チーズケーキ 3
結局今日もタダを意識してしまう。昨日までより俄然意識してしまう。ところがタダはやっぱり普通に見える。今日は1回も目が合わないし。もしかして私の事避けてる?私が逃げた上に、ケーキの話にも素直に喜ばず、結局返事はカズミ君にしたから。
「大島?」
…まあねえ…ヤな感じだよね私…
「大島?」
「あ、はい!」
3時限目国語総合の現代国語、うちのクラス担任でもある水本先生に呼ばれて慌てる。
水本先生にうっすら笑われながら注意される。「いや、なんかちょっとぼんやりしてたから」
「…」
「あれ?ぼんやりしてたよね?」
「…はい」
「ぼんやりしてたかしてないかで言うと?」
「ぼんやりしてましたすみません」
間抜けな受け答えで恥ずかしい。タダも聞いているのに。前の方にいるタダが振り向きませんように。
「あれあれあれあれ」と水本先生はわざとらしい感じで言う。「どうした?昨日は楽しそうに二人三脚の練習してたのに。練習し過ぎて疲れたの?」
…いやぼんやりしててすみませんでしたが、ここで二人三脚の事まで出さなくても…
「…いえ、そういうわけじゃないんですけどすみません」とぼそっと謝る私。
「え?楽しそうにしてたよね?」
「…」なぜその話を引っ張る水本。
「あれ?楽しくなかったの?楽しかったか楽しくなかったかで言うと?」
「…楽しかったですけど」
「そうだよね!」とニッコリほほ笑む水本。「みんなもな~~」
と、今度はクラス中に話しかける水本先生。「明るく楽しく体育祭に臨むんだぞ~~~。多少かったりぃなって思っても、そこは踏ん張って楽しむように。転んでもビリでも、楽しかったらいいんだよ。面白くないとなんでもダメだからね!クラス対抗のリレーとかちゃんと頑張ればビリでもいいんだから。楽しんで走れ。先生もちょっとおっさんになってきたけど転ばないように頑張るよ。がんばろ~~~!お~~~」
いつもは淡々としている水本先生がちょっと語ったのでみんな『あらあら?』って感じになっている。
「ちょっと」と水本先生。「オレだけ意気込んでて恥ずかしいじゃん」
先生が少し恥ずかしそうにそういうと、クラスのあちこちから「「「「がんばりま~~す」」」」と言う声と、声を出さなかった私も含め他の子たちはパチパチと拍手をした。
なんか…結構良いクラスだよね!
「先生とイズミ君はどこで練習してたの?」友達に聞くようにハタナカさんが聞いた。「練習見たかったんだけど」
「んん~~~と、」と水本先生はタダの方をチラッと見て、「それはな、二人だけの秘密だから」と答えた。
やだ~~~、という女子のみなさんの声があちこちから聞こえる。
「ちょっとだけスマホ持って見に行っちゃダメ?」とハタナカさん。「撮りたいんだけど」
「ダメダメダメダメ!」と水本先生。「そんな事口に出すなハタナカ。どこで校長が聞いてるかわかんないんだから。オレが職員会議で吊るしあげられるわ。ハタナカもペアの子と頑張れ。な?」
水本先生が優しく続ける。「や、頑張ってるよな。ハタナカは結構いつもちゃんとしてる」
そうなんだよね。タダがやたら好きで私には冷たいところがあるけれど、ハタナカさんはしっかりしてる。提出物だって遅れないし、委員会の仕事もきっちりやってた。
「あ、でもさ」とハタナカさんが言った。「さっき先生、ユズりんたちの練習見た感じで話してたよね?」
「あ~~うん」と水本先生。
先生これ以上余計な事喋らないで欲しいな。ハタナカさんにウソついてるのに。
困った事にハタナカさんは追求する。「もしかして先生とイズミ君もユズりんたちと一緒に練習したの?」
水本先生は私より前の方にいるタダをチラッと見た。
「一緒にはしてない」と水本先生は言ってくれた。「ちょっとすれ違ったけど、先生とタダはほぼ練習なんかしてません。先生たちはとてもすごいので、練習なんかしなくても勝てるからです」
