276.エルマンド帝国軍
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明けて春、エルマンド帝国はニゴ帝国へと宣戦布告をする。同盟を結んだワールハイトを助けるためという名目で。
「大儀はこちらにあり!我らエルマンド帝国兵は悪しきニゴ帝国にその鉄槌を叩き付け、力を見せつけてくれようぞ!我が勇敢なる兵どもよ。ニゴ帝国討伐に向け、出陣せよ!!」
「「「ハッ!!」」
皇帝であるエルド1世の声にずらりと並ぶエルマンド帝国兵が敬礼をする。
その後、彼らエルマンド帝国兵は魔の森の北、奪還したブフラルを通り、ニゴ帝国への戦争に突入する。
この間、エルマンド帝国兵の数は急激に膨れ上がり、十万を超える数になっていた。
この理由はスラムと冒険者ギルドがある。
かつて、カルナチョスの街に入ることができず、街の周囲を囲むように作られていたスラム。他にカルナチョスほどではなくとも、大なり小なり比較的大きい各街にスラムがあった。
最低限度の生活保障などはなく、ケガや病気で働けなくなった者達は街を追われ、スラムで同じような境遇の者たちと身を寄せ合うように暮らすようになる。
だが、衛生状態も悪く、安定した栄養を摂取できないため、回復にも時間がかかるか、治りきらず。ということになり、スラムから抜け出せなくなる。
そんなスラムの住人たちをエルマンド帝国の魔法部隊、その中の治療班、つまり衛生兵が練習、訓練がてら治療していき、回復し、動けるようになった者たちに冒険者ギルドを紹介する。
冒険者になり、多少なりとも生活ができるようになると、皆、エルマンド帝国に感謝をし、こうした臨時の兵の募集につながる。と、そういうわけだ。
「なんか悪どいよ。イオ。いや、良いことではあるんだけどね?」
「「「うんうん」」」
その計画を話したときのエルドと皆の反応だ。良いことをしているはずなんだけどなぁ。解せん。
今、この計画が実を結び、これだけの兵が生まれたのだから感謝してほしい。
まあ、兵各々の戦闘能力は高くない。だが、ダンジョンでの訓練のおかげか、精兵で有名なワールハイトの兵と同じが強いかくらいで、この数に加え、装備もニゴ帝国に決して引けはとらない。
この世界では軍としてはかなり強い部類に入るのではないだろうか?
しかし、その軍すら蹴散らすのがエルドの近衛兵たちだったりするし、その近衛兵をまとめて相手にできるのがエルドやライドといった面々なので、エルドやライドたちからすると、この兵たちは
「「ただの雑魚」」
という認識になってしまう。
「雑魚でも数がいれば、手は足りるよな?」
ライドの意見である。
エルマンド帝国は現在、超がつくほどの好景気。
そこには冒険者の存在がある。
彼らが採ってきた資源を使い、様々な物が生み出され、それを彼らが買うことでお金が回る。
なにせ、作れば売れるのだ。職人たちは物を作り、商人が売り、冒険者たちが買う。お金が動き続ける限り、景気は良くなる。その売り上げの上澄みを税としてもらえるだけで、エルマンド帝国は資金も潤沢になる。
食料も潤沢だ。
元々、クナから食料の援助をもらっていたが、もらった種を植えた畑が豊作で、しかも、冒険者たちがダンジョンでも食料を獲ってきている。
しかも田畑は広大。
生活が安定すれば、人は子を産み、増えていく。安定が極まってくると待機児童とか育児施設の問題なども出てくるが、そこまでの文明ではない上、周囲の助けも容易に借りられる。
そんなわけで、昨年から今まで子供が大量に生まれた。今後もより産まれる予定だ。ベビーラッシュである。この子供たちが今後のエルマンド帝国を支えていくことになる。
そんなわけで住宅だけではなく、学校を始めとした教育施設も建設ラッシュを迎え、首都エルドイオも拡張と設備の建設が同時に行われているところだ。
そのような内部状況のためか、10万人程度どころか、40万でも50万でも兵を支える自力がついていた。それでも1年とか続けると厳しいが。
今回、予定としては長くても3カ月程度の短期決戦だ。それ以上は新生女神教国が動く。
