207.開戦前
実は戦争をどう終わらせるかは決まっているのですが、割り方を決めておらず、書き切れていません。
現在、僕らエルド傭兵団はワールハイト軍にいる。もうすぐ開戦といったところだ。
ワールハイト―ユニオン両陣営はブフラルにやや近いところの平野で睨み合っている。この平野はちょうど北と南で数mほどの丘になっているところがあり、その丘に両陣営の本陣があり、左翼、右翼、中央と3つの部隊に分かれている。兵科は歩兵、弓兵、魔法兵の混成で、騎馬はない。人が乗れる馬がないためだ。他の地方では狼に乗ったり、亜竜とも呼ばれるオオトカゲに乗ったりする者がいるが、完全な特殊技能と思って良い。
僕らエルド傭兵団は全員右翼。つまり魔の森に近い方に配置された。右翼の指揮隊長はワールハイト領主の3男で、戦争や部隊指揮能力ははっきり言って皆無だ。
本人は魔法使いだが、騎士が着るような全身鎧に身を包み、安全な後方から魔法を使うだけだ。しかも、前衛は自分が魔法を使うための壁としか思っていないという他の前線にいる兵からの話だ。春の負けはこの3男が使った魔法が前線にいた味方の兵も巻き込んだためという兵からの評価だ。つまり、前線にいる兵からすると味方とは思えない人種ということになる。
ちなみにそのことを問われた3男は「“魔法を打つ”と言っていたのにもかかわらず、避けない方が悪い」と言ってのけたそうだ。
“魔法を打つ”と言っても、いつ、どのような魔法を、どの位置に、などが全く分からない状態で味方がいても構わず打つのだから、前線にいる兵たちは避けようがない。
しかも前線の兵たちには「損耗を気にせずとにかく前へ押し込め」としか指示できない程度の指揮能力だ。はっきりと前線の兵だけでなく、本陣や3男周囲の司令部の兵以外から完全に信用を無くしている状態だ。
今回の戦争の総司令官は前回と同じく、ワールハイト領主の長男が着任している。本陣にはワールハイト政府に近い有力者や大商人の息子たちがいるが、実際に戦えるのは騎士団長のみであろう。
「開戦したら、とにかく前へ進み丘を超えろという指示だが、その難易度を全く分かっていないようだな。こちらの指揮官殿は」
「確かに、前へ進めと言っても、平野部はともかく、丘にたどり着いても上にいる方が優位なのは明らか」
「しかも兵数はこっちが4000ほどで向こうは1万ほどだ。いくら“練度”が上といっても無謀だ」
そんな会話をしている有様だ。はっきりと兵の士気が低い。
3極は軍事だけなら、“練度”のワールハイト、“装備”のニゴ帝国、“数”のユニオンと言われており、兵単体であればワールハイトの兵はかなり強い。だが、常に2~3対1の状況になるなら、厳しいと言わざるを得ない。
「よう。イオも今回は前線か?エルドは前線近くにいるが、ルルやノフスなどの後衛の守りにつくと言っていたし、俺は前線で動き回る予定だ」
「ライドはそれで良いけど、つまらないケガには注意してね。あと、“本番”はこのあとなんだから、体力は残しておいてよ?」
「ああ、わかってる。俺は精々傭兵団に犠牲が出ないよう立ち回るだけだ」
「僕も今日はある程度前線で回復魔法をかけつつ、と言ったところかな」
「なら、けが人はイオのところへ送るようにするぜ」
「前線だから、送るのが難しいようなら僕が行くよ。それより、ライドは熱くなって前線に突っ込むとかやめてよ?」
「わかっているよ。エルドにも口を酸っぱくして言われたし、とにかく、“前には進まない”だろ?」
「ああ、そうしてくれ。開戦初日は特に何も起こらないだろうから、とにかくケガがないように、だ」
「まあ、あの指揮官殿がやりそうなんだがな」
「そこは気を付けてとしか言えないな。最悪でも被害が最小限になるように動いてほしい」
「大丈夫。わかっているよ。最悪は『反射』を使うことも視野に入れているが」
「それは良い。エルドからも使用許可が出ているからね」
などが、開戦前の僕とライドの会話だ。ライドの言う『反射』は条件がそろったときに相手の魔法攻撃を術者に跳ね返すことができるスキルだが、非常に難易度が高い。しかも、今回の場合は打ち返すことになるから、反逆者扱いされることも十分ありえる。
そうなった場合にはエルドと共にプランBへ移行するだけである。非常に面倒なことになるのは確かだが。しかし、ここでライドを失う方が後々に大きく響くので、『反射』OKとなったというわけだ。
次回は金曜日更新予定ですが、遅くなる可能性があります。
更新期間ですが、どこかで通常の3話分の文量を週1で更新してみたいと思っています。その時はまたここでお知らせします。