言い放った先生はそれでも付け加えた。「お前らはちゃんと練習しろよ~~~」
昼休みにユマちゃんとお弁当を食べているとユマちゃんに聞かれた。
「ねえねえ。オオガキとは実際どんな感じだった?」
「良い感じで話易くてよかった。私のどんくささを許してくれただけでもほんとありがたいよ。すごい速い人なのに。優しかったよ」
「そいで?タダはその事についてあの後何か言ってきた?オオガキとユズちゃんがペアなのイヤだって言ってたじゃん」
「…」
「ヒロトがさ」とユマちゃんが言う。「あ、私の彼氏のヒロトだけど」
「わかってるからそこ」と言う私。
ユマちゃんの彼氏の名前も私の好きなヒロちゃんと同じ名前なのだ。
「ちょっとヤキモチやいたんだ。普段はあんま電話長くしゃべんないんだけどヒロト、昨日はなんか長かったんだよね電話も。嫌なんだって。私が他の男子と二人三脚して肩組むの。それで『あんま仲良くなんなよ』、って言ったんだ~~」
へへへへへ、と嬉しそうに笑うユマちゃん。
そっか、やっぱり付き合ってる子たちは自分以外の子とくっ付いて、肩組んで走るの見たくはないよね。私もそうだ。ヒロちゃんが他の女の子と二人三脚したら…振られた今でも相当モヤっとするよね!
…タダも言ったよね。オオガキ君が私と肩組んでんのが嫌だったから肩掴ませてって。…タダがそんな事を女子に自分から言うなんて、しかも私に言うなんて思いもよらなかった。ふだんモテてても騒ぐ女の子たちにも無の対応だし、中学の時もヒロちゃん達がウホウホ言いながらグラビア見てた時だって、一緒には見てたけどバカみたいに騒いだりは絶対にしなかったし。
…タダもやっぱり巨乳か巨乳じゃないかつったら巨乳の方がいいんだろうな…私なんて走ってもあんま揺れないし…
ああ!オオガキ君も巨乳か巨乳じゃないかつったら…そりゃ巨乳とペア組みたかったよね!申し訳ない。
「なんかさ」とユマちゃんが言った。「今日タダが使ってたシャーペンて、前ユズちゃんが持ってたや…」
慌ててユマちゃんの口を押さえたら、ユマちゃんが「うぐっ」と唸った。
「ちょっ!なにもう」とユマちゃん。
私は結局ユマちゃんにタダとのシャーペンのくだりを説明することになった。
「マジで!」とユマちゃん。「へ~~すごいね!タダってそんな事すんだ…なんか以外」
「声大きいユマちゃん」
う~~ん、と考えているユマちゃん。「モテてるからさ、自分からはそういう事しない感じがするのにね。なんかさぁ…それはでも…一見、好きな人にされたらドキドキ嬉しいパターンだけど、全然好きでもない人にされたらヤバキモくない?」
え…、そうかな…
そうかも!キモいかも!そして怖いかも。
そっか…タダにされてもキモいとは思わなかったな…恥ずかしいって思ったし、他の人にバレたくないとは思ったけど。ユマちゃんにどう思ったか聞かれて正直に話す。
「あ、そう」とユマちゃん。「嬉しくはなかったんだ?」
嬉しくはなかったよね…そんな事されて恥ずかしいって気持ちが強かった。
それでハタナカさんのラインの話もする。
「あ~~、それで電源切ってたんだ」
「そう、でも今日は別に何も言って来ないけど」
「タダがユズちゃんとこには来ないからじゃない?…そっかタダがそっか…そんな事感じでユズちゃんが好きなのか…へ~~~」
ふんふん、と一人納得するユマちゃんにわからせるため結局ケーキの話もしてしまう。
「たぶんね」と私は言う。「私のヒロちゃんへの気持ちが報われないのをずっと見て来てるもんだから、同情する感じが強いんだと思うだよね」
「もしかして、もう『好き』って言われたとか?」
「…いやぁ…なんていうか流れでそういう風には言われたけど…」
「流れで?なに?どういう事?」