277.リフでの決戦
投稿が諸事情にて遅れました。すいません。
最期が暗くなってしまいました。胸くそ展開だけのつもりが‥。
エルマンド帝国軍対ニゴ帝国軍のニゴ帝国の街、リフ付近の平原にて向かい合っての一大決戦。
エルマンド帝国軍10万対ニゴ帝国軍6万
ニゴ帝国軍はこれで、ほぼ全力での動員となっている。全力ならもっと数を出せそうな気がするのだが、そうできない理由はワールハイトにある。
ニゴ帝国はエルマンド帝国への対処だけではなく、ワールハイトに対する防衛も考えなくてはいけないためだ。
エルマンド帝国軍からすると、数でも優位に立ち、質でも圧倒といった状況にしてくれているため、負けられない一戦になる。
この状況で負ける方が難しいと思うのが普通。
「いやいや、そんなことないから。変なプレッシャーかけるのやめてよ」
「大将軍たるノフスなら大丈夫だろ?信頼の表れだよ」
戦争はする前に決着がついている状態が理想。今回のように、あとは普通に戦えば勝てるという状況。この普通に戦えば勝てるというのが、曲者。
このくらいの数同士でぶつかるとき、目が届かなくなるところが出てきてしまうことがある。ここで普通じゃない状況が生まれる。
「普通に戦えば勝てる状況で勝つ。これが名将だよ。ノフスなら大丈夫さ。いつも通りで良い」
ノフスなら、目が届かないということはない。伝令の問題はあるが、こちらもそこもいつも通りなら問題にはならない。つまり、ノフスはいつも通りの采配を振るってもらえれば、それで勝ちだ。兵士の犠牲は出るが、ここに至っては兵士の犠牲うんぬんとかは言ってられない。戦後の補償で対応せざるを得ない。
「まずは野戦で一当てってところか、ノフス?」
「そうだね、エルド、あとは向こうの出方次第だ」
「今回は普通に当たるんだな。奇襲とか、何かないのか?」
「ライド、奇襲とか策を弄するのは負けている方がやることさ。現状こちらが優勢なんだ。向こうからすれば、こっちが奇襲とか、余計なことをしてくれた方がありがたいんだ。ここで向こうが一番嫌なことが、正攻法で真っ正面から当たられることだよ」
本陣での僕らの会話だ。今回もエルド、ライド、僕、ノフスの4名だけ。軍議も終わり、各諸侯は各々準備にとりかかっている最中。開戦まであと少しといったときのほんの一コマだ。
向こうのニゴ帝国は皇帝のニゴ9世と腹心たる側近たちの合議で戦術を決めているようだ。
お互い、中央、右翼、左翼と3つに分かれて向かい合う。
こちらは中央に4万、右翼左翼にそれぞれ3万ずつで配置。ニゴ帝国は中央に3万、右翼に2万、左翼は1万ほどという歪な配置。
「ノフス、これはどう見る?」
エルドが相手の配置を見てノフスに見解を求める。
「わかりませんね」
「おい!?」
「ニゴ帝国軍じゃありませんし」
「まあ、そうだけど」
「こちらは、向こうが何を考えようと、正面から叩き潰すだけですよ。推測としては、中央は守りを固めようということで、3万あれば、ということで、ただ、そうなると、残りは3万を2つに分けることになるから、どちらも、相手にならないよね?だから、片方を精鋭を混ぜて2万で相手を撃破。もう片方は1万で耐える。そんなところかな?ついでに、ワールハイトからの援軍を警戒して、右翼に寄せるかな」
推測といいつつ、見ていたかのような推測。
この推測通りなら、こっちは楽勝だ。ノフスの言った通り、こちらは正面から当たるだけで良いのだから。
対峙していたが、我慢がならなかったのか、ニゴ帝国が動く。伝令がすぐにこちらにやってくる。
「伝令!伝令!!ニゴ帝国軍が仕掛けてきました!」
「よし!こちらも全力で迎え撃つ!全軍、前進せよ!!」
両軍が真正面からぶつかる。
結果は‥エルマンド帝国軍の圧勝だった。
「当然だね」
ノフスが特に何もする必要がないくらいの圧勝。
エルマンド帝国軍の右翼3万はニゴ帝国軍の左翼1万を粉砕。ニゴ帝国軍は耐えることはできず、ぶち抜かれる。
中央は3万対4万と数では少しエルマンド帝国軍の有利といったところだったのだが、エルマンド帝国軍の右翼が中央に加勢に入ったことで、均衡が一瞬で崩れた。
左翼は、3万対2万と差はあまりないように見えるが、兵力差は1.5倍。しかも、質もこちらが上。ノフスが言った通りなら、ニゴ帝国はここを破るはずが、逆に破られることに。
これで中央部への包囲となるところで、ニゴ帝国の本陣は素早くリフの街へ撤退。包囲殲滅だけは免れたが、残された兵はそうもいかず。ちりじりに逃げていく。
