233.鍛冶の村ブラックスミスにて
少し短めですいません。キリが良かったので。
「‥というわけで、現状逃亡者の村、ワールハイトの食料問題はほぼ解決した。あとはワールハイトの財政再建だが、これはエルラノーア商会からの貸し付けという形で先送りできている。そのため想定外のことがない限り、2.3年は大丈夫だ」
「わかった。こっちは引き続き全力で協力を取り付けられるよう頑張るよ」
クナのエルフの里で僕はエルドに定期報告をしていた。
エルドたちは相変わらずクナの試練と言う名のダンジョン攻略をしていた。回復魔法持ちのアイシャちゃんが加わってから、今まではアイシャちゃんのレベル上げや訓練に時間を取られていたため、10階層前後でウロウロしていた。
だが、いよいよアイシャちゃんが戦力になってきたので、そろそろまた階層更新にチャレンジするとのことだった。
「それと、エルドには言っておくが、僕はここから北東にある鍛冶師の村へ行く。幸い道は獣道だが、あるにはあるのでそこを通る予定だ。多少道幅を広くすることくらいはするかもしれないけど。エルドたちはダンジョン攻略終了後に向かってくれ」
「わかった。イオはそのまま待機かい?」
「いや、村は任せられるから、僕はそのまま北上してユニオン東部に入る。情報収集しつつ、そのまま北に行って、5本川を渡ってリュート神聖国へ向かう」
「え!?マジ!?こっちは苦労しているのに観光ってずるくない!?」
ズルくないです。だったらとっととダンジョン攻略してくれ。そう思ったが、言わずに、僕の現状を告げる。
「仕方ないだろ?エルドたちは来年行く予定だけど、僕は来年行けないんだから。今のうちに情報収集してくるよ」
エルドたちは来年行く予定だったが、僕はダンジョンマスターの仕事や予定の関係で来年はついていけない。
その後、ライドたちと雑談をしたりして、翌朝ゴバ君がいる鍛冶師の村ブラックスミスへ出発する。
獣道だが、クナの里とゴバ君の村は一直線につながっている。そもそもこの道は二人は知り合いですよという表向きのアピールのため作った物である。(実際の物のやり取りや移動は転移があるため道は使わない)
道中は野生のモンスターがいるが、数は多くなく、ところどころで野営地を作ってやれば、この世界の水準を考えれば容易に進むことができるくらいの難易度。
2週間ほどで目的地までたどり着くことができた。
村では部下の人に取り次いでもらい、ゴバ君のところへ挨拶に向かう。
鍛冶師の村ブラックスミスは住人がドワーフ中心でエルフや人間、竜人なんてのが少数いるくらいで他はなんの変哲もないいたって普通の村に見える。
竜人は村から東にあるモンテス山脈に住むサミーの部下でゴバ君に鍛冶仕事を学びに来たためにいる。見た目はトカゲ人間なのだが、トカゲ人間は竜人に対しての蔑称に当たるので厳禁。リザードマンならかろうじてOKということだった。ドラゴンソルジャーにリザードマンなんて言ったら怒るけどな。
エルフはクナの里から魔道具の開発のためにいて、鍛冶、魔道具を学ぼうと数人だが人がいる。
さて、この村ももちろん見た目通りの普通の村ではない。地下がダンジョンの一部となっており、そこに鍛冶に必要な施設がすべてあり、村長の工房がゴバ君の工房への入り口である。
僕はその村長の工房へ向かう。
村長の工房に着くと、当然村長がいる。ここの村長は表向きであり、実際はゴバ君が長なのだが、ゴバ君は政治など鍛冶以外の雑事はすべてこの村長に任せている。つまり村長に認められないとゴバ君に会うことすらできない。まあ、僕は関係ないが。
ちなみにエルドたちのゴバ君からの試練はこの“村長に認められゴバ君に会う”である。
さて、鍛冶の村ブラックスミスの村長であるドワーフのおじさん、名をビバイドと言うが、彼はゴバ君の右腕ともいえる人物で、エンシェントドワーフという種族でダンジョンマスターを除くとドワーフ族の中で最上位である。
