253.女神の悪意の研究
いつもありがとうございます。
感想、誤字報告ありがとうございます。
ダンジョンマスター代行たちと会議をするが、対海王への対策は特にない。あえて対策をしないのが対策といえば対策か。ダンジョンバトルのルールすら決まっていない中では対策も取りようがないのが実情だ。
雑談のように女神の悪意について話が出る。
「そういえば、現在、このことを知っているのはどれくらいいるんでしょうかね?」
ダンジョンマスター代行の一人であるガキンがふとそのような疑問を呈する。
「少なくとも、僕ら以外のダンジョンマスターは魔王、竜王、リュートとその補佐役くらいまでは皆知っていると思う。あとは配下のダンジョンマスターが知っているか?だけど、おそらくはそっちは知らないと予想している」
それとなく誘導はしているだろうけど、中身は教えていないのだろう。対策が取れないし、取る必要もないからな。何も考えず、化学実験とかするのなら止めるか、見捨てるかするだろうけど。
「問題は、人の側でどれだけ知っている者がいるか?でしょうね」
「しかし、マックよ、直接影響の大きい人の側で把握している者はほぼおらんだろ?というか、知ったらパニックだ」
ダンジョンマスター代行のマクシミリアーノことマックの言葉に同じくアレハンドロが反応する。この会話に入るのはゴブオウ。
「一人だけ、人の側で確実に知っている者がいる」
人の側で確実に知っているのは女神教の教皇。女神教でいわゆる政治の部分を担当する責任者で女神教の代表の一人だ。
彼が確実に知っているという証拠がある。
代々の教皇が受け継ぐ、教皇の証。教皇の首飾り。その効果は装備者に“毒無効”を付与するというもの。
魔道具の1種だが、無効系の効果を持つ物は作成が非常に困難であり、かつ希少。作成は困難と言ったが、人に作り出すことは不可能だろう。まずまちがいなく、神、女神から授けられた物であろう。いわゆる神授の宝物というやつだ。
毒無効があれば女神の悪意の通常の影響は受けない。寿命を削られることなく、長生きできる。
女神は渡したときに伝えたのだろう。非常に残酷だ。世界の真実を唐突に知った者は絶望したのか?それとも女神の意を手伝えることに歓喜したのか?
少なくとも、現在ユニオン東部にいる教皇は後者だ。
表向き、耳障りの良い言葉で一般も何も知らない信者に語り掛け、裏では戦乱を起こそうと画策、逆らうものには粛清の嵐と死をまき散らす狂信者。明確な敵だ。
会議が終わった後、僕は転移でダンジョンマスター代行のミヒャエルの研究所に来た。
ここはミヒャエルが自重なしに思う存分研究しているところで、できればあまり来たくはないところだ。研究を手伝う研究員はほぼエルフかハイエルフだ。一部器具の作製や修理にドワーフや荷物運び用に魔物がいるくらい。
研究員であるハイエルフに案内され、来たのは研究所の最深部と言えるところ。
最深部なので、表には出せないヤバイ研究ばかりのところ。
内容はヤバすぎて言えないやつしかない。
だが設備は整っていて、明るい、真っ白な壁、床、天井がただひたすら続く廊下を進み、異臭や異音などは何もないところを奥に。
透明な左右に開く自動ドアを超えた先の扉を開けて入った部屋。
この自動ドアの先はすべて魔力無効化空間となっている。化学反応を伴う実験をするための領域である。
つまり転移などでは直接来ることができない領域である。
この先には厳重に守られた領域。魔力がなければ、盗聴、盗撮などができないだろうと、もちろん侵入は非常に困難なので、情報が抜き取られるということはほぼない。表には出せないので、僕がこっちに来るしかないわけだ。
ここにいる主である、ミヒャエルは白衣を着て何やら机の上にある報告書を読んでいた。
「ああ、マスターいらっしゃい」
そう言ってミヒャエルは報告書を片付け、棚から報告書の束を取り出す。
