216.ダンジョンマスターとしての仕事(後編)
このお話は、時間としては12月の年末前あたりになります。
おさらいと次への布石の話となります。
魔神様から指示が来ていたが、指示どころか、メールすら来たのは初めてである。これはそれだけ、魔神様にとって何か意味があることなのだろうと推察される。その“何か”は全く分からないが。
さて、そんな考えてもわかるはずがないことを考えていても仕方ない。そもそも理解できる範囲のことではないのかもしれないし。それよりも、今後の布石をいくつか布陣しておかなければいけない。
「そんなわけで集まってもらった、我が配下の3人のダンジョンマスターたちです。拍手~!」
「何が、“そんなわけで”なのかがさっぱりわからないけど、イオは何の用?」
僕のダンジョンの奥底にある会議室で集まってもらった3人のダンジョンマスター。彼らそれぞれが個別に特殊能力があって、僕も忘れかけているので、思い出しがてら、確認しておこう。
まずは元奴隷エルフ少女、クナ。今では、僕のダンジョンの南で、エルフの隠れ里を作って暮らしている。隠れ里と言っているが、全然隠れていない。むしろダンジョンが隠れている。
能力は『農業上手』。効果は名前そのままで作った作物の品質向上、収穫量上昇だが、最近、自分が知っている植物の種を生み出すこともできるということが分かった。
ちなみに僕に文句を言ったのがクナです。
次の1人がマスタードワーフというドワーフ最高位のダンジョンマスターの少年、ゴバ君。名前が非常に言いにくいため、ゴバ君としか呼んでいない。
僕のダンジョンの東で鍛冶師たちの村、ブラックスミスと自分のダンジョンを作り、日々鍛冶の仕事をしている。
能力は『武具図鑑』。自分が見たことのある武具なら材料さえ再現可能という能力。最近では知る人ぞ知る最高峰の鍛冶師として様々な依頼を受けて武具の作製をしている。クナと組んで魔道具の開発もしている。
そして、最後に、僕のダンジョンの西にある魔の森で、自分のダンジョンを作っているのがマスタートレントのトトーク。
トレントという樹木系の魔物の最高位であり、ダンジョンマスターでもある。
能力は『植物製品化』。植物由来の物で、トトークが知っている物は材料さえあればなんでも作れるという能力。
作ることができる物があまりにも幅広過ぎて、何を作ることができるのか本人すら把握しきれていないというチート能力だ。
元々、ニゴ帝国で奴隷としてダンジョンマスターの力を使わされていたが、僕が救出。それまで、ユニーク特性というか、能力を知られておらず、全く使っていなかった。使っていたら、今頃ニゴ帝国は余裕で戦争になぞ勝利して、ここら一帯の覇者になっていただろう。
「さて、君たちに集まってもらったのは他でもない。エルドたちへの協力のお願いについてだ。ん?どした、クナ」
ここで何か言うことがあるような様子のクナ。とりあえず聞こう。
「それ、前にも言ったし聞いたけど、私たちはエルドたちがどういう人物なのかは見ているし、聞いているけど、協力するか、どれくらい協力するかも含めて、私たちの裁量次第ってことだったよね?」
以前から、実は希望というか予測として、エルドたちへ協力するお願いをしていた。クナが言ったのはその時の条件だ。
「おう。それで合ってるよ。エルドたちが死なないで五体満足でいられるなら、どんな試験をしても良いということもそのままだ。今回は、その開始時期が早まるって話だ」
以前僕の予測では、学校卒業まであと2年はかかるとしていたが、エルドたちも僕と同じく今年卒業し、これ以上進学しないと決めていた。そのため、エルドたちとクナたちを会わせるのが、2年ほど早くなった。そのため、各々の準備が整うか確認したかった。そういったことを説明する。
「それなら大丈夫。かかりっきりになるような仕事もないし、元々準備はできているから、いつ来ても良いよ。きちんと試験を突破したら僕謹製の装備をあげるよ」
「私のところも大丈夫。準備はすぐ終わるし、ついでに試験突破したら、色々な作物をあげるよ」
そういうゴバ君とクナ。トトークはすでに“クナとゴバ君の試験を突破したら”という条件をエルドたちに与えている。
あと、クナの作物ってこの世界だと超高級品だぞ?それにゴバ君、キミの作る武器って“伝説の~”ってレベルの武器になると思うんだが?わかっているよな?
