36.英雄の最期
戦闘シーンは難しい。
2階への階段そばの大して大きくはない部屋に入ってくるゴブリン。
「撤退する。俺が殿で時間を稼ぐからみんなは行け。けが人はかばえないだろう」
とバルダが言えば、ルシアーノは<ライト>をもう1つ出し、ラドの従者3人へつける。
「お前らは行け、足手まといだ。時間稼ぎなら俺たち3人の方がいいでしょ?」
と言って、バルダのもう1人の従者であるベンも
「時間稼ぎくらいなら盾職の俺でもできる。バルダ様こそ行ってくれ」
というが、
「だめだ。お前らも行け。おそらくコイツは俺たちの手に余る。盾で防ぐことはできないだろう」
「しかしっ!?」
「ちっ、話してる時間もくれないか。来るぞ。回避しろよ」
腰ミノを付けているだけなのは変わらないが、とにかく5m以上はあるゴブリン。動き自体は緩慢に見えるが、その実、かなりの速度である。素手なのが救いなのだが、そこから盾などものともしない攻撃が来る。ラドからの従者である3人はすぐに撤退し、階段へ向かうがケガの影響で動きがにぶい。そこへ腰を落とし、こぶしを構えるゴブリン。
「グギャ!!」
正拳突きの構えから逃げようとした3人に向けて10m以上先から正拳突きを放つゴブリン。
それを見たバルダは
「散開しろ!!遠距離からの攻撃が来るぞ!」
その声に反応して散開したが、ケガをした2人は動きがにぶく、正拳突きの拳圧に巻き込まれる2人。
そして2人は「ドンッ」という轟音とともに壁へとたたきつけられる。それを見たラドの従者であるマルコは半狂乱になりながらも階段へを登っていく。
「バルダ様、なんですか!?いまのは?」
「おそらくは<正拳突き>だろう。ゴブリンモンクなんかがよく使う。ある程度遠距離まで届くとはいえ、この威力は見たことないが」
「とんでもない化物が眠っていたもんですね」
「ああ。予想外だ。コイツが街に来たら手に負えないだろう。伝令は行ったから、ここでできれば何とかしたいが、難しいかもしれん」
ゴーレム以上の体力、攻撃力を持つゴブリン。そのゴブリンに対して3人は連携して対抗していた。ルシアーノの<ライト>による目くらましをして隙を見て撤退しようとしたが、2階へ上がってすぐの大きめの部屋にたどり着いたときはゴブリンに回り込まれてしまう。
それでもなんとか戦っていた3人であったが、戦力差をすぐに確信させられる。
先ほどの目くらましで学習したのか、もはやルシアーノの援護は効果が薄く、ベンに至っては盾でゴブリンの直接攻撃を防ぐどころか、バルダが避けた拳圧をルシアーノに行かないように逸らすので精一杯。頼みのバルダの攻撃は隙をみているにも関わらず、かすりもしないという状況である。それでもゴブリンにはまだ余裕があるようにさえ見えた。
ゴーレムとの一番の違いはその「速さ」である。
「ちっ、当たらない。ゴーレムとはけた違いだ」
「はっ、はっ、すまん。もう俺たちでは援護すらできん」
ここに来て疲れの見えてきた3人。全く疲れる様子のないゴブリン。その差はすぐに表れる。ベンの死という形で。
ついにゴブリンの攻撃をよけきれず、なんとか盾でゴブリンの拳を防いだはずが、盾ごとそのまま衝撃が抜け、壁にたたきつけられるベン。
「ベンッ!!」
「ちきしょー!」
「スラッシュ!!」
放たれた<スラッシュ>を不利な体勢から避けるゴブリン。しかし、よけきれず、左腕に浅い切り傷ができる。しかしそれはすぐに治る。それを見たゴブリンは
「グギャー!!!」
という<咆哮>と共に残った2人へと襲い掛かる。
<咆哮>によりゴブリン周囲が衝撃の波で小石などが吹き飛ぶ中、2人はまともにそれをくらってしまった。
「なんだこれは!?動けない!?」
そこに繰り出されるゴブリンのアッパーカット。その餌食となったバルダは10m以上ある天井に打ち付けられ、その余波の衝撃波でルシアーノは壁にたたきつけられる。
天井から地面へと落ちたバルダ、そしてルシアーノ。その2人の死を確認したゴブリンはそのまま地上へと歩みを進める。
ラドの街を崩壊へと導くために。
そして、半狂乱になりながらもダンジョンを脱出したマルコが見たのは、モンスターたちに襲われる南ラドの村であった。しかし、彼は南ラドを見捨てて、そのままラドの街へ向かう。
‥それが南ラドの命運を左右した。
次回は主人公たちと解説の予定です。