チーズケーキ 2
返信は来ずに電話が来た!わ~~~!
さすがに、いつまでもぐじってるヤなヤツだと思われただろうなと思って出ると、「ユズル?」とタダの弟カズミ君だ。
「…うん」と私。「カズミ君?」
「ユズル!誕生日おめでと!兄ちゃんとケーキ作ってやるからな!」
「…うん」
「作ったらうちに食いにくる?」
「え?…と、どうなんだろ…」
「兄ちゃん?」とそばにいるらしいタダに問いかけるカズミ君。「ケーキ作ったらユズルが食いに来るん?持ってってやるん?」
「それは後で兄ちゃんたちが決めるから」とタダが話す声が聞こえる。
「後で兄ちゃんたちが決めるんだって」とカズミ君。「じゃあな!」
「うん。ありがと」
結局ありがとうって言っちゃったよ。タダとは直接話さずに終わったし。
それなのにタダからケーキを受け取るところを想像する私…
こっ恥ずかしい!素直にありがとうも言えなかったくせに。…ケーキか…タダがケーキなんて作れる事を知ったら女子のみなさんどれだけ騒ぐんだろう。しかもそれを私がもらうなんてわかったらどれだけ…
いや私、ヒロちゃんがユキちゃんにケーキを予約した事に結構ショック受けてたよね?それなのにタダからケーキもらおうとしてる…
そこへまたピロン、とライン。
今度はまだなにタダ…と思って見るとハタナカさんっ!
「今日はうまく練習できたの?」
うわ~~~~こんなタイミングでハタナカさん!!しばらくハタナカさんからライン来てなかったのに。ちゃんと開ける前にピロン、ピロン、ピロン、ピロンと縦続けにハタナカさん。怖すぎる!
写真!?写真送って来たよハタナカさんが!何の写真送って来てんの?今日タダと一緒に帰ってるとこ、もう誰かに見られて撮られてたとか?急いで開けると、「どこで練習してたの?」「もしかしてイズミ君もいっしょだった?イズミ君帰ったらしいってみんな言ってたし」「このボーズだれでしょう?」…そしてボーズ頭の小学生の写真。誰これ?ヒロちゃんみたいだな…
あ、オオガキ君だこれ!
「オオガキ君?」と返信する。
「あたり!可愛いっしょ」
「うん可愛いね」
「どこで練習してたの?」
わ~~…と思ってる間にまた。「タケトって優しいでしょ?」
「中学になってからは結構モテてたよ?」
「イズミ君、帰りに見た?一緒だった?もしかして」
ピロン、ピロン、ピロン!
やだ…
やっぱハタナカさん苦手。教室ではそこまで話さないのに。しかも私に話しかけて来るのはタダが私に話しかけた時にさりげなく邪魔しに入るパターンのみ。
そして私が返さないうちにまたピロン!ビクッとする。
「イズミ君今日黒猫のついた黄色いシャーペン使ってて
欲しいって言ったらもらったやつだからダメって言われた~~~
イズミ君誰からもらったかユズりん知ってる?
絶対女子モノだしすんごい腹立つ」
ほんとやだ。もう…
「知らないよ」と返す。
完全にウソだけれど他にどう返せるって言うんだめんどくさい。
そして「近くのグラウンドで練習したよ
オオガキ君はすごく良い人だよね
私がどんくさくても我慢して練習してくれてた」と返した。
そしてぎゅっと目をつぶり、仕方ない、と思って電源を切ってしまった。もうこの後何が返ってきても『なんか充電切れちゃってた~~~』で明日ごまかそう怖いけど。だって考える事たくさんあるもん。
早くタダにシャーペン返してもらわないと…
いや。
いやいやいやいや。これでシャーペン返してもらってももう学校で使えないじゃん!ハタナカさんに私が使っているところを見られたら絶対騒がれる。『知らない』ってウソついたし。
翌日14日。
夕べは遅くまで眠れなかった。ベッドに入ってもずっと考えてしまった。ずっといろいろなタダの顔が繰り返し浮かんで消えなかった。こっちに転校したてのちょっと伏し目がちなタダから、ヒロちゃんと仲良くなっていって、明るく笑うようになって、女子からも人気出てきて、体つきもしっかりしてきて、私の身長も追い抜いて…そして、高校でクラスまで一緒になったのが私だけだったから前より私によく話しかけて来て、ヒロちゃんに告った子と一緒に顔合わせしたり、海に行って、花火大会も行って…
おかげで起きるのが遅くなり、「なんで起こしてくんなかったの!」という私の文句に、「声かけました何回もかけました!っていうかちゃんと自分で目覚ましかけなさいってあれ程言ってんじゃん!」と母に叱られ、あ、そうか、スマホの電源切ったままだったからアラーム鳴らなかったのか、と思うが、顔を洗って着替えるだけで精いっぱいだ。ああ、髪も無茶苦茶…まだそこまで伸びてないけど、今日は無理してゴムでまとめて行こう。
息を切らして教室に入るとユマちゃんが寄って来て言った。
「髪ぼっさぼさじゃん」
「うん。寝坊した」
「ちょっともう…お姉さんにゴム貸してごらん」
言われてゴムを外して渡すと、ユマちゃんは私の後ろに周り髪をもしゃもしゃっと揉むように撫でて整え、髪全部ではなく上の方の部分だけ手早くうまくまとめてくれた。
「すごいユマちゃん早技!」
「いいけどさ。なんで夕べライン返してくんなかった?てか見てないでしょ。電話もしたのに」
「…あ~~夕べ充電切れてたかな…」
このいいわけをユマちゃんにする事になるとは…ムゥッと私を睨むユマちゃんに、ハタナカさんから来たラインの事を話したいけど今はダメだな…他の人に聞かれる。
そしてハタナカさんの事は話したいのだけれど、タダの事をあれこれ考えてなかなか眠れなかったとかは白状したくない。だから、「ごめん夕べ早く眠っちゃったから」とさらにウソをついてしまう。
「へ~~」とユマちゃん。「なのに起きるの遅かったんだ~~~」
「…ごめん」
「なんかさ、オオガキからライン来たんだよね。ユズちゃんと仲良いんだってなって」
「昨日話したからユマちゃんの事」
「オオガキがライン教えてって言うからさユズちゃんの」
「え?でも校長先生、それやっちゃ絶対ダメって言ってたでしょ?」
「まじめか!…でもね、オオガキもすぐね、やっぱ止めとくって。ここに迎えに来たいんだってさ~~。体育祭終わったら聞くって」
「…」
「そいでユズちゃんの事、素直で良い子だって~~」
「私は素直じゃないよ」
「まあね。素直じゃないし黒いとこもあるよね~~~」
「…」
ユマちゃんもじゃん。