235.出航前のトラブル
いつもありがとうございます。
5本川を渡るため、船のチケットを買いにきたのだが、次の船の出航は3日後。まあ、それは仕方ない。毎日船が出ているわけではないのだから。問題なのは、チケットは基本的に当日のみ予約販売され、一枚金貨1枚かかるのだが、それだけでは確実に乗船できるわけではないということだ。
このチケット一枚で金貨1枚にさらに上乗せした金額の多い順から定員になるまでのることができる。定価の金貨1枚とはなんぞや?
さらにこれが5本分。つまり5回あるという。単純にこの5倍のお金がかかることになる。
この世界では物価も違うので一概には言えないが、金貨5枚もあれば家族4人の一般家庭が1カ月は余裕で暮らせる。ここを渡るためには金貨5枚では足りない。となるとこの金額がどれほど高額かおわかりいただけるだろうか?
入町税が大銀貨2枚。これは6回かかるので大銀貨12枚。大銀貨10枚で金貨1枚のため、金貨1枚プラス大銀貨2枚。それに滞在費も必要で、これにチケットに上乗せするお金となれば一体いくらかかるのだろうか?
この辺りが僕の領域だったら、こんな商売はさせないのだが、いかんせん、ここは領域外。周囲の町などからここの辺りの情報は入ってくるので、ある程度知ってはいたが、聞きしに勝るひどさだ。
ちなみにこの5本川辺りはどのダンジョンマスターも支配下に治めていない。一番近いのが海王だが、せいぜい下流までとなっているし、僕やリュートの領域とも距離がある。
こういうところに新たにダンジョンマスターが来たりするのだが、ここに来たダンジョンマスターは可哀そうだ。
下手に領域を広げれば海王に接触し喰われ、かといって、何か活動すれば人に見つかり、力をつける前に狩られるだろうからだ。
乗船チケットに関しては考え方を変えることにした。
定額とすれば腹が立つが、オークションだと思えば幾分腹も立たない。
乗りたい時間のチケットをオークションで競り勝てば手に入れることができると考えれば良い。そもそも一品物ではなく何十人分かはある物なのでどれだけお金を積むか?ではなく、獲得するのに最低どれくらい必要か?が大事になる。
今回で言えば、金貨1枚にさらに金貨1枚。つまり金貨2枚でベットすれば、ほぼ確実に手に入れることができることは知っていた。なので、今回は金貨2枚で入札し、結果を待てばよいというわけだ。
宿をとり、待つわけだが、あと2日間ある。ただ、宿に籠るのも良いが、せっかく来たのだ。色々情報を収集することにした。この辺りはまだ僕らの商会の手を伸ばせていない地域なのだから。
今回とった宿は一般的な作りの宿。入ってすぐの正面に受付があり、隣に酒場兼食堂が併設されている。寝泊まりする部屋は2階になる。
一家で経営している宿で、人の良さそうな小太りのおじさんと明るく、肝っ玉母さんと言った感じのおばさん、10歳くらいの僕と同じような歳のかわいらしい女の子と7歳くらいの活発な男の子の4人家族。その雰囲気が良くて、ここに泊まることにした。
今日はこのままその酒場兼食堂で食事をしつつ、情報を集めることにした。
見た目は11歳の子供なのでお酒は飲めない。中身は100歳超えた爺なのだが。ホムンクルスが子供である以上そこは諦めるしかない。いや、お酒が飲みたいわけではないんだ。
色々食料を作っているクナ、その加工品を作っているトトークのコンビならお酒を作るのもわけはないからだ。そっちの方が明らかに良いお酒を飲める。
ただ、よく映画とかであるカウンターで端に座って、同じく端に座っている美女にお酒をおごって、マスターから
「あちらのお客様からです」
とかいうのをやりたいだけなんだよ。それがこんな子供からじゃ格好がつかないでしょ?
あ、ゴロツキのおっさんからの
「こんなガキがこんなところにノコノコ何しにきやがった!大人しく家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな!!」
はノーサンキューです。現状一番可能性高そうだけど。
僕はカウンター席で出された食事を食べつつ周囲の話に聞き耳を立てていた。自分の領域内であればこのようなことをする必要はないのだが、ここは領域外なのだから仕方ない。こういうこともしなければ。
期待していたイベントどころかイベントそのものがなく、ただご飯を食べつつ、周りの商人とその護衛だろう傭兵たちの話を聞くだけの時間になってしまった。
その肝心の話の内容がまあ、意味がない。こちらが期待した話は一切出ず。カウンターで宿のおじさんと話をした方が何倍も有益だったというオチ。
「この辺りの町はここ数年、代表が代替わりしてから、悪どいことが多くなってきた。特に船での輸送に関して、子供や一人だと誘拐されたりといったことが増えて来たらしい。坊主も気を付けなよ」
などとおじさんに言われた。これが一番情報としてありがたかった。
さて、そんなこんなあり、乗船の日。
無事金貨2枚でチケットを入手でき、受けつけでチケットをもらい、乗船前に荷物の点検や乗ったあといなくてはいけない部屋の場所などの確認がされたのだが、そういった確認をしている船員の男、一見ガタイが良く、仕事ができそうな男なのだが、何か嫌な感じを受けた。何かを隠しているような小ズルい感じというのか。
誰だ、同族嫌悪とか言ったのは。
いざ、乗船時間になり、客がどんどん乗船していく中、僕も乗ったのだが、先ほどの船員が
「今、通路が混んでいるので、別な道、案内しますんで、こっち来てもらえます?」
と言って来た。
何かあやしいとは思いつつ、とりあえず、着いていくと、船の中の隅の方に連れていかれた。そこには3人の船員がいて、ニヤニヤ笑っている。
ここは人もいないので何かあっても声も特に聞こえないだろう。横には人が一人は入りそうな木箱が置いてある。
え?そういうこと?これ、宿屋のおじさんが言ってたやつだよな?
「坊主、こんなところにノコノコついてきた自分を恨みな」
案内してきた船員がそう言って、腹パン入れようとしてきたので、その手を横から掴んでやると
「え?」
みたいな顔したので、
「え?じゃねーよ!」
腹パンし返してやる。
ボグッ!!グフッ!!
いい感じに良いのが入った。そして悶絶する船員の男。こいつはもう立ち上がることはないだろう。
「テメエ、なにしやがる!」
「やっちまったな、この餓鬼が!」
「これで船動かせねーじゃねーか!テメエの身体で払えや!!」
などなど口々に言いながら殴りかかってくる。ナイフの一本くらい出してくるかと思ったが、反撃されるとか、あまつさえ逆に殴り倒されるとかの可能性は考えていなかったのか?
当然、こんなのにやられるわけもなく、当然全員殴り返しておく。
足下にはピクリとも動かない4人の船員。このまま放置すると船が動いたときに見つかるだろう。そうなると、長時間の拘束やら色々面倒そうなので、4人に止めを刺しつつ『収納』していく。
『収納』には生物は入れることができないが死体は問題ない。このまま客室へ行けば、船員たちは、人数が足りなくてバタバタしている様子が伝わってきた。しかし、予定時間を少し過ぎたが無事出航となった。
出航前に売られそうになるイオ。能力差からやられるわけはないのですが。
自分の執筆速度の問題で、ここまでになりました。すいません。
次回投稿は来週になります。