245.エルマンド帝国
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エルマンドさんの葬儀や片付けなど、もろもろが終わったころには冬になっており、その間に、僕やルルを中心にした魔法部隊がユニオンと逃亡者の村の間に長大な壁を作り終えていた。
ほぼ一夜で巨大な壁が出現したのだ。ユニオンに近い村で話題にならないわけがなかった。
壁の上に見張り兼警備兵として最低限の戦力を置き、ユニオンの目が壁に集中している隙に、こちらは城の建設を一気に進める予定だ。
春までは雪があるため、ユニオンもまず、こっちに来るのは難しい。これで事実上、春の雪解けまではユニオンはこちらに手出しできないと見ることができる。
春までにエルドたちの出発準備を終え、出発させることができれば、仕事がひとつ終わることになる。そして、エルドたちが戻ってくると同時に建国を宣言。
ユニオンと対立する独立国家誕生である。
さて、エルドだが、しばらくは喪に服すということで大人しかったのだが、良い休みになったようで、また精力的に動き出した。特に逃亡者の村周辺に住む人たちへの支持を取り付けたり、掌握に努めている。
そんな冬の夜、僕はエルドと話をすべく、皆と少し離れて、エルマンドさんがいた部屋にいた。
「イオ、話って何だい?他の皆にも内緒ってどんな話をするつもり?」
「この地を支配するダンジョンマスターとしての話、かな?覚えているかい?クナ、ゴバ君、トトークの三人から認められたら、僕もダンジョンマスターとして力を貸すって言ったのを」
僕の言葉でエルドの顔が引き締まった。完全な真面目モードだ。
「その話なら覚えている。これは本当に真面目に聞かないといけないね。で、イオはどうするつもりなんだい?」
「僕がダンジョンマスターの力を使ってエルドに一番貢献できることというのを考えたんだけど、“ダンジョンを作る”しかないと思ったんだよね」
「まあ、ダンジョンマスターだしね」
「うん。で、どんなダンジョンなら良いか?ってところなんだけど、まず、食料。食べられる魔物たちがいて、狩れば食料になる。そんな魔物たちがいるダンジョン。それと通常この辺りでは採れない様々な野菜や果物などが採れるダンジョン」
「うん」
「資源では、石材、木材、銅や鉄など鉱物系、金銀やミスリルまで採れるダンジョン、宝石系を落とす魔物が生息するダンジョン。採掘すれば宝石が採れたりするダンジョン」
「うんうん」
「さらに訓練用として、罠や手強い魔物たちがいるダンジョン」
「‥うん」
「それら全部を作ろうと思っている」
「全部!?」
「それを今、建設中の城の近くに作ろうと思っている。そしてそれらダンジョンとも共存共栄していく、ダンジョン国家にしないか?」
これが僕の考えた結論だ。色々考えたら、結局一番ベタな発想に行きついてしまった。
これだけではなく、僕の本当のダンジョンに繋がるダンジョンも作るつもりだ。
そのダンジョンはこの周辺で出るであろうゴミなどの廃棄場、罪人への刑の執行場、そして、城と繋げて、エルドたち王族の逃亡用の秘密通路も兼ねることを考えている。高難易度ダンジョンとする。
「それは良い考えだし、できればぜひお願いしたいけど、皆にどう説明し、どう発表する?」
エルドはそういうが、もちろん、考えてある。
「この地にいるダンジョンマスターと同盟を結んだと、素直に言って良いよ」
「え!?」
もう隠す必要はない。ただし、少なくともこの地のダンジョンマスターは人間にむやみに仇なす存在ではないと説明してもらい、同盟を結ぶことで人間たちに莫大な利があることを理解してもらう。
同盟である以上、ダンジョンマスター側の利益は?と聞かれたら、「ダンジョンに人間が攻略に向かうことでダンジョンマスターには利益があり、その利益でさらにダンジョンに資源などを生産することができる」ということを説明してもらう。
人間たちとこういった共存ができれば、むやみにダンジョンマスターを狩ることはなくなり、特に僕と僕の配下のダンジョンマスターは人間に守られることになる。まあ、情報もある程度は持っていかれることは想定しなくてはいけないが。
機密情報はダンジョン最奥部にあり、人間ではまず到達不可のため、それも問題にはならないだろう。
「‥というのが、僕からこの地に住む人間たちへのお礼と感謝を込めた贈り物で、エルドには別に贈り物がある」
「え!?まだあるの?すでに十分な気がするけど」
「エルドはこの土地を治める王になる。ならば、その王と王位を継ぐものだけに渡そうと思っている物がある。…自分の国の情報は必要だろ?それが良い悪い関係なくね」
