268.魔神様たちとの晩餐会
今回で海王ニニムとのダンジョンバトルは終了です。
「今回のダンジョンバトルの勝者であるダンジョンマスター、イオに対し、余からの褒賞として、魔剣グラムを授ける。今後の貢献に期待する」
「はっ!謹んでお受けいたします」
魔剣グラムの授与式にて、事前の説明通り、魔神様より、うやうやしく魔剣グラムを受け取る。
授与式は謁見の間のようなところで行う。ここがどこかはわからない。謎空間だ。
出席者は僕と魔神様以外は海王と最古のダンジョンマスターの3人だけ。ちなみに、今回の魔神様は真面目モードのようで、最初にあった時の威厳ある大人の姿だ。他のダンジョンマスターたちは皆、礼服を着て正装をしている。もちろん僕もだ。真っ白いタキシードなんて初めて着たよ。
授与式が終わると、このまま晩餐会だが、合間に魔神配下Aから別室で魔剣グラムについて説明がされる。
「魔剣グラムは端的に言えば魔神様自らがお創りになった“神剣へと至る可能性を秘めた剣”です。その大きな特徴は自己修復、自己成長とのことです。今は生まれたばかり故、ただの切れ味がやたら良い剣というだけですが、持ち主の魔力を吸収し成長することで様々な能力を身に着けるそうです」
自分自身が持っているだけでなく、本人を写したドッペルゲンガーやホムンクルスが持っていても魔力の性質に変わりがないため問題はないそうだ。つまり常に身に着け、成長を待つ武器と言うことになる。
持ち主の経験に応じて、身に着ける特殊能力も変わる武器らしいが、条件などは当然教えてもらえなかった。仮に神剣に至らなくても強力な剣であることは変わりない。どちらにしろ神剣になるとしてもかなり時間がかかるのは間違いないのだし。どうせ最低数百年単位だ。
条件に関しては気にせず、とにかく常に持っていればよいのだと覚えておこう。
晩餐会はそこまで形式張ったものではなく、上品な食事会といった雰囲気。参加者が僕入れて6人だからね。だが、出ている食事は明らかにこの世界の物とは思えないほど洗練されている。前の世界でも明らかに高級な食事だ。これ。
すごい食事をしながら、これまた高級な椅子に座った6人が話をしながら食事をする。給仕係は魔神配下Aが中心だ。普段はこういう仕事をしているんですな。
僕と魔神様が向き合う形であとの4人がその横に2人ずつで座っている。ニニムは専用の椅子だ。
非常に和やかな晩餐会。
ニニムが言う。
「もうあんさんとはバトルはせんぞ。色々話し合いで決めていくことはあるが、こっちから無理を言うつもりはない。戦う気が起きん。不思議なことにな」
そのニニムの言葉に魔神様が
「それはイオの固有能力が原因だな。通常命を懸けた戦いをした相手とは、そこまで仲良くなることはまずない。しかし、イオの固有能力はそれを可能にする」
忘れがちだけど、そういう能力でしたね。たとえ殺し合いをした相手でもこちらが悪意を持たなければ、向こうの悪意も消えるとか、薄々は気が付いていたけど、これもチート能力だよな。
「ここにいるイオ以外の4人は戦闘能力を強化する固有能力を与えた。イオは試験的だが、戦闘能力を強化するような能力ではなく、集団を作りやすくする能力を与えた」
魔神様のそれぞれに能力を与えた意図を聞くのは初めてだ。
「なるほど。我らはすでにイオの能力の影響下にあるということですな。確かにイオとは対立する気が起きないですからな」
魔王が口を開いた。そうか。そう思っていたのか。確かに、こちらとしてはありがたい。正直、ここにいる5人は絶対対立してはいけない5人だというのがわかる。だが、ただ、従うだけではだめで、対等に話や交渉ができないといけない。そう思っていたが、それですでに能力を発動していたんだと認識できた。
この晩餐会ではお互いの様々な情報の交換もできた、非常に和やかな会であった。
魔王からは
「ウチの大陸に来る人間には容赦はしないが、我を退治しようとする人間は大歓迎だ。どんどん寄こすが良い。イオ、お主のところと我の間には海王の領域がある。我を目指す人は海王が手を出さないようにした方が良いか?そうすれば、お主のところから直接来れるようになるぞ?」
「いや、今まで通り、リュートのところを通っていくルートだけでいい。現状ではルートを増やしたところで向かう人はさほど増えないと予想している。こっちで人を増やし、強い人が増えてくれば、自ずと魔王退治を目指す“勇者”も増えていくだろうし、そもそも、リュートのところにすら行けない人は魔王討伐を目指す資格すらないと思っているし」
提案は今回断らせてもらった。ウチには魔王討伐はまだ早い。というか討伐自体が絶対無理。むやみにこちらの人の数を減らすことには賛成できない。
魔王とはお互い、直接の連絡ができるようにしてもらったり、今後、こちらの手に負えなくなった荒くれ者をそれとなく魔王退治に向かわせるための情報提供などを約束するなど、(マッチポンプ)良い関係が築けそうだ。
竜王からは、
「今回の放送は大好評じゃったようだし、またやっても良いの。そもそも若手が参考にしたり良い勉強になる機会が少ないのは問題じゃと思っておった」
「ダンジョンマスター同士の情報交換の場があっても良いと思っておった」
そういう話が出た。
「ふむ。ならば、数年に1度程度になるが、全ダンジョンマスター対象の晩餐会を開いても良いな。検討してみよう。この件は、またおって連絡する」
魔神様からはそのような言葉が出た。
これは今度どこかで晩餐会が開かれるのだろう。まあ、こっちも全ダンジョンマスターを把握しているわけではないし、ダンジョンについて知らないこともある。良い情報収集の場になりそうだから反対意見はない。
リュートからは
「こちらは変わらず、人間界の情報収集と発展の補佐、女神の監視といったことを続けていくよ。イオもいるからより楽になったけどね」
あ、そういうことをしていたんだね。いつのまにか補佐になっていたけど、やっていることやこれからやることに変わりはないから良いけどね。
そういう様々な情報交換や交渉などをして晩餐会は終わった。今後もなんらかの機会の時に晩餐会を開くことで合意し、初の晩餐会が終わった。
今回のダンジョンバトルの放送だが、実は期間中に見ることができないか、クナのところへ行ってみたのだが、近くに言った瞬間、見ることができなくなったと言われた。
「放送見れないから早くどっか行ってよね!」
怒られた。やはり、こういう方法での情報収集はできないようになっていた。
ダンジョンバトルの放送自体は録画を見たのだが、やはり見どころは最後の僕とニニムの戦いであった。
「ニニムも結果は負けたけど、個人ではけして負けていない」
「いい勝負だった」
などなど好意的な感想が多かった。
今後どのような戦術が流行っていくのかはお愉しみだ。
いつもありがとうございます。
次話からまたエルマンド帝国の話になります。
次回更新は1週間後を予定しています。