『コーンポタージュ』
寒々しく、明るいのにどこか薄暗い印象の蛍光灯。その中でわたしはひたすらにペンを走らせる。
辺りはすでに静まり返り、シャープペンシルが紙を引っ掻き、叩く音だけが響いている。
ふと壁にかけられた時計を見上げれば既にその針は7時を指していた。
切り上げ時だろう。わたしはノートを閉じ、シャープペンシルと消しゴムを筆入れにしまう。
わたし以外にはもう誰も教室に残っていない。換気の為に少しだけ開けていた窓をそっと閉める。その際に冬の夜の空気が少しわたしの肌を撫でた。
最後に電気を消して教室を後にする。
完全下校の時間が迫った学校は真っ暗で所々にある誘導灯だけが薄く照らすだけ。廊下を抜け昇降口に着くもいつも通り何も見えない。
手にしたスマートフォンで照らし、わたしの下駄箱を探す。
靴を履いて外に出ると夜風が刺すような冷たさを伝える。手提げバッグから赤いマフラーを出して首に巻いた。手袋は持っていないので手はポケットに突っ込んだ。
ふと空を見上げると星が綺麗だ。伊達に田舎ではない。
少し歩くと校門である。
どうやら人がいるようだ。誰かを待っているのだろう。わたしが通り過ぎようとしたときに声がかかる。
「おつかれ」
「……何で先輩がここにいるんですか?」
予想外のことに反応が少し遅れてしまった。
校門で人を待っていたのは同じ部活を引退した先輩だった。そしてどうやら待ち人はわたしらしい。
「最近遅くまで頑張ってるって聞いたからね」
先輩にそんなことを伝えたのは恐らく同じ部活の子達だろう。全く余計なことをする。
「受験生が勉強してなくて良いんですか?」
先輩は秋の文化祭で部活を引退、正直受験生としてはかなり遅い引退であまり余裕はないはずだ。
「ちゃんと教室で勉強してたさ」
「こんな寒い日に外で待っていて風邪をひいたらどうするんですか」
わたしなんかのせいで先輩が風邪をひいては大変である。大切な時期だというのにこの先輩は何をしているのだろうか。
「そんなに僕はやわじゃない。かわいい後輩の応援くらいさせてくれ」
ああ言えばこう言う、先輩はそういう人でした。久しぶりのやり取りは懐かしいです。ですが、いくら親しい間柄でも気安く女子にかわいいと言うのは駄目だと思います。
ふふっ、なんだか気持ちまで後輩の頃に戻ったみたいです。
「良かった。根を詰めていたみたいだったからな。……はい、コーンポタージュ」
先輩はわたしの顔を見て笑います。そしてポケットから出てくるコーンポタージュの缶。熱過ぎないけれど冷めてもいない、程よい温かさが冷えた指先に優しいです。
「行こっか、駅まで送るよ」
「はいっ!」
去年の冬もこんな感じでした。相変わらず先輩は女たらしです。
でも去年と違うのはわたしと先輩が二人きりだということでしょうか?
トロリとしたコーンポタージュは甘くて温かい。
冬の夜は寒いはずなのに、なんだかあったかいわたしでした。
現実にこんな先輩はいない?
確かに天然ものはほとんどいないのかもしれない……
しかし、だ。
男性諸君、君たちなら作り出すことができる。
わかるね?
暇があったら逆と裏と対偶を作るかもしれない。
先輩♂がコーンポタージュをあげる←ーー
ーー→後輩♀が頑張っている
*比喩です。