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チーズケーキ 5

 「なあ、」と恥ずかしそうに切りだすタダ。「昨日の、ほんとは気持ち悪かったろ。肩掴ませてとかってオレが言ったの」

「…」

いや肩とかの前に花火大会で抱きしめられたじゃん。あれはいいのか?

 …もしかしてコイツ!その時の事忘れてんの!?だからこんなに普通!?

「まあ、花火大会で…」とタダが言うのでドキっとする。「あれはでも、感極まったからしょうがなかったから。ヒロトが大島にやっとちゃんと話して、大島がまあまあ納得して、ほんとやっとだなって思って…」

「…」

 ダメだ。

 なんかすごいドキドキしてきてなんかもう…


 「なあ、」とタダが静かに言う。「ごめん」

 ドキュン、と胸がうずく。「…わかったよもう」

 


 どうしよ無理!!!なにが『わかったよもう』なんだ。なんで了承しちゃってんだろ…それでわかったとか言ったものの、この状況からまた逃げ去りたい!

 タダなのに。2ヶ月くらい前まではほぼなんとも思ってなかったタダなのに。


 「なあ…」とタダが言う。

まだ何か言うつもり?もう何か言われんのイヤ。

 でもその後を言わないので結局聞いてしまう。「…なに?」


 「すげえオレが気にしてんのが嫌なんだけど昼休みオオガキ来てたじゃん」

「…」

「あれなに?放課後ちょっと練習するだけつってたじゃん昨日は」

「…うん」

「昼に来てたのは何?」

「え…と、放課後私に5組に来てって言いに来ただけ」

「は?」と急に機嫌が悪くなるタダ。「なんで?」

「なんか…他の男子がペアの女子に迎えに来てもらってたらしくて」

「それで?」

「…なんか…それでオオガキ君も迎えに来て欲しいって…言うから」

「言うから?」

「…」

「行くわけな?」

「…」

 「ちっ!」とタダが舌打ちした。そして小さい声で「やっぱムカつく」とつぶやく。


 

 次の瞬間、がっ!と肩を掴まれた。しかも両肩だ。

「ちょっ…!!」

 驚いている私にタダはギュッと力を入れたかと思ったら次の瞬間にはもう手を離して言った。

「オオガキってさぁ、ちょっとヒロトに似てるとか思ってんじゃねえ?」

「ヒロちゃんに?」

「なんか元気だし、誰とでもうまくやれそうだし。感じ良さげだし。大島も話やすいって言ってたじゃん」

「そうかもだけど…」

「今日髪型も違うじゃん」

「これは…朝ぼさぼさでユマちゃんにしてもらったんだよ」

そう言えばユマちゃんがオオガキ君から私のライン聞かれたって言ってた…いや、でもうちの高校はケイタイの持ち込みが基本禁止だからクラス全体ののグループラインもないけど、結構仲良い子たちは男子と女子とか関係なくグループ作ってラインしてるし、タダだってハタナカさんとラインしてたよね?


