227.勇者の制限
いつもありがとうございます。
「さっき、ユニオンと戦争するって言ってたけど、いつやるんだ?」
話合いが雑談に変わりつつあるとき、唐突にライドがそんなことを聞き出した。
「未定だよ。というか、絶対回避だよ。当分はないよ!」
そういってやる。今ユニオンと戦争なんぞしても、こっちの被害がデカすぎるっていったばっかだろ!?おそらく、僕らの内の数人が死ぬことになるんだから。
「そうなのか」
「そうだよ。何残念がっているんだよ!?」
残念そうにするライド。何がコイツをここまで戦闘に駆り立てるのか。
「ハァ~。なんのために今いる丘の北側だけ木々を伐採せず、残しているんだと思っているんだよ?この家が平屋なのも、その木で隠れる高さだからだよ?」
「「「そうだったんだ!?」」」
みんなしてそこには気が付いていなかった。
丘の上にある建物が木より高いと、いくら距離があるとはいえ、ユニオン側から見える。その可能性が高い。そうなると、どうなるか?
「一番怖いところでは、土地を奪いに軍が来るかな」
「そうなると戦争がほぼ確実になるな」
僕の問いに答えるノフスとエルド。
「そもそも、今まで公式には人がいない。住んでいないとされている場所に突然城なんて建ったら、人、もしくはそれに近いナニカが住んでいるのは確実だから、少なくとも警戒はするよね。そうなるとこっちに来る人は減る」
ダンカンが言う通り、ユニオンは少なくとも警戒する。ここの現状がバレて、戦争になるまで、時間稼ぎにしかならないのはわかっているが、こちらから針を進める必要はない。今はこのまま開拓を進めることがこちらにとっての最善。余計なことに人手を取られたくはない。
「イオさんの言う通りなんだけど、もしユニオンと戦争になったら、俺、戦うよ!ここは失わせない!こんな、獣人族やエルフや色々な人種がいて、助け合っているところなんか他にない。モフモフは失わせない!!」
マルコはそう決意を表明したが、僕はそこに注意をする。
「マルコ、意思はわかったが、お前は戦争に参加するな。女神から、それに近いことを言われていなかったか?」
「あ~!?そういえば、言われたかもです」
それ、大事だから忘れるなよ!?ちなみに、モフモフ云々はスルーで。
他の皆が「どういうこと?」って顔しているから、説明することにした。
「勇者や英雄が人間同士の戦争に参加することはない。最初に女神に会ったときに、戦争に参加してはいけないと言われているらしい」
今までの歴史上、戦争に参加した勇者や英雄はいたらしいが、ごく少数だ。
勇者は英雄は対魔物特攻効果を持つため、魔物をたおしやすい。その分レベルが上がりやすく、他の人より強くなりやすい。当然、戦争などで最大級の戦力として認識される。しかし、彼ら、彼女らは女神から勇者、英雄に認定されたときに、女神から色々諸注意を受けるのだが、その中に戦争に参加することを禁止することを言われている。
もし、女神からの禁止事項を破った場合、どうなるか?
