239.(株)魔神産業?
リュートとの話が長くなり過ぎたので、分割しました。今回少し短めです。
「南西部にあるサミーのダンジョンの一階部分のみ通行許可をもらい、道を作ってしまいましょう」
というこの僕の発言。どれくらい受け入れられるだろうか?
サミーのダンジョンはモンテス山脈を東西に貫くようにまたがっている。面積は非常に大きいダンジョンだ。
難点はいくつもある。
まず、サミーさんは僕らにとっては愉快な仲間なのだが、人にとっては怖いモンスターの親玉のダンジョンマスターである。
道の整備も必要。そもそも、ほとんど人が通っていないのだから、相当時間もお金もかかる。
その道そのものの長さから必ずどこかで宿泊が必要になる。つまり、サミーのダンジョン内で宿泊場所を確保しなくてはいけない。まあ、ここに関してはサミーにも利がある話なので、説得は容易だと思う。むしろ、これが大事と言うか、説得の肝になるのではないかとさえ思っている。
サミーのダンジョン内にできる宿泊場所は道が栄えれば町になるであろう。そうでなくとも、安全であれば、人は多く来る。そうなれば、DP収入を得ることができる。しかも大量に。
引退したサミーといえども、DPはあって困らないだろう。むしろサミーのダンジョンに人を通す利がそれしかない。
そのようなことは向こうも理解していることであり、やはり同じ懸念を持っていたが、リュートが「それなら大丈夫。きちんと住み分けさえできれば、むしろサミーも喜ぶと思うよ」との一言で「協力します」と言ってきた。
なんだろう。人がこう理論で説得しているのに、理論もへったくれもない言葉で、あっさり納得されるのは。非常に複雑な気分だ。
「こちらとしては、あの忌々しい金の亡者どもが河からいなくなれば、それで良いのです。今まで持ち込まれた話は現実的でない話ばかりでしたが、イオ様のお話は素晴らしいですな。ぜひ今後ともリュート神抜きでもよろしくお願いしたいですな」
そう宰相さんから言われた。
「こちらこそ。近いうちに僕が王の候補としている人を向かわせますので、その時はよろしくお願いしますね」
僕としてはこう返すしかない。
「私としては、抜くのは構わないけど、あんまり裏で動かないでほしいなぁ。色々怖いから」
リュートはそうぼやいていた。
ここでは本当に話せないことを話そうということで、別室というか、別宅へと移動することに。
移動方法は城の限られた人しか入れない部屋にある転移陣による転移。
「準備するから、少し待っててね」
そういってリュートは先に行き、僕は少し城の内部を案内してもらった。
予想通りと言おうか、想像通りと言おうか、騎士団の練度は相当なものであった。首都だけではあるが、完ぺきな人口統計も取っているようだし、他の国とは比べられないほど、発展している国であることが再確認できた。
ではリュートのところへ行こうか。
リュートがいるのは神殿風の離宮だった。その特別室と書かれた部屋に転移していたのであった。どうやらここは関係者以外立ち入り禁止区域であるようだ。
観光客なのか参拝客なのかはわからないが、一般人の話し声などは聞こえてくるが、今、いる辺りには人の気配はない。騎士らしき人物ががっちり警備しているのが見える。
部屋を出ると一本道が続き、騎士がいる扉を入ったところに出る。これは扉をくぐれではなく、このまま一本道を進めということだな。
そのまま一本道をしばらく進んだところに扉があり、扉の前にリュートがいた。
「やあイオ。よく来たね。さあ、入って。ここなら邪魔は入らないから、ゆっくり話をしようかと思っていてね」
そういって僕を席に座るよう促すリュート。そしてメイドさんが紅茶を入れて、一礼して退出する。
このメイドさん、人間っぽい服装と姿だが、人間ではないな。ダンジョンメイドであろう。
あ、紅茶が美味しい。相当良い茶葉だな。淹れ方も完璧。
一息ついたところでリュートがいきなり本題を話し出す。
「そろそろイオもダンジョンコアのレベルが8に上がるだろ?そうしたら、“女神の悪意”」
が見えるようになる。その時イオがどんな選択をするか楽しみにしているよ」
「いきなり、その話か!?」
「え?大事な話だよ?」
「唐突過ぎんだよ!そもそも、その“女神の悪意”ってのが、なんなのかは教えてくれないんだろ?」
「まあ、教えても良いけど普通は信じないし、イオの場合はもうすぐ自力でわかるようになるから、それまでの楽しみとしてとっておきなよ」
そういって、こっちのツッコミをかわしつつ、何も教えてはくれないんだよな。
「そもそも、ダンジョンコアがレベル8以上のマスターは僕ら最初に生まれた3人と、もうすぐだがイオと海王の5人だけ。しかも、7まで到達したマスターすらサミーとかあと2人いるかな?ってくらいだ。それだけの立場にいるってことは自覚してね?そもそも自分の長所を生かしつつ自重できるマスターしか長く生き残れないし、強くもならない。その点イオは完璧だよね」
そうリュートは評価してくれたが、ダンジョンマスターはある程度育つまでが非常に大変だ。大抵は人に見つかり、殺される。生きていても奴隷が関の山。そのころに調子に乗ると痛い目どころかゲームオーバーだ。
これは今では魔神様流のふるいなのだと思っている。生き残る資格のあるダンジョンマスターのみが生き残り強くなる。「好きにしろ」といいつつ、魔神様の思惑からあまりにも外れた行動をとると、命を代償にしなければいけなくなる。そういうふるいだ。
リュートはおそらく、開示できる範囲内で情報をこちらにくれるつもりのようだ。開示できない情報というのは、あらかじめ、わかっているのだろう。今回は他の人には聞かせることができないが、僕にのみなら聞かせても良い内容の話をするつもりで、ここに呼んだのだろう。
実際、リュートは話を続ける。
「私は不思議に思っていた。私たち3人は“支配型”と呼んでいるダンジョンマスターで他のダンジョンマスターを配下にし、より自身の能力や勢力を強めていっている。今までは“被支配型”のダンジョンマスターばかりだったのに、突然、“支配型”のダンジョンマスターたちを父は作り出した」
支配型?ダンジョンマスター支配のスキルはダンジョンマスター全員が持てるわけではなかったということか?
「しかし、自重ができない者ばかりだったようで結局、イオ。君しか生き残れなかった」
そう言えば、クナ以外の同期のダンジョンマスターたちがどうなったのかを知らないな。リュートの話では僕以外はすべて死んだということのようだ。クナも加護を失い、実は僕の配下としてでしかダンジョンマスターの力を使えない。この場合も実質死亡扱いなのだろう。
「今の話で気が付いたと思うけど、“支配型”のダンジョンマスターは、今現在、私たち3人以外では、イオと海王のみだ。海王は元々“支配型”ではなかったのだが、ある功績が認められて、父が褒美として“支配型”へと変えたんだ。だから、海系のダンジョンマスターたちのまとめ役、海王と呼ばれるようになったのさ」
そうだったのか。なんだろう、こう、いわゆる魔神産業という会社で働く僕の同期が僕以外全部いなくなったような感じなのだろう。そして、海王は仕事ぶりが認められて、幹部候補になったと。そういうことだったらしい。
そして、社長である魔神様の意にそぐわないことをし続けると、命を代償に支払え、と。超ブラック企業ですね。魔神産業。
魔神産業は退社=死、かつ休日なしの超ブラック企業。
次回更新は1週間後です。