222.ドラゴンハンターの街にて
今回、短めです。切りが良かったので。
エル爺さんへの挨拶が終わり、翌日から僕らエルド傭兵団はドラゴンハンターの街の視察に出かける。
まず真っ先に向かった先は竜車。竜車の本体とそれを曳く竜、コドモドラゴンの牧場だ。
ドラゴンハンターの街の外にある牧場ではコドモドラゴンの育成について説明を受けた。
コドモドラゴンはドラゴン系ではなく、爬虫類のため寒さに弱い。しかし、ワールハイトくらいの気候ならば十分繫殖は可能であることがわかった。
コドモドラゴンの野生種は気性が荒く、騎獣には向かないが、生まれたころから人に慣れさせると気性がおだやかになり、問題なくなつくようになる。その辺りはエルラノーア商会で主に使っているウルフと同じような生態だった。
餌についても植物ならば比較的何でもよく、ドラゴンハンターの街では脱穀後の稲のワラなどをあげているそうだ。
エルラノーア商会としてここで番の若い2頭を購入した。この2頭をワールハイトへ持ち帰り、繫殖させる予定だ。ついでに竜車の本体も購入した。
立派なものではなく、荷車を少し大きくしたようなものだ。それでも帰りの荷物を積むのには問題はない。一応帰りはハーンさんの商会も一緒に行く予定なので、1台増えたところで問題はないだろう。
竜車は出来上がるまで1月近くかかるとのこと。それまでに2頭の教育も終わらせておくということだった。
そのあとはドラゴンハンターの街の北東にある湖付近へ移動し、稲の栽培、つまり田んぼを見た。
ドラゴンハンターの街の週辺で食物を栽培するのに適した土地は少ないらしく、ここの田んぼと畑でドラゴンハンターの街で消費される食料の大半が作られているらしい。
「稲ってのがあるらしいけど、何もないな」
「当たり前だろ?ライド。この辺りは雪がないとはいえ、今は冬の時期だ。作物など育たない」
エルドが言うように今は2月で冬。稲はとうに刈り取られ、休耕中だ。僕らは種籾を買いに来たのだ。そして、この辺りの栽培方法を聞き、ワールハイト周辺でも栽培できないか試すことにしている。
話を聞くと、ワールハイトはここよりも気温は低いが、問題なく育つだろうとのことだ。特に湿地帯の近くであれば水もあり生育条件としてはかなり良いと思われるそうだ。
ドラゴンハンターの街周辺では稲作が発達しているためか、主食は米であり、麦はあまり育てられていない。しかし、元々、大陸中央部から来ている人も多く、パンや麺の要望も多く、小麦を輸入している現状がある。
それが今回、僕らと取引が成立したことで小麦の購入先が増えた。こちらとしても米や南国野菜、フルーツが輸入できるめどが立った。
そのため双方にとって有意義な取引ができた。
その翌日、僕らはエル爺さんのいる館にいた。そこで何をしていたのかというと、
「オラァァァァ!!」
「甘いんだよ!!そんなのが今更効くか!!」
ライドとドラゴンハンターの1対1の模擬戦である。
「うーむ。あの虎っ子、なかなかやるのう。ウチのはそんなに弱くはないんじゃが、圧倒されとる」
「ライドは1対1であれば、人相手なら最強クラスだと思いますよ」
そして、少しはなれたところで模擬戦を見ながら、お茶しているのが、僕とエル爺さん。
ライドは大剣を持ち、相手の攻撃を掻い潜りつつ、相手の鎧ごと叩き切るような戦い方が好みではあるが、模擬戦の時は普通の剣を持ち、相手の攻撃をさばきつつ、防御の薄いところを正確に突いていくような戦い方をする。ただの脳筋ではないのだ。
「あれだけやれるのじゃ、本当に竜退治に挑まんのか?」
「挑みませんよ。力不足です。わかっていらっしゃるでしょ?」
「いやいや、あれだけの力を持っているのはなかなかおらんぞ?この街は大陸中のある者を集めたが、あのような子供とはいえ猛者がいるとは」
「そういってもらえるのはありがたいですがね。…戦闘能力については子供のころからしっかり育てた方が強くなるのはわかっていましたからね。その成果です」
エル爺さんが褒めているのは珍しいのだろう。横で給仕しているハーンさんが無言で驚いている。
「子供のころからの育成か。覚えておこう。さて、お主たちのところにハーンを遣わせることに決めた。うまく使ってくれ」
エル爺さんからの話の通り、今後、ワールハイトとドラゴンハンターの街の間をハーンさんの商会が物資のやり取りをすることに決まり、エルラノーア商会との業務提携も決まった。今後はお互いの人のやり取りなども行われる予定になっている。
「これで、東だけでなく、西からも物資が入るようになるじゃろう。この街にとって重畳じゃ」
ドラゴンハンターの街の物資の購入先は東にある街道沿いにある港町を通り、荒野にある獣人族の国、そこをずっと北に行くとリュート神聖国にたどり着く。
それら東側から必要なものを商会を通して購入している。
人の流れも同様で東側から来ることはあっても、西から来ることはほぼなかった。今後、街の話が広がれば、ドラゴンハンターの街を目指す人も出てくることが予測される。人が集まればそれだけ、街は発展し、DPも入ってくる。
ライドなんかは
「じゃ、このまま東側を回って、リュート神聖国だっけ?行って、ワールハイトに戻ればいいんじゃね?」
とか言ってたが、
「「「無理だよ!」」」
皆で猛反対した。当たり前だ。一体どれくらいの距離と危険があって、どれくらい時間がかかるかわからない。しかも、僕たちには
「そんな寄り道して帰っている間にワールハイトが滅ぶわ!!」
エルドが言う通り、戦争のあとのため、色々後処理が必要で、特に問題なのが食料問題だったりする。おそらく、ぎりぎりのはずで、下手するとそれで反乱なり、暴動なりが起きる。
ここからリュート神聖国行ってとなると、ワールハイトに戻ったころには下手すれば1年経っている。そうなると戻ってきたときに、本当に滅んでいても不思議ではない。
「リュート神聖国はまた別の機会の時だね」
「仕方ねえな」
ノフスが言うことにライドはしぶしぶと言った感じで了承する。してくれないと困る。
まあ、早くても来年になるだろうけど。今年はこれからワールハイトに戻って、色々やることがあるからね。
いつもありがとうございます。
次回更新は来週になります。