217.ドラゴンハンターの街へ出発
新章開始です
学校を卒業し、そして年が明けた1月初旬。僕らはドラゴンハンターの街へ出発する。
ハーン商会の会頭であるルナハーンさんと一緒に行くわけだが、もちろんエルド傭兵団全員で行くわけではない。
行くメンバーは僕、エルド、ライド、ルル、ノフスの5人。大抵、いつもいるミーアは1つ年下のため学校再開後、通学する予定のため、今回は留守番となった。そういった理由で他の学生組もすべて不参加。傭兵団としては5人いるし、エルラノーア商会としても4人いるわけで(ライドは除外)、商業的な話なども問題なくできる。
1月なので、ワールハイトの辺りも雪が積もる。しかし、それほど深く積もるわけではなく、歩きにくいが歩けるくらいだ。しかし、その歩きにくいが命に関わることがあるのがこの世界。そのため時期に遠出をする人は少ない。
今回はハーン商会が所有する竜車で移動するため、少々道が悪くても大丈夫だそうだ。
ハーン商会の竜車は馬の代わりに、体長2mほどのでかいトカゲのような生物、コドモドラゴンが引いている。会頭が乗る車は2頭立ての比較的大きいサイズだ。他に1頭立ての車4台の計5台で進む。
ちなみにこのコドモドラゴン、固い鱗に覆われていて、ドラゴンとついているが竜系ではなく、別種である。さらにイカツイ外見だが、草食である。非常に大人しい魔物でもある。
ハーン商会はこういったコドモドラゴンに隷属魔法をかけて、騎獣としている。
「見た目は怖いけど、慣れるとかわいいね~」
「意外と人懐っこいんだな」
ルルとライドが早速なでたり、スキンシップしている。
ハーン商会が雇った傭兵たちが男女計12人、御者がハーンさん含む5人いて、彼らと一緒に出発となった。もちろん、ハーンさん以外全員人間である。
「では皆さん、準備は良いでしょうか?湿地帯までの道中はイオ様のエルラノーア商会が宿や補給などで支援してもらえます。それでは出発しましょう。」
ハーンさんの掛け声で出発となる。
ちなみに、フラビオ先輩が領主となったので、エルラノーア商会はまた僕が会頭になった。
今回のドラゴンハンターの街へのルートだが、ワールハイトからは南西になるわけだが、そのまままっすぐ行くと、魔の森から続く深い森、セントリクス大陸西部を南北に分ける大山脈、サウザンビーグ山脈にぶち当たってしまうので、迂回する必要がある。
そのため、まずはワールハイトから西へ1週間ほど行き、大湿地帯に入り、さらに湿地帯を進み、海沿いに南下して、ドラゴンハンターの街へという行程になる。
竜車であれば、順調なら3週間かからないのでは?とのことだ。もちろん、道中魔物や盗賊も出る。負傷や竜車が壊れるなどイレギュラーがなければ、ということになる。
大湿地帯まではワールハイト連合国内を街道沿いに進むだけなので、いくら軽く雪が積もっているとはいえ、それほどの困難はない。途中も街でエルラノーア商会が用意した宿で泊まることができるので消耗もない。
だが、そんな道中でも魔物は出る。それでもウルフやゴブリンが数体出る程度のため、僕らではなくとも対処は可能だ。この時期だと盗賊がほぼ出ないとされているので、対処はかなり楽だ。
出発して5日。西へ街道沿いに変わらず進んでいる僕らはT字の分岐点にぶつかった。
「この分岐で北に行くとニゴ帝国、真っ直ぐだと湿地帯前の最後の村、レン村に着く。今日はそこで1泊だ」
ハーンさんの言う通り、しばらくすると、小さな村が見えてくる。
「ここがレン村?」
「そうだよ。今日はここで1泊だ」
「まだ、お昼くらいだと思いますけど、これ以上は進まないんですか?」
「ああ、ここからは大湿地帯。宿などないからしばらくは野宿になる。ここで休んでおいた方が良いからね」
ノフスの疑問にハーンさんが教えてくれた。
「小さい村だけど、宿はしっかりあるんだな」
「何もない、ちい~さい村じゃが、ゆっくりお休みください。ホッホッホ」
「ライド!!すいません。お気を悪くされたでしょう。非礼をお詫びいたしますのでお許しください」
ライドの軽口を受けておじいさんが歓迎?の挨拶をしてくれた。エルドは当然、それを諫めるが、このおじいさんがこのレン村の村長さんである。
「ホッホッホ。実際、本当のことじゃ。気にすることはない。たまに大湿地帯を通る行商人が通るだけの何の特産もない村じゃ」