ノフスは素早く1万ほどの別動隊を作り、リフの背後にある道、つまり、ニゴ帝国首都ニゴックへと続く道を塞ぎにかかる。
その後、ニゴ帝国兵の残党がリフに入れたのはほんの一部。残りは討たれたか、どこかへと逃げていった。
一方、リフは本陣にいた皇帝とその側近が入った後、入り口をすぐに閉じ、籠城の構え。ニゴ帝国が籠城を選択してくれたことで、こちらの別動隊はニゴ帝国首都へと続く道をきっちり塞ぐことができた。
こちらはちょうど道を塞いだ時に、ノフスについていったところで、リフ側の扉が開く。
「ん?なんで扉が開くんだ?」
「‥まさか‥ねぇ」
出て来たのは、ニゴ帝国の皇帝とその側近だった。
「籠城を選択したんじゃなくて、準備してただけ!?」
「まあ、遅すぎだよね」
ノフスと二人で呆れていたが、どうやら、リフに置いてあった物を取り、首都へ逃げるところだったようだ。しかし、その動きが遅すぎた。すでに、リフの包囲は完了している。
囲まれていることに気が付いたニゴ帝国の皇帝たちは慌ててリフへと引き返そうとするが、こちらとしてはこんなチャンスはない。
「総攻撃!」
逃げる皇帝を捕らえようとしたが、周りにいる兵士たちに阻まれてリフへと逃がしてしまう。だが、扉を閉める前にこちらは侵入に成功。引き続き追撃にうつる。
リフへと侵入した僕らが見たリフの街はなんというか、いたって普通だった。そう、普通に街の住人が歩いているのだ。
「な!?おいおい、住民が避難していないじゃないか!」
「‥、無能か?いや、住民は盾になれと?…イオ、済まないけど、皇帝は一旦諦めるよ。住民にはなるべく手を出すな!だが、こちらに害を与えるようなら容赦はしない!リフの住民よ。おとなしく、家にたてもこるなりして、大人しくしてくれれば、こちらから危害は加えない!」
ノフスの宣言通り、住民に逃げる時間を与え、その間に皇帝たちはリフの中心の建物へと逃げ込んだようだ。
エルマンド帝国軍はリフの各所からなだれ込み、ニゴ帝国の皇帝たちがいる館を包囲する。
館は蟻一匹出ることすらできないほどの完璧な包囲をされていた。降伏勧告もしてはいるが、反応はない。ここで無理に突入させてこちらに被害を出すのはしたくないため、このまま包囲し続ける予定だ。食料もあまり残ってはいないはずなのだから、降伏してくるだろうという予想だった。
事が動いたのはその日の夜中。
ニゴ帝国の皇帝の側近だという貴族が館から抜け出し、こちらに接近。助けてほしいとのことだった。
ここまではよくある話。先がないと見限り、裏切ろうとするのは。
違ったのは、土産として持ってきたモノ。
館から抜け出したニゴ帝国の貴族はガリンチョ子爵といい、体は普通なのだが、頬はやせ細り、病的に精神がやられているような印象、見た目をしていた。そのガリンチョ子爵が持ってきたモノは‥ニゴ帝国の皇帝ニゴ9世の首だった。
「これはまごうことなき、ニゴ帝国の皇帝であったニゴ9世の首。エルド皇帝よ!エルマンド帝国に逆らいし、愚か者の討伐を功績にどうか、我が身をお助けください。もちろん私は以後エルド皇帝並びにエルマンド帝国に忠誠を誓います故に。どうか!」
エルドの前で伏してそのようなことを言うガリンチョ子爵。
首はニゴ9世と確認されたことで、ガリンチョ子爵が嘘を言っていないことが証明された。そのガリンチョ子爵に対し、エルドは一言。
「この者を斬れ!!」
「な!なぜですか!お助けを!!」
ガリンチョ子爵は兵によって斬られた。当然だ。いかに挽回はもちろん、先がないからと言って、主君をこんな簡単に殺せる者は、今度同じような状況になった時、また同じことをする。
明けて、翌日。リフの中心にある一番大きな館に突入したエルマンド帝国兵が見たのは、おびただしい血の海と表現しても足りないくらいの惨状。
「どうやら、昨夜は内部で殺し合いがあったようだな」
「ああ、しかし、これはひどい。生き残りは昨夜のガリンチョ子爵だけか?」
「おそらく。地下に捕らえられていた皇帝への反対派も皆、やられているな」
エルドとライド、ノフスの会話の最中、館を探索していた兵から生存者は絶望的との報告が上がる。
きっかけは何だったのか。あとでダンジョンコアの記録を見ればわかるのだろうが、見る気は起きなかった。とにかく、これでリフでの戦いは終わり、ニゴ9世は討たれた。ニゴ帝国の終わりはもうすぐ。そして、エルマンド帝国の3極の平定ももうすぐとなった。
いつもありがとうございます。
戦争って暗くなりがちで、難しいですね。
ニゴ帝国の話はもう少し続きます。