけど、ユキちゃんは明るくて優しくて強いからな…そんな事では嫌な気持ちにはならないのかも…


 シャーペンか…

 シャーペンて!

 タダが返してくれないシャーペン、それで私が持ってるタダのシャーペン、どうするんだろ…

「ユズ」とヒロちゃんが最後に言った。「ちゃんと味わって食えよ!イズミが作ったやつ」



 

 そして16日誕生日当日の朝。土曜で9時過ぎに起きた私にラインが来た。

 タダからだ。「11時過ぎくらいにうちに来て」

 やっぱり約束通り呼んでくれるんだな。一昨日の帰り際機嫌悪そうだったし、昨日は学校でもほぼ何も話さなかった。

 母に前もって話していなかった私は「ちょっと友達と出かけて来る」とウソをつく。ウソをつく必要はないと思うんだけどウソをつく。タダが私のためにチーズケーキを焼いてくれるなんて話したら、母が無駄に騒ぐのは目に見えているから。しかもタダの家で食べるなんて話したら弟とかも一緒なのに、さらに変に騒ぎそう…そうか、弟だけじゃない。土曜日だからタダのお母さんやお父さんまでいるかもどうしよう。そこまで考えてなかった。どんなお父さんかな…私が急にケーキ食べに来たりしたら驚かないのかな…なんか持って行った方がいいのかな…なんで前もって考えておかなかったんだろう…おみやげとかいるのかな…

 慌ててユマちゃんにラインで相談すると、「お母さんたちにっていうより弟にお菓子買ってってあげたら?」って返事が来た。

 そっか!さすがユマちゃん。コンビニでアイス買って持っていこう。

 ユマちゃんからすぐにもう1通。「こっそりチュウとかしたら教えてよ?」

 教えない!ていうかまず絶対しないし!


 服はもうごく普通の服。マレーグマのイラストの付いた緑色のTシャツと黒めのジーンズだ。もうそれは普通の、敢えて意識して普通の服だ。

 自転車で、途中遠回りしてアイスを買い、タダの家の前まで行き「着いたんだけど」と消極的なラインを送る。

「入って来て」とすぐ返信が来た。

 入って来てって…

 出て来てくれたらいいのに…ベル鳴らして急にお父さんとか出て来たらどうしよ…

 が、ベルを鳴らしかけたらドアがパッと開いた。

「大島!」とカズミ君だ。「違った、ユズル!いらっしゃいませ」

ハハハ、とちょっと笑ってしまう。『いらっしゃいませ』だって。可愛い。

 が、カズミ君は続けた。「今日のそういう服も可愛いじゃん。この前のも可愛かったけど」

「…」

カズミ君がニッコリ笑って言ってくれる。「お誕生日おめでと!!」

「ありがとう」


 開いたドアの奥から甘い匂いだ。

「これ、アイスだよ。おみやげ」

そう言ってカズミ君にアイスを渡そうとして一旦止めて言った。「やっぱりお母さんとかに渡そうかな」

「お母さんとお父さんいないよ。今日デートしてる」とカズミ君が言う。「二人で映画観に行ってくるって」

「仲良いんだね、お父さんとお母さん」とカズミ君に言う。

 うちは私も含めて3人で出かける事はよくあるけど、父と母が二人でっていうのはあんまりないかも。

「前はよくケンカしてたんだって」とカズミ君がニコニコ顔で教えてくれる。

「カズミ~~~」と奥からタダの声がしてドキっとする。「早く大島、中に連れてきて」

「わかった~~~」

カズミ君が私の手を掴んで引っ張ってくれたので、「お邪魔します」と小さい声で言って私は靴を脱いだ。


 

 奥から赤いチェックのエプロンを付けているタダが一瞬姿を見せる。

 もう一度、お邪魔します、と小さい声で言った私に、「お~~」と抑揚のない声で答えるいつものタダ。いつもの私といつものタダだ。…本当は、タダの両親がいないとわかってだいぶん緊張は解けたけど、そしてそれでもまだ少しソワソワしているけれど、いつもの私、って感じにしている私だ。

「食べよ!」とさっそく言うカズミ君が私が渡したお土産のアイスをタダに渡して、私をリビングに連れて入る。

 わ~~~~…どうしよう…サンドイッチとかフライドポテトとかフルーツまで用意してくれてる。嬉しいよりも驚いてしまう。ここまでしてくれるなんて…

「どうせ夜にうちでなんかしてくれんだろ?」とタダが言う。「だから簡単な昼メシって感じのもんだけ。でもプレゼントはないからな。これがプレゼントの代わりだから」

「食べよ!」ともう一度カズミ君が言った。「お腹空いた~~~。なあなあ兄ちゃんたちってもうキスしたん?」

「「は!?」」タダと二人で大きな声で反応してしまった。


 え?って顔でタダを見てしまい、タダも私を見たので赤くなりそうで、慌ててカズミ君に「手を洗わせて」と頼んだら、洗面所に連れて行ってくれる。が、「なあキスってしてないの?」とまたそこで聞かれる。

「…カズミ君…なんでそんな事聞くの?」

おませさんだな。

「え、だって兄ちゃんは大島、じゃなかったユズルの事が好きで、ユズルも兄ちゃんの事が好きか嫌いかでいったら好きって言ったじゃん」

「しっ」と私は自分の唇に人差し指を当てる。「もうその話は今日はしちゃダメ」

「なんで?」

「なんでも」

「なんで?」

「な、ん、で、も」

「なんで?」

「だからなんでもだって!」

「なんで?」

 じいっと私を見上げてくるカズミ君だ。…この子、もしかして私をからかって言ってんのかな。…年少さんなのに。


 結局急いで手を洗ってリビングに戻ると、タダが「何飲む?」と聞いてくれる。

「オレンジジュース!」とカズミ君。

「今お前に聞いてないって」とタダ。

「私も!私もカズミ君と同じオレンジジュース」

「ミルクティーとかも煎れられるけど?」

ミルクティー!しかも煎れられるって言ったから、市販のペットボトルのとかじゃないって事だよね?

 なんだろう…ついヒロちゃんと比べてしまうのがいけないんだけど、ヒロちゃんだったら絶対口にしない言葉のような気がする。ていうか真ん中に置いてあるケーキも売ってるのと同じレベルなんだけど、ちょっと怖いくらいだな…夕べヒロちゃんに言われた事を思い出す。タダは私に食べさせたくて作ってくれてるんだってヒロちゃんがちょっと怒って言ってた…

 タダの着けているエプロンに小麦粉の粉が付いている。

 本当にちゃんと作ってくれたんだね。凄いな。


 「あの!あのねタダ」

「ふん?」

改めて言うのはすごく恥ずかしい。「ありがとう」

「…」

いや。なんでそこでそんなにタダも恥ずかしそうに口ごもる。さっきまで超普通だったのに。

「改めて言われると」とタダが言う。「こっちが恥ずかしい」

わ~~ダメだ二人でモジッとしたら余計恥ずかしい!

「ここでキスするん?今?」とカズミ君。

 また!すかさず入れてくるなカズミ君。どんな幼稚園児だ。

「カズミ」とタダが睨む。そして首を振って見せる。

が、カズミ君はタダの睨みなんて全く気にせずに続けて聞く。「まだしないん?」

 



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