243.ユニオンへの対応相談
いつもありがとうございます。
そろそろ村にユニオンの関係者や息のかかった者が来ることは分かっていたが、まさか、全く話の通じそうにないアホが来るとは。これは困ったぞ。…というか、これの話を聞かないといけないのか?
「この地に何用ですか?」
あ、エルドが聞きに行った。真面目だな。
「ふん。子供に用はない。汚れるからあっちに行け!‥いや、待てよ?代表者を連れて来なさい」
「ここにいますが?」
「はぁ?どこにいる?集まってきた野次馬の中にでもいるのか?」
まあ、エルドが代表と言われても、ピンと来ないのは仕方ないか。子供だし。だが、実際、本当に代表なんだよな。
新たな入植者には土地開墾の元手の代わりに、収穫物の2割をもらうことになっているし、元々の人たちには衣食住の保証と支援の代わりに、エルドが今後、代表となることに賛成してもらっている。
この騒動を聞きつけて、野次馬が集まってきている。中には魔物との戦いを中心とする警備兵もいる。
このアホは何を思ったのか、この警備兵を警戒することもなく、
「ふん。兵士がおるということは、権力者がいる証拠。しかし、鍛え抜かれた我が兵には及ぶべくもないわ。それに、ここまで待って出てこないところを見ると我が兵たちに恐れをなしたか」
などとアホなことを言いだす。さらに、
「この私をここまで待たせて、寄こしたのが餓鬼1匹とは、ここの代表はバカにしているのか?ええい!ならば!!」
そう言って、エルドたちに剣を向けだし、
「代表者が出てこないのならば、この子供が死ぬぞ!?早く出てこぬか!」
と言い出した。ハイ!アウト~!
話し合いではなく、武力での威嚇行為を目的に来たのであれば、容赦はしない。
ゴキリ!メキョッ!ボキッ!ドサッ!
アホと取り巻きの兵を動けないように殴り倒す。ちなみに、倒したのはライド。ライド一人で取り巻きの兵、全部を殴り倒し、アホはエルドが倒した。
「ここで、人相手の武力行為は厳禁だ。拘束させてもらう」
「ふざけるな。この餓鬼どもが!この私にこんなことをして、ただで済むと思うなよ。このモウラ・イラネー子爵の名に懸けて、貴様らを皆殺しにしてやるわ」
エルドに拘束されたまま、脅してきたなんとか子爵様。あ、名前覚える必要すらないわ。この状況でまだ、そんなこと言えるんだから。助かると思っているのかね?
「犯罪者の戯言に付き合う時間はない。それがたとえ他国の者であっても、だ。ここの法で裁かせてもらう。お前らは生かすとこちらに大きな混乱をもたらすようだから、このまま死んでもらおうか」
エルドも今まで我慢はしていたんだね。かなりお怒りです。そして、ライドが「あ、そう?」みたいな軽い感じで、拘束している兵たちにとどめを刺していく。
今回、このアホが来たことは、ユニオンの思惑どおりに事が運んだのだろう。だって、話にならないんだもの。というより、話す気がないよね?
