279.新生女神教国侵攻前
なんとか間に合いました。
3極がエルマンド帝国に併合されて、冬、春と時間が過ぎた。この間、エルマンド帝国は併合した土地の治安の維持に努めた。
かつての王族支持派の残党の反乱や、エルマンド帝国へ反旗を翻す領主もいたが、どれも規模は小さく、鎮圧にさほど時間も労力もかからなかった。
今現在、反エルマンド帝国として筆頭は新生女神教国。
元はユニオン東部、エルマンド帝国首都エルドイオから見て北東、ドワーフのゴバ君のいる街、ブラックスミスの北にあるのだが、その内情がわかってくると、住民にとってはひどい話しか入ってこない。
「今の教皇のアクロって、最初からそんな名前だっけ?」
最近3極関連で色々働いていたせいか、新生女神教国のトップである教皇の名前を失念してしまっていた。いや、まあ、最初から覚える気がないとも言うが。
「違いますよ。新生女神教国ができた時は、別人でした。最近、代替わりしたんですよ」
答えてくれたのはダンカン。転生者で今は僕の補佐をする文官の筆頭だ。冒険者ギルドのトップである勇者マルコと仲が良いこともあって、遅かれ早かれ、僕の後を継ぐことになるだろう。
執務室で資料を見ると、確かに教皇の交代について、そう書いてあった。
新生女神教国で、周囲の領主、住民たちを女神教に入信させ、お布施として税に加え、搾り取ろうとした前教皇。
正直、無能な教皇で、内部闘争はできるが、他は全くダメな人物であった。
当然、周囲の都市から反発があり、一部は女神教を捨て、こちらへと寝返るところもあるほどだった。もちろん、こちらの離反工作もあったのだが。
その教皇に対し、反旗を翻した筆頭が今のアクロ教皇。さすがに、あまりにもアレな前教皇の支持者はアクロ教皇の支持者には勝てず、教皇の交代となった。
では、教皇の交代後、こちらの離反工作は頓挫したのか?というと、そうでもない。むしろ、離反する都市が増えている。
なぜ?って、このアクロ教皇、教皇になるまでは、散々、重税だの、不正、賄賂だの恐怖政治を敷いていると前教皇のことを糾弾しておいて、いざ、自分が教皇になると、同じことをしだしたからだ。むしろ、税に関しては増えているくらいだ。なにせ、8割以上が持っていかれるから。
教皇になるとアホになるのか?
あ、ちなみに聖職者って清廉潔白なイメージがあるが、こいつらはみじんもない。教皇になるまでは素は隠しておいて、教皇になったら、色々腹黒いのが表に出て来ただけだろう。
基本的に逆らったり、反論したりすると異教徒認定され、徹底的に拷問にあう。
あまりの状況に周辺の都市はもうついていけないとばかりに、こぞってエルマンド帝国に保護を求めてくる始末。住民に至っては逃げられるものはさっさと逃げていった。
残った住民は逃げられず、食うものも食えず、ただ、兵だけは維持されるため、税を搾り取られる。大陸屈指の農業地帯が見る影もなくなっていた。
そして、新生女神教国とはいえ、残ったのは新聖都フラメシアと名を変えた都市だけ。
これがここ一年ほどの新生女神教国の状況。
リュート神聖国からの援軍が来て、ゴバ君のいた村の北の街、新聖都フラメシアの南にある荒廃した街を中心に配備され、治安維持と復興をしつつ、その時を待っている。
一方、エルマンド帝国は新聖都フラメシアの西部と北部の包囲。
西武は特にどうということはないが、問題は北。
新聖都フラメシアの北は2.3ほど村や街を挟んで、モンテス山脈の5本川流域につながっている。
5本川流域で一番エルマンド帝国に近いところにある街、ムルシアは元々カルナチョスと同盟を結んでいたが、カルナチョス陥落に伴い、同盟を破棄。以降、こちらの再三の同盟の呼びかけに応えず、独立を貫いていた。
このムルシアまでがギリギリ領域内なので、情報が入ってきているが、元は女神教国寄りの街であるが、昨今の情勢を見て、中立の立場をとっただけのようだ。だが、新生女神教国の重要人物を取り逃した場合、こちらに逃げ込むことが予測されるため、ムルシアと新生女神教国の間の街で封鎖できるよう配備をしなければいけない。
