258.バトル開始後の状況
前話のイカとタコ間違えました。すいません。
今回は6層までの状況整理です。
お互いが6層で前線基地作りに入ったところで、こちらは司令室で作戦会議だ。
「いやー、しっかし、眠いね」
「マスター、マスターは状態異常無効持ちですので、睡眠は不要ですが?」
「いやー、ほら、なんとなく?これでもこの数日寝てないし」
「気のせいです」
まあ、シャールさんの言う通り状態異常無効が仕事しているので、眠気もないのだが。そしてそんなことを言いつつ、しっかり、会議の参加者にお茶とお菓子を配るメイド長のシャールさん。
「さて、冗談はさておき、今後の予測も交えて、作戦会議といこうか」
「あ、やっぱり、冗談だったんですね」
シャールさんのツッコミはスルーして本題に入る。ジト目でこっち見ないでくださいシャールさん。
ちなみに会議メンバーは僕とゴブオウとガキン、マクシミリアーノの4名。
「お互いが陣を構えつつある中で、まず、海王のこれまでのところを振り返ってみよう。…と言っても、完全に様子見の部隊で、かつ、数頼みで6層まで行かれてしまったから、これはこちらがふがいないのか、海王を褒めるべきなのか?」
「不甲斐ないに1票」
「いや、ゴブオウさん、いくら、低級のゴブリンやら、オークだけ、せいぜいがゴブリンリーダーやオークソルジャーでキングどころかジェネラルすら出ていないとはいえ、それにやられたからといっても、ウチのモンスターたちもやわな鍛え方はしていないんです。低級のモンスターだけでここまでやれる海王を褒めましょう」
「‥‥」
ゴブオウの意見にガキンが異を唱え、マクシミリアーノ、マックは元々無口なこともあり、何もしゃべらない。いや、意見は言おうよマック。
僕がマックを見ていると、気が付いたマックが話し出す。
「ワタクシはガキンさんの意見に1票」
「理由は?」
「おおむね、ガキンさんと同じですが、あえて付け足せば、本来海獣系のモンスターが鍛えられているはずの海王が陸上部隊も強いというのは評価すべきでは?」
「なるほど」
海王の場合、自分の領域は海だけでなく、海岸といった陸地も少しあるので、(特にユニオン北部はそうだ)ゴブリンやオークはいても不思議はないんだよね。
だが、海王のダンジョンは明らかな海型の水中系ダンジョン。陸上部隊は鍛えるどころか、生き残るのも厳しい状況のはず。
陸上型ダンジョンを別に作るとかして、環境を陸上部隊用に整えないと、鍛えるどころか、絶滅してしまう。
「もしかすると、海王の陸上部隊はこの程度だということもありえるでしょう」
「どういうこと?」
「ジェネラル以上がいない。もしくは育っていないのでは?と思いまして」
マックが言うのは、陸上で生活をするモンスターたちにとって、厳しい環境に置かれていれば、繁殖能力の高い低位のモンスターは生き残るが、繁殖能力の低い上位種は生き残りにくい。
そもそも、そんな環境では上位種は生まれない。そういったこともあり得るという意見だ。
「うーん。それは、今は楽観しすぎだと思う。否定する材料もないが、肯定する材料もない。この場合は最悪を想定するべきだから、ジェネラル以上もいるものとして対応を考えた方が良い」
僕はそう言ってマックの意見に肯定も否定もせず、なだめる。
海王の場合、対水系のモンスターやダンジョンであれば無類の強さを発揮するが、対陸になると、マックのいうとおり、逆に陸上で活動できないモンスターが多数の可能性があり、陸上型のモンスターはそこまでではないということも考えられる。
しかし、それは落とし穴な気がする。楽観にすぎる、非常に嫌な感じがしている。
そして、この考えもまだ、何か見落としをしているような、対策として足りていない気がしている。
とりあえず、陸上部隊はまだこれから強いのが大量に出てくると想定することで対応を指示する。
一方、海王のダンジョンだが、やはり水中系のモンスターがメインのようだな。
ソードフィッシュやブレードシャークには要注意だ。
というのも、空気の玉で移動しつつ、呼吸を可能にしているが、それすら簡単に切るのがこいつらだった。かなり、切れにくいようにしていたはずなのだが。倒した後、修復するのに時間と魔力を取られ、継戦能力に影響を与えることになってしまった。
