230.久々にダンジョンマスターとして
すいません。こちらの都合で投稿が遅くなりました。
少しですが、主人公がダンジョンマスターとして活動していきます。
僕がこの世界に来た時、魔神様は言っていた。「好きに生きろ」と。
通常、異世界への転移あるいは転生では魔神様のような存在に何らかの依頼や願いを受けて、それをかなえることを目的にするのだが、ウチの魔神様は一切そういうことを言ってきてはいない。眷属としてダンジョンマスターの力を与えたのみだ。
魔神様の目的を僕なんかが愚考するに、鍵となるのは“DP”ではないかと思っている。
そう考える理由はダンジョンマスターの力の源泉は何か?ということを理解しなくてはいけない。
ダンジョンマスターの力はダンジョンコア利用によるダンジョンの作成、モンスターの生産、育成やダンジョンマスター自身の育成、各種装備品や魔道具などの購入など数多だが、その力の源泉はすべてDPによるもので、DPがないと何もできない。
そもそも、ダンジョンマスターになり、説明を受けたあと、DPの重要性は嫌でも理解する。
つまりダンジョンマスターとして活動するからにはDPを集めることを目的に動くのが当たり前なのだから、魔神様が目的を言わなくても、我々ダンジョンマスターは勝手に魔神様の思惑通り動くことになる。
この僕の推察を補強する話にダンジョンマスターの召喚速度の上昇がある。
僕は第100番目のダンジョンマスターだが、91~100番までは同時に召喚された。最古のダンジョンマスターの一人であるリュートに聞いたところ、魔神様は10人ずつ召喚しているそうで、だいたい20年以上の間隔があいているらしい。つまり最初の召喚から僕の召喚まで200年以上かかっているのだが、現在はすでに少なくとも200番までは召喚済となっていることから、同じ100人を召喚するのに、100年程度しかかかっていないことになる。
もちろん、最古のダンジョンマスターは特別魔神様が力を入れて召喚したこともあり、それだけ力を消費しているわけで、僕までの100人と以降の100人の能力差はあるのだろうということは考慮に入れていない。
しかし、召喚速度の上昇が全ダンジョンマスターが獲得したDP量によるものだとすれば、一応辻褄は合うわけだ。
ではそもそもDPとは何なのか?ということになる。
獲得条件からMPやHP、つまり魔力や生命力といったものをダンジョンコアを通して魔神様へ力として吸収し、それをDPとしてダンジョンマスターに渡しているのではないか?というのが僕の持論である。
もちろん、今までのことはすべて僕の推察や推論であり、確たる証拠はどこにもないし、証明もできていない。
しかし、魔神様の力が増していることは間違いないわけで、その理由も目的も不明だ。
そして、自らを魔神と呼んでいることから決して、性質の良い神ではない。そもそもこの世界の女神も表では人間に対し、良い神としてふるまっているが、実際は良い神ではない。
むしろ悪神と呼ばれる類の神だ。
だが、もし目的がわかって、反旗を翻そうとしたところで、それはできない。僕らは“加護”をもらっているからだ。
この“加護”
基本的には良い恩恵のみだが、ペナルティとして“反転”がある。
加護をもらった相手に対し、敵対すれば“反転”はまず起きる。
目的が分かって、反旗を翻そうとしてもできないわけだ。そして、確かロキという名の神は北欧神話で出てきて、一説にはいたずらの神とも言われている悪神の一柱である。
そういった人間の苦悩や葛藤すら娯楽として見るような非常に悪趣味なこともしているとされている神でもある。つまり、僕らはどうあがこうとも魔神様の掌の上にいるということだ。
さて‥
「マスター!!いい加減戻ってきてください。手が止まっていますよ!!」
僕はダンジョンメイドのシャールさんに怒られた。
食料品を運ぶ仕事がひと段落し、ほとんどを村の人に任せた後、僕はクナの言う通り、ダンジョンマスターに戻った。実際には、ホムンクルスのイオからドッペルゲンガーのイオというダンジョンコアの制御能力を持った体に移し替えたというのが正解だろう。
そして、戻ったのが久々であったため執務室の机の上には山のように書類が積みあがっていた。それの処理をしていたのだが、途中で減らないことに気が付き現実逃避したというわけだ。
ダンジョンマスターの仕事で書類仕事?と思うかもしれないが、ウチのダンジョンではそういう風にしている。僕がいないことが多いし、言ったか言ってないかなどイチイチ覚えるのが大変だし、覚えられるほど頭は良くない。それにあの時こうしようと思ったことなどは書類を見ると思い出すこともできる。
で、僕が確認するのは各種の決算だったりとか、新モンスターや新スキルの発見などであったり、直属の配下の申請の確認だったりと大事ではあるが、量はたいしたことがないはずであった。
しかし、今年に入ってから領域外に出ることが多く、今まで戻ってきてはいなかった。そのため、机には凄い量の書類が積みあがってしまったというわけだ。
目を通したものには僕がサインして、処理済とするので、中身を見ないでサインだけすれば速く終わるように思えるが、これは絶対にやってはだめだ。
書類の決算とは、DPに関するもので、どれだけ稼いで、どれだけ使ったか?というのを記録している。それは良いのだが、直属の配下の申請。これが曲者だった。
僕の直属の配下とはゴブリンキングのゴブオウ、オーガキングのガキン、エンシェントエルフのミヒャエルの3人のダンジョンマスター代行とダンジョンメイド長のシャールさんであり、ダンジョンマスターである、クナ、ゴバ君、トトークは含まない。
ダンジョンマスターの3人は各々で好きに活動してもらい、何かあった場合は報告や救援要請などをしてもらうことになっている。
で、直属の配下の申請、中身に問題がある場合が多い。
例えば、新モンスターの研究や新スキルの検証にウン百億DPとか出せないし、休暇申請で1年とかも無理だ。コレ絶対わざとだよな?
