78.ゴバゼガブの事情
今日は少し早めに投稿します。
「侵略する気はない」
という、子供のドワーフ型ダンジョンマスター、ゴバゼガブ(だから言いにくいって)ではあるが、ダンジョンを捨ててまでこちらに来ている理由は知っておかないといけない。
「どういう状況なのかは教えてもらいたいが‥少し待ってくれ。連れがもうすぐ来るから」
僕がそういうとゴバゼガブ(舌噛みそう)の後ろの草からガサガサと音がして、赤いモヒカンがトレードマークのドラゴニュートが現れる。
「イオ、あらかた片付けてきたぞ。獲物は確保したな?」
「獲物とかいうなよ、サミー。怖がっているだろ」
この様子を見ていたゴバゼガブ(あ、軽く舌噛んだ)は何事かとおびえている。確かにいきなり血まみれのドラゴニュートが出てきたらそうなるか。全部返り血なのだろうけど。見た目は明らかに殺人鬼のそれだから。サミー、もう少し考えて戦えと言いたい。一方サミーの方は
「そんなこと気にするなよ。とりあえず、そこのドワーフ。お前名前は何ていうんだ?」
「‥‥ゴバゼガブ。」
「ああ、そういやそんな名前だったな。言いにくいから“ゴバ”で!俺はサミーな」
といたってマイペース。だが、ゴバの方は
「ちょっ、言いにくいって何ですか!?ドワーフにとって名前に濁点が入るほど高貴な名前なんですよ!僕はゴバゼガブと5文字も濁点が入っているすごい名前なんですよ。それを言いにくいとは!いくら命の恩人でもそこは譲れませんよ」
どうやら名前に並々ならぬ思い入れがあるらしい。サミーにすごい剣幕で怒っているが、サミーの見た目のインパクトに若干へっぴり腰なのが、見てて面白い。話が進まないから割って入るけど。
「名前のことはこっちも悪かった。サミーも謝るから、僕も“ゴバ君”って呼ばせてもらうよ」
「‥わかりました」
「それより状況を教えてほしい。追われているようだったけど、何で追われていて、どこへ行くつもりだったの?」
ゴバ君は説明した。元々心臓が弱く、入退院を繰り返していたが16歳の時、ついに亡くなる。そして魔神様に転生されて158番目のダンジョンマスターとしてこの世界へ。最初はより西の小国家群にある、とある小国の付近にいて、周囲には同じドワーフ型、獣人型などのダンジョンマスターがいたらしい。
ゴバ君はこの世界に来た時、今と同じ8歳くらいの子供の姿であり、近くの街に住むドワーフの夫妻の家に養子として拾われた。その時に名前を付けてもらったとのこと。ちなみにゴバ君のダンジョンは?と聞いたら、ダンジョン付近の岩山を崩して入り口を埋めたと。どうやら養父母に大変良くしてもらって、ダンジョンマスターとして生きる気はなくなったそうだ。
その後、養父母に鍛冶の技術やらを仕込まれ、養父母と鍛冶職人としてある街で生活していたが、小国の1つであるニゴ王国に住んでいた街が攻められた。このニゴ王国は軍事拡大路線を実行して周囲の国や街を支配下に治めていた。そんなニゴ王国はダンジョンマスターの力に着眼し、ダンジョンマスターを優先的に探し出し、殺害、誘拐、奴隷化するなどして自らの力として取り込んでいった。どうやら、マスター本体のステータスを上げるところまで育っているマスターはいなかったらしく、ダンジョン領域も小規模であったため、誘拐して本国へ運ぶと大抵が範囲外に出てしまい、モンスターたちが野生化、ダンジョンはオート化して自動で資源生成するようになる。ゴバはダンジョンマスターとしての力を使ったことはないが、奴隷化したマスターによる『鑑定』を受け、ダンジョンマスターとばれてしまい、追われていたということだった。
「ということは、ゴバ君を追っていたのはそのニゴ王国?」
「ええ。正確には依頼を受けた傭兵団ですが。養父母も彼らに殺され、僕も逃げるので精いっぱいでした。お墓くらい作ってあげたかったのですが、今となってはもう無理でしょう」
「そりゃすまんことしたな。敵討ちたかっただろうが、俺があらかた殺しちまった。生きているのはほぼいないだろう」
「気にしないでください、サミーさん。僕に彼らをどうにかできる力はありません」
「そうか。そう言ってもらえると助かる。この後お前はどうするんだ?よければうちらのところに来ないか?」
「それは願ってもないことですが、本当に良いのですか?僕、戦闘はからきしですけど?」
もちろん、こちらはそのようなこと最初から分かっていたので来てもらうことになりました。
言いにくいので全会一致でゴバ君で!
彼が今後の重要な裏方になるのです。