223.ドラゴンハンターの街からの帰り道
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発注していた竜車が出来上がり、明日ワールハイトへと帰ることになった僕らはエル爺さんの屋敷でドラゴンハンターやドラゴンハンターを目指す傭兵たちと訓練をしていた。
そして、それをテーブルで座って見つつ、僕とエル爺さんはお茶を飲みながら話をしていた。
「あした、帰るそうじゃな。気をつけて帰るが良い」
「ありがとうございます。おかげさまで非常に有意義な一カ月を過ごすことができました。またハーンさんを通して連絡はしますので、よろしくお願いします」
「ああ、楽しみにしておるよ」
この約1か月、色々あったが、僕らはほぼ訓練や周辺の弱い魔物狩りなどを行っていた。そうしていると、街にドラゴンを狩ったという知らせが来てお祭り騒ぎとなっていた。
どうやらここでは大体1~2カ月に1体程度のドラゴンが狩られているそうだ。といっても、ほとんどが成体になったばかりのドラゴンでそこまでの強さも大きさもない。きちんとした成体のドラゴンが狩られるのは1年に1体あるかないかといったところだそうだ。
その時にドラゴンの素材を購入し、肉も食べたが、絶品だった。肉は成体で強い個体ほどうまいと言うことも聞けた。
ちなみに、ここで狩られるドラゴンはエル爺さんからすると、育成に失敗した落ちこぼれの個体であるらしく、懐は一切痛まないらしい。むしろ狩られてくれることで、今後の憂いはなくなるし、人は集まるしで良いと言っていた。
実はこの前、ワールハイトへと戻るとエル爺さんに告げた日の夜、屋敷に来てほしいと言われ、行き話をしたのだが、その際、
「今後、お主たちがどういう風に対応していくのかは知らぬが、女神教には気を付けよ。特に狂信者どもにはな」
と言われた。
女神教はこの世界で広く信じられている宗教で、この世界を創ったとされる女神を信仰しているのだが、人以外はすべて女神が創ったモノではなく、魔物と同様討伐、管理するべきと言って、獣人たちやエルフ、ドワーフたちを襲う女神教原理主義の狂信者がいる。こちらとしては非常に迷惑な奴らだ。
実際、人以外はすべて女神が創ったモノではないというのは正しいが、討伐すべきまで女神が言ったのかは不明だ。だが、女神教の上層部にいけばいくほど、この狂信者の考えに近くなるらしく、リュート神聖国と戦争になり、女神教の総本山以外はすべて滅ぼされ、トップである教皇や重鎮である聖女なども処刑されたと聞いている。
今は、総本山だけとなり、活動も静かになっているが、一部の狂信者たちは逃げて、あちこちで反抗の機会を待っていると言われている。特に女神教の国に近いユニオンに多くいることはわかっている。
エル爺さんが言うには、以前、この狂信者たちがドラゴンハンターの街に侵入し、獣人が経営しているお店に、獣人を殺して売っているすべての物を盗もうとしたり、ドラゴンの素材を奪おうとしたり、色々やってくれたらしい。
エル爺さんは裏で狂信者の大元で、女神教の中でも高位にある人物が街に入り込んでいることを確認し、処理をしたが、表では街が少なくない混乱をしたそうだ。
「どうやら、あの時の主犯はこの街の実質的な乗っ取りを画策していたようでな。色々なところに手が伸びておって、後処理に苦労したもんじゃ」
そうエル爺さんは言っていた。
さて、場面は訓練をしているのを見ているところに戻って、
「お主たちが来て、ここも賑わった。皆も良い刺激を受けたようで、ますます上達してくじゃろう。時間があればまた来るが良い」
そうエル爺さんは言ってくれた。そして、コソっと
「サミーのやつにもたまには連絡くらい寄こすよう言っておいてくれ」
そう言われた。
サミーは僕のダンジョンに東にある大山脈に住むダンジョンマスターで引退するまでエル爺さんと関わりがあったらしい。引退と同時に連絡もなくなったようだが。
「言っておきます」
僕はそう答えて、屋敷を後にした。
皆も良い訓練ができたようで、今日はこのまま宿で送別会をしてもらい、明日ワールハイトへ出発の予定となる。
ワールハイトへの帰還の日、仲良くなったり、お世話になった人たちに見送られてドラゴンハンターの街を出る。
ハーンさんの商会が保有する竜車5台と僕らの竜車の計6台。それを護衛する傭兵が十数人、御者やもちろん、僕ら5人もいる大所帯だ。
その大所帯で来た道を戻るわけだが、湿地帯は変わらず難所である。
湿地帯の毒はドラゴンハンターの街に近いほど広く、強力になる。昔、湿地帯に自生している解毒草を狩り過ぎてしまったためだ。
行程として、徐々に厳しくなっていって、最後に力を振り絞るのと、最初に力を振り絞って、そのあともしばらく気の抜けない状態が続くのでは、やはり、後者の方が厳しいはずだ。
