218.大湿地帯
少し更新遅くなりました。すいません。あと章管理をしますが、題名が決まっていません。しっくり来なくて‥。もう少しお待ちを。
翌日朝から、僕らは湿地帯へ向けて出発する。
「普通、出発はもっと早めにするものだと思っていましたが、この時間で大丈夫なんですか?」
ノフスがハーンさんに質問をしているが、ノフスの言う通り通常、長距離移動時は朝早くから出発し、夕方までなるべく移動距離を稼ごうとする。実際、今日まではそのようにしてきた。しかし、ここからは違うとハーンさんは説明する。
「この湿地帯は事前にある程度説明したかと思うのだが、歩けるところが決まっている。また、この湿地帯を抜けるには10日前後はかかる。つまり野営をできるところも決まっているんだ。うちらのペースなら最初の野営地までそんなに時間はかからない。むしろ早く行くほうが危ない。滞在時間はなるべく短い方が良い」
この大湿地帯。ものすごく広い。すべて水で浸かっているというわけではないが、地面が出ている場所、水が浅い場所は限られる。竜車が通れるような広さの道など当然限られる。
そして、見晴らしが良い。この場合、見晴らしが良いのはこちらが魔物を見つけやすく準備しやすいというのはあるが、逆に言えば、魔物はこちらをみつけやすく、かつ、襲いやすい。
人間と違って、相手はこの湿地帯に適応した魔物。一筋縄ではいかない。
一行が湿地帯を進んでしばらくすると、景色が一変する。そこは今まで多少泥交じりな水だけの景色から、赤、青、黄色の水たまりが見える景色になる。
「これが言われていたやつですか?」
「ええ、この色が変わっているところがすべて毒の沼地。魔物もいるけど、ここはまだ浅いから大した魔物は出ないわ」
エルドの質問に答えるハーンさん。
水の色が変わった部分はすべて毒。しかも、厄介な魔物はこの毒の沼に住む。近づいた者を襲うが、当然毒をもって。
大抵はちょっとした毒で解毒剤があれば治るが、奥地に行くと、さらに水の色が濃くなる。その濃い色をした沼にいる魔物は解毒剤でも治りきらない毒を持っているらしい。
そんな場所ではあるが、僕は別の緊張感を持っていた。
何かというと、ここはすでに僕の領域外。初めて自分の領域の外に来たわけだが、色々不安になる。
ホムンクルスは予定通り領域外でも機能したことは良かったが、ここからは事前情報なしの移動。何があるかが全く分からないというのは非常に不安になる。
そんな僕の不安はさておき、この辺りからは魔物が出て来た。
水でできた狼、アクアウルフ
人型の水、ウオーターパペット
毒の沼に住むおおガエル、ポイズンフロッグ
といったところがメインで、たまに普通のウルフやゴブリンなんかもいたが、こいつらは水に適応したわけではないので余裕だった。しかし、水に適応した上記の3体は非常にやっかいだった。
まず、アクアウルフは3~5頭くらいの小部隊を組んで襲ってきた。こちらの方が数は上なのだが、まるで水の上なら関係ないとばかりに、水の上をすべるように移動して。
攻撃手段は爪とキバが主で、今のところは問題なく対応可能だが、毒の沼に適応した個体は毒を持つようになるらしい。
ウオーターパペットはこちらが道を移動中に商隊の真ん中から突然水がせりあがって、姿をあらわした。
1体だったこともあり、護衛の対応が間に合ったが、遅れると竜車に被害が出ていたかもしれない。僕はコイツがどんな動きをしていたか、見逃してしまった。どうも人間と同じ体術を使うらしい。
この3体の中で一番厄介なのはポイズンフロッグ。
毒を持つ唾液を飛ばしてくるが、この毒、適応した毒の沼によって性質を変えるようで、通常の体力の低下を引き起こし、そのまま放置すると死に至る毒だけでなく、物質を腐食させる腐食毒や対象を麻痺させる麻痺毒なんてのもあった。
もちろん、それぞれ解毒剤が違うので喰らった場合、こちらが対応できないことも想定される。
結局、その日、最初の野営地に着いたが、魔物への対応に問題はなく、全員無事であった。