見た目はただの気のいいおっさんなんだけど、もちろんダンジョンマスター代行である。
「やあ、ビバイド久しぶり。ちょっとゴバ君のところへ行くけど良いよね?」
「もちろんです。イオ様。ゴバ様はいつも通り鍛冶の最中ですが、イオ様ならなんの問題もありません」
もちろんビバイドは僕のことを知っているので話が早かった。普通は村に入った時に色々チェックされ、村長のところに行くのにすら時間がかかるのだが。
村長の工房の奥に転移陣があり、村長かゴバ君の許可がないと起動できない仕組みになっている。この転移陣の先にゴバ君の工房がある。この転移陣を使わずにゴバ君の工房に行くにはゴバ君のダンジョンを攻略する必要がある。非常にめんどくさいので、転移陣が使えるなら絶対使う。
さて、ゴバ君の工房に着いたが、早速トンテンカンと鍛冶をしている音が聞こえてくる。ここはダンジョン最奥の何もない平原。その真ん中にゴバ君の工房と隣にバカでかい炉と倉庫がある。
「こんちはー!お邪魔しまーす!ゴバ君いるー?」
そんな適当な挨拶をして工房に入る僕。ここにはゴバ君の助手が数人いて、だいたいその助手が最初に対応してくれるはずなのだが、返事がない。まあ、気にせず工房に入っていくんですけどね。
奥にいくと、ゴバ君とその助手がなにやら鍛冶をしていた。ゴバ君がなにやら助手に指導して、助手が鍛冶をすると言った感じだ。
ゴバ君は僕にすぐ気が付いてあいさつをしてくる。
「やあ、おひさしぶりです。今日はわざわざどうしました?」
見た目は普通のドワーフの青年。鍛冶仕事で培った筋肉が眩しいが、実は鍛冶王とも称される鍛冶師の最高峰であるゴバ君だ。
「ただのあいさつと、しばらくしたらエルドたちも来るだろうから、その連絡だね」
「なるほど。もうそんな時期ですか」
「ああ、最もこの分ならエルドたちはあと2.3カ月はクナのところだろうけどね」
「ハハハッ。クナから状況は聞いていますよ。オイラは結構楽しみなんですけどねぇ」
「あと、僕はこのまま北上してユニオンに入るよ。そのままリュート神聖国を目指すからついでに装備も一新しようかと思っていてね。なにか良いのない?」
「ああ、それなら、試してほしいのがありますね。アレ持ってきて~!」
ゴバ君が助手に持ってこさせたのは剣と軽鎧。長さは普通の直剣と黒いライトアーマーのような鎧だが、非常に軽い。これなら動きは阻害しない。
「ミスリルソードとダマスクスメイルです。ミスリルは今回少し配合比率を変えて、少量のチタンを加えることでさらなる固さと切れ味を実現しました。鎧はダマスクス合金でできていますので、従来のよろいより頑丈で衝撃に強く、かつ軽いのが特徴です。作ってみたは良いんですが、試す機会があまりなくて、ちょうど良かったです。感想を聞いて改良したら、また渡しますね」
ゴバ君が一気に説明してくれるが、要は良い剣と良い軽鎧だな。それも本体が持っているミスリル装備の改良版。これ、うっかり人間相手に使えないと思うんだが?というか見せたら、絶対狙われるヤツでは?
「オイラのダンジョンじゃミスリルやダマスクスなんて採れないから、いつももらってばかりで。今回はその成果をちょっとばかり試してもらおうかな?と。まだダンジョンコアショップにも登録していない正真正銘の新作装備です」
ゴバ君がそんなことをいいつつ装備を渡してきた。いや、ありがたいが、これ人間相手にはヤバいやつだし。おいそれと出せないよ!もらってもインベントリ行き確定だよ。もっと普通ので良いんだよ。
その後、とりあえず、見た目普通で性能はそこそこの剣とライトアーマーをもらい、鍛冶師の村に滞在。ミスリルソードとダマスクスメイル?もらったけど、次元収納と言う名のインベントリへ。最強装備が使い勝手が良いとは限らない。ゴバ君、こういうところはハッチャけてるんだよな~。
いつもありがとうございます。
次回更新は1週間後の予定ですが、お正月用の話などはありません(笑)。