僕は前にある高級そうなソファーに座ると、案内してくれたハイエルフが慣れた動作でお茶を淹れてくれる。そのままハイエルフが部屋を出て行くと、ミヒャエルが報告書を持って僕の前に座る。
僕がここに来たのは当然、“女神の悪意”の研究、検証の話を聞きにきたためである。
「せっかく来ていただいたわけだけど、まだまだ研究は始めたばかりでほとんど何もわかっていないのと同じですよ?」
「それはわかっているよ。人体での作用なんかもまだまだ検証が始まったばかりだということもね」
女神の悪意の正体がわかってから1月と経っていないのだ、それは当然だ。今回話を聞きたかったのは、別に確定した事を聞きたかったわけではない。ちょっとした傾向や予測、そんなもので良い。
「現時点で、わかっていることは、通常の人間ではこの世界で生きられるのは30年ほどであろうと。あとは抵抗がどれだけできるか?によることくらいだけど、これも検証には時間がかかります」
だろうね。ミヒャエルのいうとおりだ。
「まあ、研究が始まったばかりなのは理解しているし、明確な答えはないのかもしれないけど、疑問に思っていることの相談って感じで」
「その疑問ってなんですか?相談なら乗りますよ。マスターの話から新たな発想などが出てくるかもしれませんしね?」
「じゃあ、気楽に聞くよ。まず、化学反応に対する魔力の変化って、規模より回数?」
「それもまだまだですが、傾向としては規模より回数ではないかと。やはり、工程がかかるほど、毒が濃密になっていくような感じになっていますね」
工程が多いほど毒が濃密になる。それはつまり通常の空間では現代科学は再現不可ということだ。検証はまだだが、こうして徹底的に進んだ技術の排除をする仕組みの根幹ではないかと思っている。つまり、ここをクリアできれば、文明が進むわけだ。
「あとは、体内での反応だけど、こっちは全くわかっていないだろ?」
「ですね。まだ手を付け始めたばかりですよ」
体内での魔力の反応。それは人の体内は化学反応の塊であるにも関わらず、毒の生成量が低いこと。耐性スキルがあることから、元々、人だけではなく、この世界の生物の中では魔力毒への抵抗力があると思った。その仕組みがわかれば、何らかの防ぐ方法が見つかるのでは?と。こっちもまだまだ時間と手間がかかる研究だ。
「これが最後だが、人は進化するのか?」
これが今回一番の話だ。
ずっと考えていた。
モンスターは進化条件を満たせば、進化する。それはエルフもドワーフも変わらない。
しかし、人は進化しない。ずっと人のままだ。だが、それは単に進化条件を満たしていないだけで、人は進化できるのではないか?と
「それはあくまで可能性ですね。なにぶん、実際に進化した人を見ていないので。改造して特定の能力を上げることは可能ですが」
ミヒャエルはそう言う。
何気に改造人間を作っていたことがわかってしまった。それは聞かなかったことにしよう。
人が進化して上位種となればまちがいなく能力が上がる。そうなれば、いずれ無効耐性も自力で獲得できるようになるのではないか?もちろんそれだけではない。
気になっていたのは、リュート神聖国の騎士たち。
彼ら一人一人が今のエルドたちと同等の強さを持っているのではないかというように見えた。しかし、いくら何でもそんなことがあるのか?
確かに間違いなく育成環境は整っている。だが、そんな数をそろえることはできるのか?
知らないだけで進化した人ではないのか?
そう考えた時に、人に希望が見えた。あとは条件さえ見つけ出せば。
感想については色々あるかとおもいますが、女神の悪意については何を言ってもネタバレになる可能性が高く、しばらくは返信しない予定です。
人の進化。あるかどうかは確定していませんが、イオはあると思って条件を探し続けるでしょう。
次回更新は来週の予定ですが、こちらの都合上、更新時間が‥。すいません。