「‥どういうこと?」
「エルドが正式に王になった時、これを渡すよ」
そういって取り出したのはダンジョンコア。
「これはダンジョンコアだけど、僕の領域内にいる人間たちの情報のみが見れるようになっている。特殊設定したコアだ。これを使えば、普段知りえない情報なども簡単に手に入る。ああ、もちろんカモフラージュで情報収集を仕事にする暗部なり公安なりは必要だけどね」
僕が考えるダンジョンマスターの最大の強みと言える領域内の情報収集能力。その一部のみが使えるようにしようというわけだ。一部のみとはいえ、例えば、民衆の不満や不安、何に困っていて、何に満足しているか?や、テロや反乱などの情報が簡単に手に入る。
さらに出入国の管理もできる優れものだ。
それから僕とエルドは国の在り方を話す。
具体的にはエルドを頂点とする絶対君主制で、その下に侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵を置く、貴族制で男爵以上がすべて貴族院に所属し、その貴族院で会議をしてもらい、政策などの案を出し、君主の補佐をするとした。
「民は国に対し奉仕をし、王は民に奉仕する」
これを国是とし、初代の王たるエルドが宣言をすることで、僕との盟約とする。王が意図的にこれを破らない限り、僕は代々の王に力の一部を貸すとした。
まあ、いずれ、貴族院の所属する貴族が増えれば、上院下院の二議会制とすれば良いし、民衆が知識をつけて、望めば、王を象徴とする民主主義に移行すれば良いと思っている。ダンジョンはその時の総裁なり大統領のみが受け継ぐ機密情報とでもするかな。
そういう話をエルドとして、エルドから
「そういえば、僕を皇帝として、その下に属国の王を置き、侯爵と同じ扱いにするって案はイオが出したけど、それは承認するよ」
そう言って貰えた。
「助かる。今後、大陸西部すべてを領土とする巨大国家とするときに“王”の上に“皇帝”を置く方が、交渉の選択肢が広がるからね。他の国や地域は認めない一つの国とするよりも属国を傘下に置く、連合国家とした方がね」
「それは野望としては持っているけど、達成には何年かかることやら。何とか生きているうちに達成はしたいけどね」
エルドの野望は大陸西部の覇者となる国を作ることだ。
もしかすると、達成したとき、エルドのあとを継いだものの中に大陸制覇や世界制覇などと言い出す者が出るかもしれない。というより出るだろう。しかし、そこはその時、考えることにして、大陸西部の統一さえ、相当時間がかかるだろうと見ている。
「エルドが生きている間に大陸西部の統一はしてほしいね。あとは子孫に任せても良いけど」
「‥頑張るよ」
本当にエルドには頑張ってほしい。達成すれば歴史上誰もなしえていない偉大な英雄の誕生だ。スキル上のではなくね。
「さて、最後に国と首都の名前を決めようか」
「そうだね。エルドに先に言われるとそのまま決まりそうだから、僕から言うよ」
「オッケー!まず聞こう」
「まず、連合国家で皇帝が上に来るから、帝国となる。なので、エルド大帝国、首都はエルド」
「おっし、その喧嘩買った。なら、こっちはイオダンジョン帝国、首都はイオだ」
「なんでだよ!?エルドの国でしょうが!」
「代々の王はイオの承認を得るのだから、良いだろ?別に。ついでに神として祀ってやるよ」
「良くないし、いらんわ!」
そんなエルドと僕のじゃれあいのあと、国の名前はエルマンド帝国、首都はエルドイオで通した。
国の名前はエルマンドさんの名前を取ることで両者納得し、ユニオンの中心の商人、特にエルマンドさんへ敵対した商人への宣戦布告になる。
首都の名前が実は一番紛糾したが、エルドと僕の両方の名前を付けることで落とした。
初代王なんだから、エルドで良いだろう?とまだ思っているが、そう言うと、エルドは
「大まかに都市の計画を立てて、実行しているのがイオだし、偉人として、ダンジョンマスターとしてイオの名前を付けるべき」
といってお互い譲らなかった。
他の連中がいるとイオで押し切られそうだったから、これで妥協するしかない。と思ったのは内緒だ。
そのまま、朝までお互い国の将来の話をし、翌日、皆に話の内容を発表した。
皆の反応は
「「「ふーん。いんじゃね?」」」
と非常に軽かった。もう少し何か言ってくるかと覚悟していたのだが。あらかじめい色々決めておいて正解だったようだ。
これで国の名前などが決まりました。
次話からは章も変わり、本格的なダンジョンマスターとしての活動になります。その前に人物紹介も兼ねた話が数話入る予定です。