当然、補給線は細くなり、何かあれば孤立することになる。ここは細心の注意を払うべきところだ。
残る逃亡ルートはリュート神聖国の軍とエルマンド帝国軍の間、つまり、エルマンド帝国首都エルドイオへのダイレクトアタック。
だが、ここは小さいながらも砦があり、その前にはかつてのユニオンとエルマンド帝国を隔てる壁がある。時間稼ぎくらいはできるはずだ。
「今までの状況はこのようなところです」
「いや、よくわかった。イオ宰相自らのご説明痛み入ります」
リュート神聖国側の指揮官も出席しての軍議。
場所はエルマンド帝国首都エルドイオにある城の一室だ。今回は軍の上層部がそろうため、ここでなければいけなかった。防諜の面でここ以上に堅固なところは他にないだろうから。
今回の軍議で、具体的な新生女神教国への侵攻時期と作戦が決められる。
といっても、あらかじめ、提案、調整はされており、今回はその承認が主となる。
具体的には、一か月後、新生女神教国の南部からリュート神聖国が、西部、カルナチョスからエルマンド帝国が攻めることになっており、エルマンド帝国軍の総司令官はエルド自身が務め、参謀というか大将軍としてノフス。ライドはエルドの護衛。ルルは魔法部隊長として、アイシャは救護班長として従軍が決まっている。
僕?新生女神教国の北部で補給線の維持と万が一、取り逃がした場合の備えだ。ここでもぼっちですよ。
「軍議はきっちりやるのは当たり前ですが、どうもこの分では、新生女神教国は1カ月保ちますかね?もう少し待てば、勝手に崩壊しそうですがね」
そう、リュート神聖国の司令官が言う。
確かに。それは皆が思っていることだろうが、その自壊時はどうなるか予測がつかない。おそらく、教皇始め、上層部はこっそり逃げるだろうが、そうなると通常、補足は困難だ。いや、ダンジョンマスターの力を使えば補足できるけど。
「そうなんですけど、住民は確実に冬越せないですからね。放っておくと、これから大量の犠牲が出ますよ」
「こちらの兵の犠牲を考えれば、もう少し待ちたいところではありますが、エルマンド帝国側としてはこれ以上、待てませんか。いや、しかし、本当に女神教は厄介ですな。全く」
リュート神聖国の指揮官が言うように、兵の犠牲だけを考えれば、仕掛けるのが早いのだが、今のエルマンド帝国民には新生女神教国から逃げて来た者たちも多い。これ以上は抑えられない上、併合時、住民からの大きな反発もありえる。
「なぜ、もっと早く来なかったのか?」
と、そう言われるのが目に見えている。今でも言われるだろうに。
窮鼠猫を嚙む
そんな言葉があるくらいだ。追い詰めすぎると何があるかわからない。最悪、捨て鉢になり、住民すべてが敵にまわることもあり得るのだ。
流石に住民全員虐殺とかしたくない。ダンジョンマスター的にもDP収入という点で痛いし。
戦争自体はすでに勝った気になっているが、いくら攻城戦とはいえ、10倍以上の兵数差、しかも、兵の練度もこちらが上。兵の士気も高い。
指揮官も有能でただ、指揮するだけで勝てる状況だ。
リュートも最後の方のは来るということだった。ホムンクルスはまだ使えないんじゃなかったっけ?と思うが、以前も来ていたしな。
ちなみに、リュートのダンジョンは強力なモンスターがほとんどおらず、すべて、リュート神聖国軍によって討伐されているらしい。溜めたDPで召喚することでダンジョンバトルに対応するらしい。ほぼ、というか全くダンジョンバトルはないが。
その分、リュート神聖国軍の強さがわかるというもの。
なので、リュートは自分の領域から出ても、戻った時に隠しておいたダンジョンコアに触れれば問題はないそうだ。
だったら、ホムンクルスいるの?と思ったのは内緒だ。
ちなみにアクロ教皇の名前は悪+黒というよりアホ+黒だったりします。
次回投稿は1週間後を予定しております。