187.予測と予定
エルドとの話し合いその2
魔の森を抜けて僕らの村で建国のための準備をする。名前なども決めなければいけないし。いい加減“逃亡者の村”では対外的にマズイことも出てくるだろうし。そもそも、村の人以外がそう呼ぶだけで、僕らは自分の村の名前のことなど呼ぶこともないし、考えたこともない。
まずは森を抜けるための準備と、メンバーへの説明もしなければいけない。そういったことをエルドと決め、今後の情勢の予測をエルドに話し、対策も考えないといけない。
「今後の予測なんだけど、ワールハイト・ユニオン戦争は年内で決着はつかない。そこは間違いない。物資や財政の話はエルラノーア商会の幹部会で話をしたとおりだが、兵の話をしないといけない」
「うん。一応僕もある程度予想はしている。間違いなく、ウチの傭兵団への徴兵が厳しくなるし、いずれは参戦しないといけなくなるとも思っている。だけど、最低でも報酬額を上げてもらわないと話にならない。まあ、それでも無理筋で来るなら、最悪はワールハイト潰すけど。今のワールハイトの騎士団よりウチの方が強いしね」
「元々がそうなのに、現在、騎士団は最低限しか残っていないから楽勝だろうね。その場合はフラビオ先輩に領主してもらおうかな」
「そうだね」
そんな軽い感じでワールハイト転覆の話をしているが、ここが防音防諜に効いている部屋だからできる話だ。ただし、軽い感じだが、結構本気だったりするのだが。
「さて、前線の話に戻すけど、ワールハイトの戦い方を見ると、騎士団そのものの損耗は少ない。しかし、その分傭兵や志願兵、戦闘奴隷などの損耗が大きい。つまり‥」
「兵数そのものが少なくなっている?」
「そうなんだ。で、減った兵数を補充するための募集もあるが、来年からは学校の戦闘担当の生徒をそこに充てる案が出ている上に、実行されそうだ」
「おいおい。それ、ヤバいぞ。初陣がほとんどなのにいきなり、そんな場所に送り込んでもほとんどまともに動けないだろうに。殺されるだけだぞ!何考えているんだ!?」
「落ち着け。僕が言っているわけではない」
もしそれが実行されたら、エルドの言う通り、悲惨な結果を招くだろう。
僕らが通うワールハイト学校には12歳以上から通える魔法科、騎士科というのが存在する。そこでは戦闘訓練なども行うが、訓練は所詮訓練でしかない。しかも、初陣どころか、魔物狩りにすら行かずに卒業する者もいる。
そんな新兵がいきなり最前線にいったとてただの肉壁役にしかならないだろう。
ワールハイトの上層部はなんとかなると本気で思っているようだが。
「‥もしかして、魔法科や騎士科の人たちで数が足りなければ、もっと下の年齢からも集められるのか?」
「おそらく」
「うわっ。勘弁してくれ。…学校辞めたくなってくるわ」
「僕は今年で卒業して、進級しないよ」
「は?イオずるい。俺もやめたい」
ワールハイトの学校は8歳から入学したが、2年ごとに進級試験を経て進級となる。僕は2年目の今年卒業して進級はしないことにしている。
エルドたちにはこのまま進級して最低あと2年はいてもらおうと思っている。
「イオ、…やめて何する気だ?」
「顔が怖いよ。エルド。…そろそろ本格的にエルドの国造りのための準備などをしようかと思っていてね。そうすると学校に通っている時間はないんだ。元々僕は学校に通う意味もあまりなかったしね」
「そうか」
そう言ってエルドは若干複雑そうな表情を浮かべている。
これはもしかしてバレていたかな?何が?って、実はDP集めということで人を集めDP収入を増やそうと言うのが当初の目的だったのだが、この前ダンジョン領域を広げた時に、大DP収入ポイントが範囲内になったため、DP収入増大と言う目的はほぼなくなってしまっていた。
つまり、僕がエルドに手を貸す意味もなくなったと思われたのかもしれない。そのことはエルドにはもちろん言っていないが、エルドは相手の記憶を視ることができるから、それでバレていたのかもしれない。
いや、ここまで時間と手間と労力をかけて進めた大事業をそんな簡単にやめることはないよ?
そもそも自分の意のままに動いてくれる国なんてあれば、僕にとっては十分すぎるほど有用だし。
いわゆる学徒動員というやつです。
切り札というか、本来絶対にやってはいけないことなのだと思うのですが、ワールハイトはこんなにあっさりやる流れになり、実行しそう。
ちなみに設定ではワールハイト上層部はアホばかりだったりします。