「あの子らがやっと私たちのところに来るか~。楽しみ」
「楽しみはいいけど、クナ、僕らが行くのは春ぐらいからだぞ?」
「そうなの?」
「そうだよ。それまでは僕らはエルドゥーさんのところに行くから」
「「はぁ!?」」
あ、これ言ってなかったね。
僕らは“竜王”エルドゥーさん配下のドラゴニュートのルナハーンさんと一緒に学校卒業後の冬の時期に南の山脈を超えたところにあるドラゴンハンターの街へ行くことになっている。
予定では1月すぐから3月までを予定している。クナたちのところに行くのはそれからになる。そういう話をした。
「そういう話は先に言ってよ~。で、イオも一緒に行くの?」
「ああ、行くよ。領域外だから、ホムンクルスの実地試験がてらね。その間、任せるからよろしく!」
そうクナに言うと、クナはひどく嫌そうな顔をした。
「‥私も行きたい。里の中だけじゃ面白くない」
「クナは、今はだめだろ?人間たちと接点すらないし、あっても大騒ぎになる可能性が高い。ゴバ君は?」
「オイラは良いよ。皆と鍛冶している方が楽しいし」
クナはいつか、遊びに連れて行こう。不満が爆発されても困るし。…ゴバ君は鍛冶仕事をしている関係なのか自分の呼び方が変わったな。確か前は“僕”だったような‥。それは自分も同じか。どうもホムンクルスの年齢に引っ張られるんだよな。その方が違和感ないからいいけど。
「はあ、仕方ないな。皆と観光楽しんでくると良いさ。“隠者”さま?」
「ハッハッハ。オイラは鍛冶しているから楽しんでおいでよ“隠者”」
‥ピキッ。コイツら‥
「ああ!そういうこと言うなら、皆にも2つ名付けてあげようか?リュートたちにメール送って、人間界に噂を流すなど今の僕にとっては造作もない!」
そう言ったら、皆の顔色が変わった。
「まずはクナだけど、ん~、魔法農業娘〈マジカルファーマー〉とかどう?」
「勘弁してください。私が悪かったです。すいませんでした」
見事なスライディング土下座だ。
「え~!じゃあ、ゴバ君は?」
「オイラは遠慮しますんで、どうぞクナにつけてあげてください」
「売ったよ。即座に味方を売ったよコイツ!」
ゴバ君の180度の変わり身。
「仕方ないな~。クナだけで我慢するか」
「ずいまぜん。本当に勘弁じでくだざい。ヒックヒック」
‥泣くほど嫌か。冗談だよ。まあ、了承したらそのまま流すつもりだったけど。え?それは冗談とは言わない?…何のことかな?