そんな、書類地獄から抜け出した僕は、久しぶりに自分のダンジョンを見て回ることにした。何度も言っておくが、書類地獄から抜け出したのだ。終わらせたとは言ってない。
「まあ、後で連れ戻しますよ」
後ろでシャールさんが怖いのだが、ここは突っ込んではいけない。見逃してくれたのだから。
現在僕のダンジョンはいくつかのダンジョンの複合構造になっている。クナ、ゴバ君、トトークのダンジョンのそれぞれの隣に入り口があり、地下20階層ですべてが繋がっている。その後50階層までが通常区画と呼んでいる階層で、繁殖するための階層であり、広い面積でなるべく天敵と会わないよう配慮している。
それ以降の階層は本格的な防衛階層となっている。まあ、侵入者もいないので完全な実験階層となっているが。
51階層以降は弱肉強食の世界。モンスターたちは生き残るために様々な戦闘能力を身に着け、強力なモンスターに対抗しつつ、数を増やしている。
だが、如何に強い種であっても、生まれたては弱い。また、数が少ないと繫殖できないので、ある程度数が減り過ぎるとガキンが調整する目的で介入する。
ミヒャエルは研究。その範囲は広く、様々なことを研究、実験している。その研究室はダンジョン最下層にある。僕の執務室や寝室など重要施設も最下層だ。
ダンジョンの拡張には通常DPがかかるのだが、ビルドアントという建築モンスターが改築、拡張をし続けているのでほぼ、DPはかからない。だが、戦闘能力はないに等しいので守らないといけない。その守りと改築、拡張の指示はゴブオウが主にしている。
と、ダンジョンマスターの代行たちは仕事をしているわけだが、普段はそれで全く問題なく運営していけている。
僕の執務室を出るとダンジョンコアルームに出る。さらにコアルームを出ると天井が見えないくらい高い部屋に出る。その部屋の真ん中にはバカでかい岩山がある。
いわば、ダンジョンのラスボスの部屋になぜ岩山?ということになるが、もちろんただの岩山ではない。
「久しぶり」
僕は岩山に手で触りつつ言葉をかけると、岩山が動き回転する。下から出て来たのはドラゴンの顔。
まだ生まれたばかりでこれでも子供なのだそうだが、立派な龍である。
その名もアイランドドラゴン
成体になるとその名のとおり、島くらいの大きさになるそうだ。水中でも活動可能で上陸したらドラゴンの背中でした。みたいなことが伝説で語られているくらいの珍しい龍である。
これだけの大きさだと食事も大変かと言えば、そうでもない。食事は魔力が主らしく、生物を取り込むというよりは、生物に宿る魔力を食べているらしい。ダンジョン、特に最深部は高濃度の魔力が満ちている。また、高位モンスターは普通の食事だけではなく、魔力も食料とする傾向があり、そのためダンジョン最深部の濃い魔力を求めて下に下に進んでいく傾向がある。
僕は挨拶をして、またコアルームに戻り、隠し扉の先にあるミヒャエルの研究室へ行く。
聞きたいことが色々あるからね。彼には。正直、あまり行きたくない部屋でもある。特に最奥には。なので、入り口近くにいてくれると助かるんだけどね。
新しいモンスターを紹介しつつ、復習回でした。
次回更新は一週間後になります。