行きよりも大所帯であったため、進行速度は遅くなるのは仕方がないにせよ、行程の厳しさ、疲労などが効いているのだろう。毒になる傭兵が多かった。
それでもなんとか、東に行けばワールハイトへの道に行くところまでたどり着いた。もちろん犠牲者はゼロ。毒になったり、ケガをする者はいたが、致命的なことになる前に対処ができたことが大きかった。
ハーンさん曰く、犠牲者ゼロは珍しいとのこと。
「ここまで来ればあと一息ってところだ。もう少し頑張ろう!」
エルドが声をかけて、僕らは進む。北へ。
終戦後、ワールハイトとニゴ帝国の間は完全な絶交状態。お互いに行き来するのは難しくなった。それでも完全に国境を閉鎖しているわけではないため、正規の街道のルートを通らなければ、入国は可能である。
「しっかし、よく考えついたな」
「そして、それを実行しますか?これ捕まったらヤバイんだと思うけど」
そういうライドとルルではあるが、反対はしない2人である。そして、ルルが話すのは珍しい。エルドとはよく話をしているようだが。
ルートの難易度はドラゴンハンターの街近くと比べると大したことはない。まだ、もうすぐ春と言った時期なので寒さはあるが、解毒草の自生地もしっかりあるため、毒はほとんどない。
魔物は出るが、お馴染みのスライム、ゴブリンや、アクアウルフ。アクアウルフは他よりも数が多い気がするが、1体1体の能力は低いので冷静に対処すれば大丈夫。ただ、これだけ数が多いと通常の護衛では太刀打ちできない可能性がある。僕らと同じようにここを通ろうとする人がいないのはこのためだろう。
湿地帯を抜けるとやや離れたところに村というより集落が見える。
「あの集落には近づかないように行こう。あそこには国の調査員みたいなやつが数名いる。連絡されると後が面倒だ」
ハーンさんがそう忠告してくれる。この辺りはまだ僕の領域外であり、配下のトトークの領域からも外れているので、詳しい情報がないので、ありがたかった。
僕らは集落から見えないように大回りで移動し、主要な街道に出る。ニゴ帝国は鎖国状態といっても良い状態だが、国内の移動は制限がない。この主要な街道には数人だが、人の姿を見ることができた。
主要な街道は整備がされているらしく、竜車で問題なくすれ違うことができるくらい横に広く、人も歩くのだろう。土ではあるが平らになっている。
僕らはニゴ帝国の首都ニゴックを目指す。首都や周辺都市の様子を確認して、戦争による疲労や経済状況などを確認できれば、ワールハイトへと戻る予定だ。滞在時間が長くなれば、それだけ、見つかる危険性も上がる。なるべく短時間で終えなくてはいけない。
街道を進み、僕らはニゴ帝国第二の都市と言われているリフへと到着した。
ここリフはニゴックに近く、ニゴ帝国中の物資がニゴックへと入る前に中継する集約地となっている。さらに、ニゴ帝国最大の軍事設備、修練場もある都市である。
僕らはここリフで宿を取り、情報を収集することにしている。一応、エルラノーア商会の支店もあるが、警戒されているため、大ぴらに情報収集はできす、単なる商業活動のみをしている。今回は支店には夜間、僕のみが接触し、様子を聞くことにしている。
ここリフはトトークの領域内のため、情報の確認もできるが、市井の細かい様子や雑感などは住んでいる人に聞かないとわからないことも多い。
ざっと見た感じでは戦争後とは思えないほど街が賑わっているように感じたが、気のせいではないのだろう。
先の戦争でブフラルという比較的大きな都市からほぼ丸ごと略奪してきたのだから、一時的とはいえ兵やその関係者の財布のひもは緩む。それが好景気を生み出す元となっていることは予想ができていたからだ。
元がそういったお金であれば、本当に一時的な現象に過ぎないため、今後はまた周辺の敵対している都市へ略奪に行く可能性も高いと踏んでいる。この場合の一番近い大きな都市といえばワールハイトだ。
ニゴ帝国は戦争前、混乱の真っただ中にあって、資金などもかなり苦しかったと聞いている。しかし、この様子では国の資金もある程度余裕ができるところまで回復したと考えられるのではないか?
明日以降、まずは軍事施設の様子や駐留している兵たちの様子を見て、景気や経済状況も推測して、戦争の準備などをしていないか確認する必要がある。
ここまでの道中で消費した物資の補充もしなければならない。それが終わる頃にはまた、湿地帯を通り、レン村を目指すことになる。
その数日でどれだけ見つからず、情報を集めることができるか。
もちろん首都ではないので正確な情報は集まらないだろう。しかし、戦争の準備などをしていれば、必ずここリフで何か動きがある。まずは情報の収集から始めよう。
あと一話ニゴ帝国内のお話をやって、ワールハイトへ戻ります。
次回更新は1週間後を予定しています。