そもそも、冒険者の数が減れば、資源の取得がむずかしくなる。あまり長くは続けられない。
エルマンド帝国軍は魔の森北部のブフラルに到着した。ここで、再編され、約10万ものエルマンド帝国兵が西にあるニゴ帝国への戦争へと向かう。
「この数で、この移動速度なら、向こうも当然気が付くよな」
「そうだね。というより、気が付かないとかはないでしょ。流石に」
エルドが言うように、ニゴ帝国はこのエルマンド帝国の動きに対応して、ブフラルの西側に兵を集めていた。
時間稼ぎをしつつ、防衛が目的だろう。
こちらもこの人数の移動なら、相応の時間がかかる。連絡されてしまうのは諦めることになる。
今回のエルマンド帝国軍の最大目標はニゴ帝国の首都ニゴックの陥落だが、その前にニゴ帝国の第二の都市である、リフを落とすことが目標になる。
食料などの物資は随時、ブフラルから送られることになっており、エルマンド帝国軍10万は全力でリフ攻略に向けて動き出す。途中のニゴ帝国の抵抗は、ほぼ抵抗とはならず、リフへ到達前に一戦くらい大きな争いがあるかと思っていたが、戦力の分散はせず、リフの防衛に全力を尽くすようだ。
エルマンド帝国軍の総大将はもちろん、皇帝であるエルドだが、実際に軍の指揮を執るのはノフスだ。エルドはその監督役、僕はその補佐、ライドは近衛のためエルドの護衛という位置づけになっている。
10万もの人をしっかり見るにはなんらかの道具かノフスのような空からの俯瞰ができるようなスキルなしには無理だと思う。
ここでニゴ帝国の状況とリフを取る意味について。
ニゴ帝国の皇帝はニゴ9世。先代であり、父であるニゴ8世から皇帝位を奪った後、即位した皇帝であり、元々、皇帝になる男ではなかった。
ニゴ帝国の軍部の中の超革新派とでも呼ぶべき、過激派の支持を受けたことで皇帝位に就いた。この過激派はワールハイト、ユニオン双方を武力で併合し、ニゴ帝国のものとすることを目標にしている。
その支持を受ける、ニゴ9世も過激派だ。
しかし、情勢は変わった。エルマンド帝国の台頭によって。まあ、元々ニゴ帝国がワールハイトの併合すらできないように暗躍はしていたが。
リフについては、ニゴ帝国第二の都市というだけあり、大きな街だ。経済その他に与える影響も大きい。ここを取れば、ニゴ帝国の地政上、首都ニゴックはその周辺でのみ採れる食料だけで街の住民すべてを支えなくてはいけなくなる。
そもそも、商業的な動きは制限される。南はドラゴンハンターの街につながる湿地帯に出ることができるが、取引は元々ほとんどなかったことから、有用な商業路にはならない。まあ、ここはワールハイトが元々使うために整備をしていたところなので、そういう動きがあれば気が付くことができるし、妨害、監視も容易なのだが。
つまり、リフを落とせば、実質ニゴ帝国は終わりだ。
もし、その時、ニゴ帝国が降伏しないのならば、継続して、首都であるニゴックも落とすことに戸惑いはない。
「民のことを考えるならば、通常は降伏するがな。自らの首を差し出して、民を守る。それが皇帝たる者の姿であろう」
「まあ、正直、今代のニゴ帝国の皇帝にはそんな意識があるか、非常に疑わしいのだけどね」
これが、エルドの意見と僕の見解だ。
わが身可愛さに降伏しなければ、ニゴ帝国民は酷い目にあうのがほぼ確定だ。なにせ、食料がない。お金がない。治安は当然、悪化する。
そうなれば、民のその悪感情や不満はどこに行くか?
指導者たる皇帝に行く。
その時に皇帝の身を守る近衛の力を削いでやれば、高い確率で革命が起きる。
結果、皇帝はよりひどい目にあう。今のニゴ帝国の皇帝はそこまでの判断ができるのか?
僕はそこは疑問視している。なにせ、今彼の周囲にいるのは、YESマンだけの佞臣だけで真の忠臣たる諫言をする者はいない。そういうのは彼自身がすべて排除したのだから。
さて、まずはリフを落とさないと話にならない。まあ、ノフスなら大丈夫だろう。
兵数10万はこの世界だと圧倒的な数になります。リュート神聖国なら出せますが。
次回更新は1週間後を予定しております。