星辰機械
女性は子供を産む機械。-日本の政治家
ぼくはいつも、彼女のことをド・ラ・クロワ夫人と呼んでいた。
といっても、彼女は独身で、たぶん処女だったが、それでもぼくのなかでは彼女はいつでもド・ラ・クロワ夫人だった。
あるとき、彼女はぼくに声をかけた。「星辰機械を見せてあげる」
ぼくは、彼女のアパートについて行った。
単身者むけのアパートの3階の部屋に一歩入ると、数え切れないほどの、メータ、配線、配管が入り組んだ一個の機械が居室の大部分を占拠していた。
「座って」彼女は、鉄タンクのような機械に抱きついた。「このなかでは超高真空をつくっている。原子時計を無限に改良した、無限に精度の高い時計がこのなかで時を刻んでいる。アインシュタインの相対性理論はニュートンの絶対時間tをctに置きかえた。そのctにおける、cの変化すらも検出できるのが、この機械、絶対時計なの」
「それはおかしい」ぼくは反論した。「同じ相対性理論が、同時刻の相対性の概念を提出して、時間測定の精度には限界があることを示している。相対速度のある観測者システムは、同じイベントにちがった時刻を割り当てる。ぼくときみのあいだにも、同じ時間は流れていないんだ」
「そうなのね、そういうことなのね」彼女の顔は、復讐に燃えた。「この時計は-止まる、いままさに止まろうとしている!」
ぼくたちの心のなかに、永遠が入りこんで、激しく貫き通した。
襞のいっぱいついた真っ白な書物に、目を近づけて見ないと見えないような細かい図形をびっちり描いた人々は、そうすることで、この世界が文字で一杯になってほしいという願いを込めて、プリミティブな増殖儀礼をおこなっていたらしい。