第六話 カードやスキルを使ってみよう
夜霧漆黒とかどうだろう?
新生ちくわの名前の話だ。かつてのシャイボーイちくわだったら、こんな大胆でイカした名前、名乗れなかったんじゃなかろうか?
そもそも自分の名を自分で付けようなんて思わなかったはずだ。
しかし今のちくわは怖いもの知らず。
黒金白黒とか名乗れる自信が満々だ!
まあ名前のことは、追い追い最高のものを考えておくとして。
カードについて、わかったことがあった。
リュックサックに入っていたカード。
これらはどうやら、ちくわの職能に含まれていた符術士という能力で使うものらしい。符術士のスキルがまさにカードを操作するものばかりだ。
で、ちくわは今、二つのデッキを持っていた。
デッキ――カードゲームを遊ぶ為に、カードを組み合わせてひとまとめにした束の事だ。
そのカードの束=デッキが、二つあった。
二つのデッキは、それぞれ異なる種類のカードで構成されていた。
一つは戦闘用のデッキらしい。
構成枚数は40枚。
火を放つ[火球]のカードとか。
敵に当たると自動的に戻ってくる[投げ斧]を呼び出すカードとか。
このような、いかにもバトル向けなカードで構成されていて、それらのカードの説明書きにも、決まって【バトルカード】という表記がなされていた。
さて、ちくわは思ったものである。
『カードで火の玉が出せるなんて面白い!』と。
『さっそく出してみたい!』と。
ちくわは[火球]のカードを使ってみることにした。
好奇心がうずいていたし、戦闘に入る前に練習しておくべきだ。
それにカードの説明書きによれば、火球カードのマナ消費は3。ランクも最低っぽいG――SABCDEFGのG。八番目だ。無くなっても惜しくない。
そう思ったのだが、ちくわがいざカードを使ってみようとすると、このカード。
使い方がわからないのである。
ちくわはカードを使ってみようとした。カードをいかにもな感じに掲げてみて、
『火球発射! ――――火球! ショット! シュート!』
だの、
『火球よ出でよ! ――我は――あれだ、命ずる! カードよ、力を解放せよ!』
とか、
『ファイアーボール、オン! 起動! ファイヤーー火球ファイアー!!』
などなどと、
ちくわは叫んでみたのであるが、まったく何も起きない。
起きた事といったら、エファが居心地悪げな顔をし、ちくわの顔が少し赤くなった程度。
つまり、[勇者の秘薬]や[レアカード五枚セット]などの、カードに【アイテムカード】と表記されていたカードたちと違い、この【バトルカード】というやつは、効果が現れてくれなかったのだ。
ここでようやく、ちくわはある未修得スキルの説明文を思い出した。
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[気まぐれな手札の増加]
常態化スキル
修得ポイント:35
ランク:F
戦闘開始時、バトルデッキから配布されるカードの枚数が、稀に一枚増加する。
ただし、術者がスキル[手札の増加]を修得していた場合、このスキルの効果は消失する。
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これだ。上の文には【戦闘開始時、バトルデッキから配布されるカード】とある。
つまりバトルカードとは、戦闘が始まると、バトルデッキから配布されるものなのだ。
このヒントからちくわは確信した。
バトルカードはきっと、戦闘にならないと使えないのだ。
バトルカードのほうはいったん保留だ。戦闘を楽しみにしておこう。
デッキはバトルカードのデッキのほかに、もう一つあった。
こちらは、[フォーチュン]というカードで構成されている――らしい。
らしいというのは、このデッキ、分解できないのである。あの磁石みたいに引っ付いてるほうの束なのだ。
この問題についてはすぐに解決した。
ちくわがステータスを呼び出して調べてみると、項目の中に
[オラクルデッキ確認]
という項を見つけたのだ。その項の選択をちくわが念じてみれば――当たりだ。
ステータスの表示が[オラクルデッキ]なるものの構成確認をする画面へと変わった。
デッキはどうやら、19枚で構成されているようだ。カード一枚一枚の効果も、本当に様々。
ただ、それら19枚のカードの中には、目覚めたばかりの時に勝手に発動していた[勇気ある門出への祝福]が含まれていなかった。
カードは使い捨てなのかもしれない。
だとしたら、元のデッキのカード枚数は20枚ということ。
丁度バトルデッキの半分の枚数だ。
オラクルデッキは20枚で運用するのかもしれない。
「――けど、これって、どーやって構成変えんだ? 初めてやるゲームみたいによくわかんねえ……」
ちくわは思わず独り言ちた。隣を歩くエファがちょっとこちらを見ている。
こちらのカードの使い方についても、ちくわはよくわからない。
[勇気ある門出への祝福]は勝手に発動してたように見えたが?
「――ん。そうか。符術士スキルに『オラクルデッキからカードを引く』って、あったな……」
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[神託]
使用制限一日
修得ポイント:10
ランク:G
術者はオラクルデッキからカードを一枚引く。
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これだ。
ちくわは暗闇の中、手探りで扉の鍵穴を見つけたような気持ちだった。
当然思った。
『このスキル、修得してみるか?』
オラクルデッキの19枚のカードには、今欲しいような効果を持つカードも存在した。
それにスキルを使うということも、一度は経験しておくべきでは?
「よし。エファ。ちょっと相談いいか?」
ちくわはエファに提案をしてみることにする。
スキル[神託]を修得し、オラクルカードを引いてみるのだ。