196.2人の孤児
思ったより先に進まない‥。
僕らのことを遠巻きに見て警戒している2人の孤児。ダンカン、マルコというらしいが、ダンカンが転生者でマルコが勇者であった。他にスキルだとか、ステータスのことだとか、突っ込みたいところは多々あるが、とにかく重要なのはこの2点だろう。ちなみに2人とも年齢は僕らより少し下であろう。
転生者というのは、この世界の人は皆、どこかの世界からの転生者であるが、記憶などは消去されているらしい。なので、実際には“元の前世の記憶がある”者のことを転生者と呼ぶ。
勇者は転生者であり、女神から何らかの意を受けて活動しているらしい。また、戦闘での特に対モンスター、ダンジョンマスターに対する特攻効果が凄まじい。具体的にはHP以外が3倍換算され、与えるダメージはさらに3倍、受けるダメージは3分の1となる。
彼が女神から何らかの指示があってここに来たのか。たまたまそういうことになってここに来たのかは確認した方が良さそうだ。2人とも逃亡奴隷だったから何か事情はありそうだし。
エルドが呼び寄せて話を聞いてみている。周りの子供たちには聞こえない距離を取ったので、これで少し話しやすくなるだろう。
「僕はエルド。こっちはイオ。僕らは去年の春までこの孤児院にいたんだ。お前ら、見ない顔だが、いつ頃来たんだ?」
「‥俺らは来てから1年くらいになる」
「どうやってきたんだ?」
「行商人の人の狼車に乗せてもらってきた。元々俺たちは同じ村にいて友達だったから一緒に来たんだ」
エルドは相槌を打ちつつ、2人の話を聞く。さりげなく触ろうとしたところ、2人はそれを避ける。
「僕らは敵じゃないはずなんだけどな~。なぜ、そんなに警戒している?」
明らかにエルドの能力を警戒した動きを見せた2人にエルドは疑問を投げかけつつ、圧力を加え始める。その危険な様子を感じ取ったダンカンは隣にいるマルコにひそひそと話をする。
「ほら、やっぱり無理だよ。動きや能力なんかも全部バレてるって。僕はこの人たちと敵対なんて絶対したくない」
「それは俺も御免だ。勝てない戦いはしない主義だ。仕方ないから全部話そうか」
「うん。そうしよ。そもそも、僕らはここから出ても生きていけないんだから」
本人たちはひそひそ声のつもりなのだろうが、通常の人より耳の良い僕は全部聞こえていた。
まあ、ここから出ていったとして、逃亡奴隷なのだから、見つかれば、良くてより待遇の悪い奴隷、悪ければ死だ。力がつくまではここから出ていくことは難しいだろう。
ダンカンが非常に弱きなのはおそらく、『警報』のスキル効果の結果なのだろうな。自分の身への危険度に合わせて、自分にしか聞こえない警報が鳴るらしいが、知識はともかく、能力はいたって普通の子供なのだから、この辺りでは『警報』鳴りっぱなしだろうし。
普通に生活してて、『警報』鳴りっぱなしなんて、ずっとびくびく、オドオドしながら生活することになっても不思議じゃない。
逆にマルコの方は『勇者』であり、『鑑定』持ちなためか変に強気な態度をとる。能力もそこそこ高いから余計なのだろうな。そのあたりが奴隷落ちした原因のような気がするが‥。
さて2人からどんな話が出てくるのやら。
次回は2人の話です。進みが遅くなった気がするのですが、すいません。