このレン村、ニゴ帝国から遠いため、戦争にはほとんど、巻き込まれなかったのだが、周りはほぼ湿地帯ということもあって農業、特に麦作には向かない地質。特にこれといった産業や特産品があるわけでもない貧しい村である。
しかし、この村にエルラノーア商会が進出した。それによって、たまに行商人が来るだけだった村に、定期的に品物、食料が入るようになる。
しかし、エルラノーア商会としては、利益はほとんどない。では、なぜ、進出したかというと、湿地帯への進出と、田んぼ。つまり、コメである。
といっても、稲そのものがあるわけではない。田んぼもこれからだ。
さて、俺たち傭兵団は夕方まで時間があるので、湿地帯を見ようということで、やってきた。
「まあ、この辺なら魔物も出ないらしいな。つまらん」
「いやいや、こんな村の近くで頻繁に出られても困るから。ライド」
ライドとエルドの会話である。
「ノフス~。なんか見えない~?海とか~」
「ルル、海は見えないよ!ここからかなりの距離があるって聞いてるよ。魔物も見えない」
「魔物は沼の中とかに潜んでいる場合が多いって聞いているから気を付けろよ?」
「「わかった」」」
湿地帯の中に入っていくルルとノフスを注意する僕と言う構図。
この付近に魔物はいないようだが、沼の部分に魔物が潜んでいたりすることが多いこともあって、ほとんど探索はされていない。そもそも、この湿地帯、サウザンビーグ山脈の雪解け水が流れ込んできたためにできたようで、あちこちからきれいな清流の水が流れ込んでいるようだ。
つまり栄養豊富な水が流れてきているため、豊かな環境になっている。その分、それを狙う魔物も多く、奥部は人が集落を作って住めないためほぼ手付かず。
何が言いたいかというと、この湿地帯、マスターこそいないが、生態系が出来上がっているダンジョンのようなものなのだ。
いや、以前はいたと思われる。おそらく討伐されたかで今はいないというだけで。そもそもこの湿地帯、僕の領域なのはこのレン村から少し先くらいまでで、その先は未知の領域となる。そのためどのような地形で、どのような魔物がいるか?などほとんど把握できていない。
そのような場所だが、村のすぐ近くの湿地帯流れる清流をたどると、すぐに見つけた。
「イオ、何やってんの?」
「ん?ああ、見りゃわかんだろ?山菜採ってんの。……お~!!わさびがある!!」
「え?何々?」
ノフスが目ざとく僕のことを見つけたが、こっちはそれどころではない。わさびだよ。わさび。そうかこの辺、水がきれいだからあるんだね。
適当に何本か採取して、エルドたちのところへ戻るとライドが沼に入っていて、何かを手に持っている。
「お!イオ来たか。…あ、何もってんだ??」
「わさびだよ。わさび。ライドこそ何持ってんの?」
「いや~。なんか不思議な物が泥の中に埋まっていてな。引っこ抜いてみたんだ」
僕はライドの持っている物を見た。楕円の球体が何個も繋がっている‥植物?あれ?これ、もしかして‥。
「ライド、もしかして、そんなのって結構埋まっている?」
「ん?…あるぞ?探せばまだまだあるんじゃないか?」
「でかしたライド!!それ、丸い部分を傷つけないように持ってきて」
「ん?…おおう!もしかして食べ物か?」
「そう!うまいぞ!」
「よし!!何個か持っていこう!」
ライドが持っていたのはハスの根。この世界で見たことないが、レン村で見つかったし、レンコンでいいんじゃね?ってことでレンコンになった。
ちょうど油もあるし、山菜やらも色々あるから、テンプラにしよう。
夕食で作って、ハーン商会の人たちにも食べてもらった。
「‥おいしい!」
「これ良いですね」
「脂っこいかと思ったら、そうでもないですね」
ハーンさん筆頭に護衛の傭兵たちも好評だった。もちろん。ウチのメンバーにも。
「これは!!ウチの特産ができた~!!!」
村長さんにも食べてもらって、喜んでもらった。場所を教えたら、後日採りに行くと言っていた。あとのことはウチの商会の従業員に任せれば問題はないだろう。
レンコンを使った料理はこの村の名物になりそうだし、麦は採れないけど、米が摂れるようになったら、この村、相当重要度が上がると思うんだけど?
こんな感じでしばらく旅行です。
次回更新は来週で、文字数も同じくらいになるかと思います。