「もし、勇者や英雄が戦争に参加した場合、聞いた話では“反転”するらしい。実際の効果は見たことがないからわからないが。だからマルコは絶対に戦争には参加するな」
リュートから聞いた話では、女神教国との戦争時、勇者や英雄が出て来たらしいが、その能力の反転効果で二度と同じ勇者や英雄は出てこれなかったらしい。その後の調査で彼ら、彼女らは皆いやいやながら戦争に参加したが、すべて戦場から帰ったところで死んだということだった。
実際の効果が不明といったが、『鑑定』でも出てこないためだ。『上級鑑定』になればわかるようになるのかもしれないが、わからない以上、マルコを戦争に参加させるわけにはいかない。
その後、今後、どのような国にしたいか、や、これからの開拓計画などを話し、寝た。
開拓計画は簡単に言うと、これからも移住者が増えると見込んで、南東方向に扇状に進めていく。
その間、僕らは南のエルフの里を目指し移動。何かあれば現地で対応。今回はある程度道を作りつつ移動する予定なので、片道2週間ほどを予定している。
翌日、逃亡者の村へ行き、その人の多さに驚きつつ、エルマンド商会、つまりエルドの父であるエルマンドさんの様子を見に行く。
エルマンドさんの様子を語る前に、逃亡者の村の状況だが、人が多い。増えている。だが、皆けして満たされているという様子ではない。逃げてきてすべてを失った者も多いのは知っている。食事に関してもギリギリと言っていたから、満足というわけではないのだろう。家がない者も多いと聞く。そのため、開拓には人が集まり、開拓し、家を建てたところにどんどん住んでいく。
村の規模も大きくなっているのはすぐにわかった。その分、必要な物も増えている。そこはエルマンド商会が頑張って集めているが、材料なども集めて、村の人たちで色々作っているらしい。
さて、エルマンドさんだが、最近ますます弱ってきている。見た目もまだ30歳代だというのに老人のような見た目になってしまっている。明らかに何らかの病気なのだが、原因がわからない。
どうやらこの世界の人の寿命が短いのは衛生などの環境だけでなく、こういった異世界の病気も原因であるようだ。最近わかったことではなるが。病気に関する治療法なのも、ほとんど確立されていないのだから、平均的な寿命が短くなるのは致し方ない。
さらに翌日、僕らは移動開始だが、最初だけ、開拓を一緒にすることになっているので、人を集めている。その中にはダンカンとマルコもいたりする。
「えーと、言われた通り人も集めましたけど、これからどうするんですか?」
ダンカンが聞いている通り、50人ほどに集まってもらった。
「まあ、見ていなよ」
僕はそう言って、右手に魔力を集める。コレ今の状態だと結構溜めがいるんだよね。
『ファイアアロー』
火の矢を打ち出すのだが、大きさ、威力は通常と変わりない。変わりがあるのはその射程。1kmである。
着弾点で燃え上がるのを見たエルドは
「え!?何この射程。あと、通ったところ燃えているけど大丈夫?」
「大丈夫。これで道ができた。僕らは火を消しつつ警戒しつつ進むよ。ダンカンたちは開拓よろしく!」
「‥‥ええ」
ファイアアローが通ったところは綺麗に道になっており、着弾点は軽く広場になっている。ここが休憩地点兼野営所で、皆には開拓してもらう目安にしてもらう。当然、魔物も出るので注意してもらうのは忘れない。
僕は休憩地点に着いたらまたファイアアローを打ってと、何回か同じことをして道を作りながら進む。開拓は1kmもすれば1日経ってしまうので、僕ら分かれてどんどん進む。1日2~30回、つまり2~30km進んで野営して、翌日進んでと繰り返す予定だ。
「‥そういや、イオ」
「何?ライド、どうかした?」
「思ったんだが、目的地まで、これ繰り返すんだよな?」
「そうだよ?」
「予定では2週間やるんだよな?ってことは、20かける14で300kmくらいあるんじゃね?」
「ライド、良く気が付いたな!」
「「ライドが頭使ってる!!」」
「オイ、お前ら、ひどいぞ」
ライドが珍しく頭使っているので皆驚いたが、こっちも驚いた。そして、エルフの里はライドの言う通り、逃亡者の村から300kmほどの距離がある。そこまでは草や木が生えてはいるが、ほぼ平地のため、ある程度近くなれば気が付くはずだが、現在姿形も見えない。
「‥イオ、僕も気が付いたんだけど、このままこの方法で進むとさ、当たるよね?魔法」
「当たるねぇ」
「‥まずくない?ソレ」
エルドが言う通り、このまま続けるとエルフの里にファイアアローを叩きこむことになる。しかし、僕は気にした風もなく、同じことを続ける。すると、遠くでパリッという音がする。
「あ、当たった。着いたね」
「‥イオ、そうなんだけど、どうするのコレ?」
「ん?結界で防がれるのは分かっていたから、大丈夫だよ」
「いや、そうじゃなくて、それもあるんだけど、コレ、完全に敵対行為だよね?」
いきなり、エルフの里へ攻撃をしたことで、入り口にエルフの戦士が集まりつつあるのが見えた。…どうしよう?
というわけで、一気にエルフの里へ。