野営地は普通の土に草が生えた、至って普通に見える広場だった。普通に見えるというのが、そもそも生えている草が雑草ではなく、解毒作用のある草だった。当然解毒剤の材料になる。それがすべて、一面に生えている。
これだけあれば、取って売れば大儲けができる‥かと言えばそうでもない。
少量なら問題はないが、ある程度の量を取ると野営地がなくなってしまう。
この周囲は毒の水、沼になっており、これらの草が周囲を浄化しているためだ。
この辺りはまだましであるが、ドラゴンハンターの街近くの湿地帯は根こそぎ持って行かれたところがあるらしく、毒の沼の浄化がされず、野営できる場所が減っただけでなく、毒の沼で成長した魔物が住むようになり、危険度があがってしまったところがあるらしい。
西に進むこと3日。
「おお!!ものすごくバカでかい水たまりが見える!」
「あれが海か!」
ライドとエルドだけでなく皆が感動しているが、海が見えるところまでやってきた。
今日はこの辺りで野営をし、南下していくことになる。ちなみに北にいけばニゴ帝国に行くことができる。もちろん、行かないが。
「よし、今日はここで野営してゆっくり休んでくれ。明日からが本番だ」
ハーンさんが言う通り、この湿地帯はここからが難所続きになる。
毒の沼の頻度が上がり、魔物が強くなる。数も増える。そして、海が近くなると海の魔物もたまに出るようになる。特にここは湿地帯で水が近くにあることもこちらの不利に働く。
「海に近くなるが、絶対に近づくなよ?死ぬぞ?」
ハーンさんがそう事前に注意するほど危険度が高い。海に住む魔物でこの湿地帯に上がってくる魔物は確かにこの辺りの魔物の中では強い方に入るのだが、逆に言えば、湿地帯に上がらなければ餌をとれないほど弱い魔物ということになる。
それだけ、海の魔物は強いのだ。
海に近づけば襲われる。陸上であればなんとか対応ができるかもしれないが、まあ無理だろう。
正直、海の魔物と戦うより湿地帯の強くなった毒持ちの魔物と戦う方が何倍もマシだった。なにせほぼ勝てない相手と戦うのはゴメンだ。
僕らはこれから海に近づかず、毒の沼の間を縫うように移動しなければいけない。竜車が何とか通れるくらいの道幅はあるが、沼に近づくので当然戦闘回数は増える。
野営中、僕らエルド傭兵団の5人は集まって話をしていた。
「ここからが本番だ。アクアウルフもウオーターパペットもポイズンフロッグも強化されるらしい」
「どんな強化か聞いているか?エルド」
「毒持ちになるか、毒そのものが強化されるとしか聞いていない。イオから何かあるか?」
エルドから話を向けられたが、領域外なので詳しい情報がない。だが、ここで生息している魔物はウチのダンジョンにもいる。しかもほぼ最大強化バージョンが。あ、海の魔物はいない。なので全く情報がない。しかし、今の戦力で太刀打ちできるのがハーンさんくらいだというのは推定できる。
「いや、こっちも詳しい情報はないが、海の魔物はヤバいから、海には近づくなよ?あと、アクアウルフは毒持ちになると毒中心に動きが変わる。ウオーターパペットは体術の中の攻撃がすべて毒攻撃に変わるから受けられなくなる。ポイズンフロッグの方は毒そのものが強力になり、通常の毒消し薬や解毒魔法が効かなくなる」
そう、皆に伝える。ステータスがわからないからそれが精いっぱいの説明だった。
「‥‥‥それやばいんじゃね?」
「‥多数で囲まれたら全滅する未来しか見えない」
エルドとノフスが言う通りなのだが、あれ?空気が沈んだ。想定が高すぎた!?いや、でも、情報がない以上は最大を想定しておくべきだと思うんだが‥?
確かに、多数で囲まれると被弾する可能性が上がるから受けられない攻撃を受けてしまうことはあるだろう。だが、毒耐性あると大分楽になるし、僕とハーンさんなら回復できるよ?
野営を終えて、進む。これから一週間ほどはこの難所を移動しなければいけない。
更新は来週になります。