ヒレが刃となり、近づくと鋭く切れる。そんなソードフィッシュやブレードシャークだが、これでも下位のモンスターだ。
水中での動きは速いし、近寄った時の切れ味は鋭いが、言ってしまえば、それだけなのだから。遠距離からの攻撃方法はないようで、耐久力もあまり高くないため、近寄る前に対処が可能であった。
うちにはいないモンスターなので、はっきりとは言えないが、これで中位とかはないだろう。中位のモンスターにしては隙が多すぎる。それにこんな上層階に出ているのだ。まず、間違いなく下位だろう。
うちは今回各層の中継点になるところで、天使と悪魔のコンビが隊長となり、空気の塊を維持している。その空気の塊からホースで次の空気の塊につなぐようにつながっている。
ルートも1つではなく最低2つ以上になるようにしているため、1か所を潰されても下層での影響はない。6層の合流地点に関しては真ん中の直接5層に繋がっている入り口以外の3つから空気が供給されるようにしたので、仮に入り口が1つ潰されても、攻略に影響は出ないはず。
調査部隊のゴブリンはこの空気の塊の中で探索魔法を使い、周囲の水の中を下位の水棲モンスターが固めている。部隊長と調査部隊を守るのは天使系や悪魔系などの水中で呼吸を必要としないモンスターたち。
水中なので、直接の攻撃がどこまで通用するかわからないため、魔法攻撃を主体にしたメンバーで挑んでいる。
それでも、水中で普段と勝手が違い、命中率などが落ちていた。こういったデータは後発の部隊にも共有されるので、より上位のモンスターたちは効率よく戦えるようになる。
「まあ、上層階だからか、押しつぶすなどの即死系の罠もなかったのが救いだったね」
「そうですな。全体的に罠の難易度が低いのが、被害の少なかった要因でしょうな。もっとも今後は増えてくるのでしょうが」
ゴブオウと話をしているように、今までは罠が大したことなかったため、致命的なことにならずに済んだが、ここからはそうはいかないだろう。
「とりあえず、予定通り、拠点防衛用に追加のモンスターを出すか」
拠点防衛用に出した援軍はスライムたち。
こいつらも水中での呼吸は関係ない。各種属性を用意し、拠点攻撃の際に時間稼ぎをすることで、迎撃部隊の到着や補助をする。
スライムたちは、中位くらいから回復能力が高いのが出てくる。上位種は攻撃、防御、高速移動など特化型になっていくのだが、中位種は高い自己回復能力を活かすことで拠点防衛に向いていると思っている。
いつもならドラゴンとかを使うのだが、水中ではドラゴンたちも動きが鈍ったり、呼吸を必要とするドラゴンは、空気を吸いつくすことも危惧されたため、今回は、ほとんどをダンジョンの防衛に使うように配置している。
ちなみに、調査隊がいる付近や階層では異変が起きた時、こちらへ自動的に情報が送られる。そのため、少数でもいることが重要だと考えている。
海王の方はそうではなく、部隊だけが先へ進み、周囲の情報は行くが、途中で何かあっても情報は行かない。これに関しては海王だけでなく、今までのダンジョンマスターすべてがそうだったが。
こういった使い方は見ればすぐに理解できるし、真似ができる。今回の放送で見たダンジョンマスターが真似すれば、流行となるかもしれない。
まぁ、そこは今、考えることではない。終わった後からだ。
お互いの体勢が整ったのはバトル開始後から4日。
先に動いたのは海王。
7層の攻略をしに、3つある階段のうち1つに絞り、そこから計4000ものモンスターを送り込む。
しかし、ゴブリンやオークではこの辺りは戦えない。
1匹がやられている隙を突き、もう一匹がその隙を突き攻撃、さらに追撃と数を頼みにモンスターを倒していくが、ここから、自己回復能力持ちが出てくる。ホブゴブリンですら、自己回復能力を持っているのがいるのだ。
オークもジェネラルクラスは当然として、オークナイトも自己回復能力を持っているのがいる。
倒すのに時間がかかればかかるほど、海王の部隊は数を減らしていく。
ここで、海王の取った手は‥
「マジか!?」
本気で驚いた。
なにせ、海王自身が攻めて来たのだから。
海王もう出ます。まだまだ序盤もいいところなんですが。
次回更新は一週間後を予定しています。