クナたちと別れて、僕はダンジョン東にある大山脈にいるサミーというダンジョンマスターがいるダンジョンに来た。
このサミーと僕、そしてリュートが同盟を組んでいる仲間だ。
今回はこれまでのお互いの状況の説明と今後の対応などを話し合うことになっている。
まず、こちらの情勢。完全に東西の貿易が止まってしまっている状態であり、復旧には相当な年月がかかると思われること。一応報告はしているのだが、改めてと。
リュートからは
「私はイオみたいに裏からどうこうして情勢操るとか無理だなぁ。イオも表から堂々とした方が楽なのに」
と言われた。リュートは最古のダンジョンマスター3人の一人で大陸中央部にあるリュート神聖国の初代国王にして現人神として扱われているため、何か一言いうと周りが動いてくれる。一人称が私なのは、国から「神らしく、我とか威厳を持ってください」と言われたからだそうで、「私で勘弁して。練習するから」ということで練習中らしい。
サミーの方は全く変わりなしとのこと。
サミーのダンジョンは僕のダンジョンの東、セントリクス大陸を中央部と西部に分ける大山脈、モンテス山脈にあり、山脈を越える際の裏ルートになっているが、難易度が高く、知っていても選ぶ人が少ない。DP収入は低いが、本人は引退しているからそれでも問題はないとのこと。
リュートの報告の番になるが、ここでリュート神聖国の解説をしておこう。
リュート神聖国はリュートが作った国であるが、建国はおそらく200年以上前と思われる。僕がこの世界に来た時、すでにあった国だからと、色々情報を総合的に集めた結果、そういう結論にいたった。本人にその辺りを聞いても、「覚えていない」ということではぐらかしているのか、本当に覚えていないのか。
国の規模として総人口1000万人以上なのは確実で首都セイツだけでも100万人ほどがいると言われている。大陸中央部はもちろん、文句なく世界最大の国として君臨しており、軍事力も世界最大だ。
世界最大の勢力を誇る宗教、女神教。その総本山たる女神教の国を滅ぼし、聖都フラメシアだけ存続させた戦争は記憶に新しいところ。
規模の比較として、西部最大の人口を誇る都市国家群である都市連合が総人口で1000万人には届かない。その半分500万ほどと言われていることから、その規模の大きさ、相当な発展具合が推定される。
ゴバ君やその弟子たちの鍛冶師の一番のお得意様となっている国でもある。
政治体制は絶対君主制を敷く、貴族制。民主主義ではないのか?と思うかもしれないが、民の教育がそこまで行きとどいているわけではなく、遠からず崩壊の未来が見えるとのことで、時期早々と判断しているとリュートは言っていた。
どちらにしろ、エルドが国を作ってもこことは絶対戦争はするなと口を酸っぱくして言っておこう。…それよりも見せた方が早いかもしれない。予定を考えておこう。
リュートからは、国内の方は完全に落ち着いたが、女神教の国との戦争の影響で女神教のいわゆる狂信者たちがどうも、こちら側に入り込んでいるようだという報告があった。
女神教の狂信者たちは、人以外のいわゆる亜人はすべて奴隷とするか、でなければ殺せという考えで動いている人たちで、僕らやエルドたちとは決定的に考えが合わない。
入り込んでいるのは、都市連合で、実はすでにユニオン東部の都市のいくつかが中枢部を乗っ取られている。
考えが広まるにつれて、周りの都市との軋轢も生まれていて、それがユニオンの結束を乱している原因でもある。だが、現状エルドたちに影響もないどころか、ユニオンをかき乱してくれるのはありがたいことから、放置、様子見としている。
リュートとサミーにエルドたちの話をして、いつか向かわせることを検討していると言ったら、サミーは
「ダンジョン上層階なら好きにしていい。だが、下層に来るなら容赦しない。それとモンスターにやられても俺は知らん」
ということだった。絶対勝てないモンスターをぶつけるとか殺しにかかって来なければ良いさ。
リュートは
「来るなら歓迎するよ。色々準備して待っていようかな?あ、来るときはアポなしでもいいけど、一応連絡してくれると助かる。こっちとしても、西部の伝手はほしかったところだから」
ということだった。サミーのダンジョンは無理に行く必要はないけど、リュートのところは今後のエルドたちのことを考えると予定立てて、訪問させた方がよさそうだ。彼らの勉強にもなるだろうしね。
というわけで、リュート神聖国訪問決定です。その前に行くところ多数なのでかなり先になりそうですが。
次の章もエルドたちが話の中心になります。
少し修正しました。話の内容に変更はありません。
次回更新も次の日曜日の予定です。文字数も3話分で。9月中はそのようにさせてください。その次は戻すかどうか考えます。