 「オオガキ君はヒロちゃんとは違うよ。ヒロちゃんはなんていうかもっと…ドバッッ!!とした感じでしょ?なんかうまく言えないけど」

「ああ、まあなんかもっとドバッッ!!とした感じだけどな」

「あ、でもオオガキ君も小学の時ボーズだったって」

「…小学の時の事まで話してんの?」

「ハタナカさんが写真送ってくれたから…って、私びっくりしたからね!今のすごいびっくりした」

「は?何が?」

「肩だよ!肩掴んだヤツ!」

「ああ、肩な」

 いや、肩な、じゃねえわ。さっき自分でも気持ち悪かったろって言ってたくせに。でもその後に『なんでそんな事するの?』て聞けない。


 じいっと私を見つめるタダだ。「…なあ、今、やっぱ嫌だった?肩」

「…嫌っていうか…だから!びっくりしたんだって」

 急にだ。ここに二人きりでいる事がものすごく恥ずかしくなってきた。

「私、練習しに行かないと。オオガキ君部活にも行かないといけないし。私も」

 雑巾を手早く洗い用具箱の中のバケツの縁にかけて、手を洗い生物の準備室を出るのをタダが待っている。嫌だなんで待ってんだろう。

 びっくりした。でも肩を掴まれたの、嫌とか気持ち悪いとか思わなかったよね私…



 一緒に教室に戻りながら、落ち着け私、と思う。だってタダじゃん。そりゃ今は女子に騒がれるようになったけど、私は小学の時の転校したての気弱なタダを知っている。

 呪文のように思う。知っている知っている私は今私の目の前にいるタダ以外にいろんなタダをちゃんと知っているからドキドキするな。


 「どうする?」とタダが聞く。

 どうする?どうするってなに?タダの喋りって唐突だよね。何の話?って顔でタダを見ると、「ケーキ」と言う。

 ああ、ケーキの話ね…「…本当に作ってくれるの?…その、…めんどくさくない?」

「いや、実験みたいで作るのはまあまあ面白い。前、カズミの時に作ってやったやつ、すげえうまく出来たしたぶん大丈夫。それで、うち来るよな?」

「え?」

「だってケーキ持って行きにくいし。うちで食えばいいじゃん。カズミも食う気満々だし」

「…タダってすごいカズミ君の事可愛がってるよね」

「まあ、歳が離れてるし…カズミが生まれるまでにいろいろあったからな」

いろいろ?タダのうちがって事?…それはこっちに引っ越してくるまでにって事かな?

 むかしの、転校したての頃のおとなしめな、いかにも人見知りそうなタダを思い出してしまう…今まであんまり、タダの引っ越してくる前の話を私は聞いた事がなかったけれど…ヒロちゃんなら知ってるのかな。


 「なあ、」と階段を上りながらタダが言った後口ごもる。

 後を続けないので「なに?」と横を歩くタダを覗き込むと今度はうれしそうな顔をしている。

 なに?なんで今そんな顔?

「なんかな…」とタダが言う。「…さっき肩掴んだとき大島、一応聞いたけどさ、驚いてたけど嫌がってないのはオレにもわかった」

「…」

「だからな」とタダが続ける。「こういう事言うのはダセえってわかってんだけど、オオガキとあんま仲良くなんないで」

「…え」

「欲しいって話。オレがな」


 うわうわうわうわ~と思ってる間に、オオガキ君のいる5組の前を通る。そうだ早く教室に戻って荷物持って来なきゃ待ってくれてるかも…

 開いたドアから中をちらっと横目で見るけれど教室の端っこしか見えない。が、「オオガキ!」とタダが突然5組のドアへ寄って中へ声をかける。

 え、ちょっと…


 わ、オオガキ君が出てきた…

 「イズミ君じゃんどうしたの?」とオオガキ君が言う。「あれ、大島さん!…え、イズミ君と一緒に来たの?なんで?大島さん単体で来てよもう~~」

「あ、違うの」と慌てて言う私だ。「今掃除の帰りなだけ。荷物取って来る」

「なんだ。じゃあ待ってっから早くおいで」

「…うん。ごめんね、遅くなって」

「だいじょぶだいじょぶ…て、イズミ君、なんでちょっとオレの事睨んでんの?」

え?

「ていうか」とオオガキ君が続ける。「なんでイズミ君がオレ呼ぶかな。大島さんと付き合ってないって言ってたよね?」

オオガキ君が私に確認する。

 うん、とうなずきながら、5組の女子の、残っている皆さんがタダを見ているのが見える。

「なんでオレの事、イズミ君が呼んだんだろ~~~~」とオオガキ君がもう一度聞く。わざとらしい感じで聞く。

「なんでもないよ!」と私が言ってしまった。「一緒にここまで帰ってきて、それでタダが呼んだだけ。すぐ荷物持って戻って来るから!」

 そしてタダの腕を掴んでオオガキ君の元から教室へと連れて帰る。


 「なんでオオガキ君に声かけんのタダが」

そう聞いた私を睨むタダ。「知らねえわ。いいやもう、早く練習行ってくればいいじゃん。オレも部活行くわ、じゃあな」

なにその言い方。



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