273.魔の森北部奪還作戦
思っていたより難産で時間がかかってしまいました。
今回の“魔の森北部奪還作戦”にエルマンド帝国軍はほぼ関与しない。新たにできた冒険者ギルドの功績作りの機会とされているからである。
元々、冒険者という職種はなく、傭兵のみであったが、ダンジョン国家でもあるエルマンド帝国では、ダンジョンの未知の階層や領域の発見、見たこともないモンスターたちとの遭遇や情報収集、資源や宝を持ち帰る者たちのことを冒険者と呼んでいた。この冒険者とたちが集まったのが“冒険者ギルド”となり、資源や貴重な物の販売やその交渉、情報の管理などを専門に行っていた。
この前身はウチの商会でもあるエルラノーア商会であり、冒険者は商会の警護を行う傭兵たちであった。だが、冒険者ギルドをここまでにしたのは、“勇者”マルコである。
まだ、エルマンド帝国内でのみ知られるようになっただけであるが、『冒険者たちの情報をまとめ、活動の支援を国にしばられることなく行う』というお題目を掲げているのだ。そのうちエルマンド帝国だけではなく、大陸中に広げることを目標にしている。
ちなみに登録は簡単である。名前、年齢性別などを所定の用紙に書くだけ。登録の最低年齢も10歳となっており、その条件を満たすだけで登録ができ、身分証としても使える登録証も発行される。この登録は本人が登録証の提示をすることで変更も可能のため、偽名でも良い。ただし、一人で2つの登録、つまり2重登録は不可となっている。
非常に登録が緩いが、生活上のセーフティーネットにもなっているのでこれで良しとしている。
登録料を設けると、払えない者が出るし、身分証だが、元々戸籍すらないのだから、本人と証明することができないし、する必要がない。元逃亡者ばかりなのだから、偽名くらい使うのはむしろ当たり前とさえ言えた。
エルマンド帝国の法による重犯罪者が登録することもあるだろうが、登録してくれた方がむしろ、足取りを追いやすい。結局、領域内にいる限り逃すことはないのだし。
それに最初はこのくらい緩くしても、問題が起きるたびに厳しくなっていくのだから結果は同じだろう。
“魔の森北部奪還作戦”での参加人数は約1万。その中でエルマンド帝国軍は奪還よりも、その後の統治や復興支援がメインになる。無事奪還成功の見通しがついた段階で、主にニゴ帝国を警戒した防衛部隊を投入する予定となっているため、冒険者たちについていくエルマンド帝国軍は工兵が主になる。
数で言うとエルマンド帝国軍は1000人ほど、残りの9000人は冒険者や冒険者ギルドからの派遣である。
エルマンド帝国軍の工兵は魔法建築などを行うことができる魔法工兵であり、整地や造形など土魔法を得意としている兵たちである。その分、戦闘力は低い。
そんなエルマンド帝国軍“魔の森北部奪還作戦”部隊を率いるのはノフス。弓による狙撃を得意とし、上空からの俯瞰した視野を持ち、軍を率いることも上手い彼は、エルマンド帝国軍では大将軍の地位におり、軍略でのトップである。
そして、そんなノフスの横で冒険者たちを率いるのが“勇者”マルコである。さらに、今回冒険者として参加する紅い髪に猫耳の猫人族の女の子であるミーア、“紅い稲妻”と呼ばれ、冒険者たちの中でも上位の成績を収める冒険者が参加する。
まあ、ミーアはダンジョンに放り込んでとにかく修行させたから、実力も他の冒険者たちと一段以上違うのは当然なのだが。
“魔の森北部奪還作戦”の目標地点にいるのは、通常のゴブリンやオーク、少数だが、その上位にいるゴブリンリーダーやオークソルジャーがいる程度。数も氾濫したときほどいない。
冒険者たちで対処は十分可能な数とモンスター内容である。ノフス、マルコ、ミーアは冒険者たちの補助をしつつ、対処できないモンスターや危険度が高いと判断したモンスターを優先的に狩る役目だ。
僕はここに関しては何の心配もなく、ただ報告を待っていればよい。
今いるのはカルナチョスだ。
まだ、エルマンド帝国の統治に変わってから日が浅く、不満を持つ者や反乱分子を探して処理をしている段階だ。
一般の人はほぼ不満はない。むしろかなり好意的にとらえてくれているので、本当に極一部である。
普通、減税して生活が楽になったら利権や利益供与などがあった人以外は不満など持たない。まだ、この裏にある思惑などを考えることができ、気が付ける者は少ないのだから。
僕がカルナチョスにいる理由はこの治安維持だけではない。
カルナチョスから東部にいくと新生女神教国と名乗るエルマンド帝国から独立を宣言したところがある。
“魔の森北部奪還作戦”に兵力を裂き過ぎるとここが手を出してくる可能性がある。そのための防衛と監視も兼ねている。
まあ、しばらくは報告やら決裁など書類業務で忙殺されるのだが。
今はほぼダンジョンに手がかからなくなったからできた状況でもある。ダンジョンバトルももうしばらくはない。北は海王、東はレッドドラゴンのサミー、先にはリュートがいて、南には竜王がいる。空いているのは西だけだが、いるとしても相手が海王以下であることが確定しており、特に準備などは不要。
そのため、僕は領域内にさえいれば問題はないわけだ。
さて、残りの皇帝エルドとその近衛兵隊長のライドはというと、エルマンド帝国首都エルドイオから西にある魔の森、その南部を抜け、ワールハイトへと入っていた。
目的は、ワールハイトとの交渉。
今後、エルマンド帝国への編入をする予定のワールハイトだが、地位や待遇などをどうするのか?などを話し合うため、皇帝であるエルドが行く必要があった。
そして、もう一つの目的は、援軍。
現在、ワールハイトとその北西部にあるニゴ帝国は戦争状態。ワールハイトは防戦一方となっている。
そこに、エルラノーア商会は絡んでいない。正確には本命たる傭兵たちをほとんど出していない。
たまに連絡をしているため、彼ら独自の行動をとることができず、エルドが行く必要があった。
きっちりと防衛をするように言ってあるはずだ。反転攻勢にはまだ早い。“魔の森北部奪還作戦”が成功してからなので、来年になる予定だ。
それまでは徹底的に防衛をし、ニゴ帝国の兵を削り、食料と資金の浪費をさせることを優先する。その旨をエルドとライドに伝え、ワールハイトにいるエルラノーア商会の傭兵たちに伝えてもらったはずだ。
この時、ワールハイトへの資金協力と食料援助も忘れず行うようにした。これで来年まではもつはずである。
次回更新こそ日曜日にしたい(難しいのですが)