この子爵が来たことで、問題が起こらないわけがない。問題が起きたことで、ユニオンは大義名分を得て、堂々と攻め込むことができる。
今回の場合、なるべく、情報が伝わる時間を稼ぐしかない。おそらく、このことを見ていて報告に行く者がいるし、いなくても、ある程度、何の連絡もなく時間が経てば、何かあったというのがわかる。
そこから準備して、こっちに来るまで、が最大の時間となる。それまで、こっちがどれくらい準備ができるか?が勝負になる。
というのが、一般的な話なのだろうが、そのようなことは、実は全く気にしていない。
まあ、時間は稼ぐが、そもそも、ユニオンの兵、1人1人の練度は低い。中には強い者も確かにいるが、今のエルドたちからすれば、一般兵と大差ない。数が問題になるか?というと、おそらくではあるが、全く問題にならないと言おう。
範囲攻撃で薙ぎ払えてしまう。それにこっちの兵たちも普段は魔物しか相手にしていないが、その分レベルが高い。能力もすでに鍛錬のみのユニオン兵を軽く上回っている。
情報収集さえしっかりやっておけば、何の問題にはならない。その情報収集ではダンジョンマスター能力がフルに発揮できるところだ。
その日、夜、逃亡者の村にあるエルマンドさんの家に人が集まった。
「さて、これからの方針を確認しよう」
エルドが中心となっての会議だ。参加者は僕らとエルマンド商会の今いる主だった者たち。エルマンドさんは体調が悪く不参加だ。それと、都市整備、計画者のダンカンと勇者マルコが参加となった。
「まず、エルマンド商会の報告を」
「はい!エルマンド商会の行商人たちは変わらず、所属を隠し、ユニオン内で行商をしております。利益も通常通り出ており、孤児や身寄りのない者たちの内、ここに来たいという者を連れてきております」
「うん。わかった。では僕らの今後の予定だが‥イオ。よろしく」
「はぁ。まあ良いけど。えーと、まず、準備ができ次第、ワールハイトへ向かう。今のエルドたちなら1週間あれば往復可能だろう」
「「は?」」
いや、エルドたち本人が驚くなよ。強くなってんだからできるよ。それくらい。
「その後、ブラックスミスへ移動し、北上、5本川を経由し、リュート神聖国へという流れになる。その後…」
「ちょ、ちょっと待て、イオ。色々突っ込みたい」
「なんだよ、エルド。お前が予定を言えと言ったんだろ?」
「そうなんだが、そうじゃなくてだな。まず、こことワールハイト往復で1週間は厳しいだろ?」
「今のエルドたちなら余裕だよ。心配しなくていい」
「「‥‥」」
なんで、皆、そんな怪訝そうな顔をするんだよ。とりあえず、話は続けるが。
「まあ、戻ってきてからの状況では予定を変更しなくてはいけないんだけど」
「そうだな。ユニオンのことがあるし。そんな状況でリュート神聖国へ行って良いのか?」
「ダンカン、ユニオンとの境界付近に石とかは集め終わったか?」
「ああ、それなら終わってる。イオの言う通り、土や粘土もあるぞ?」
「サンキュー。じゃあ、予定通りだ」
「すまん、イオ、何やってんのか聞きたい」
「ああ、エルドたちがいない間に色々想定していた仕込みをね?きちんと話そうとは思っていたよ?だからそう疑うなよ、エルド」
「いや、疑ってはいないが、わからないことが多すぎて困っている。説明してくれイオ」
ダンカンたちにさせていた仕込みは完了しているようだし、計画通りだね。
「じゃあ、計画を話そう。まず、ワールハイトから戻ってきた後、ユニオンとの境界に巨大な壁を建てる。魔法を使ってね?」
「ああ」
「で、その壁にはユニオンと行き来できる扉を1つ付ける。それでユニオンから勝手にこっちへ来ることはできなくなる。もちろん、万が一の防護壁にもなる。これで来年の秋くらいまではもたせるよ。その間にエルドたちはリュート神聖国へ行っておいで」
「ん?ということは、イオはここに残るのか?」
「ああ、そうなる。エルドたちには申し訳ないが、雪があるだろうけど、2月にはブラックスミスに着いて、3月には移動してほしい。で、9月くらいまでには戻ってきてくれ」
「いや、それなら、わざわざ、時間をかけて5本川を渡らずに、トンネルを通るよ。その方が早いし、確実だろ?」
「そうなんだが、今回、帰りはそれでいいが、行きは5本川を渡ってくれ。状況の確認やら、ひどさを見て来い。それくらいの時間はあるし、エルドには状況を見てほしい」
「‥わかった。なら、5月、遅くとも6月中には戻ってくるよ。ユニオンとの戦争が避けられないのなら、時間があった方が良いだろ?」
「そうなんだが、そんなに心配はしなくて良いよ?」
ぶっちゃけ、1年くらいなら時間稼げるだろうし。
書いているうちに長くなったので分割しました。
次回更新は1週間後です。