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雄叫びを上げたことがあるか!?  作者: 故郷野夢路
第一章 見知らぬ世界を歩く
4/25

第四話 生きる準備をしようか。

 ちくわは勇者の秘薬を飲み、主人公らしさに目覚めた気がする。


 この世界で初めて口にしたちくわのセリフを覚えているだろうか?


『うわ、うわっ。なんだこれ? どこだここ?』


 これである。

 こんなフニャフニャのちくわ野郎とはもう決別だ。

 新生ちくわは次のセリフを、腰に手を当てながら言った。


「さあって……まずは、クレバーに行くとするかな?」


 ちなみに【クレバー】とは、利口な感じという意味だ。


 今のちくわは完璧【主人公モード】だった。完全にクリアに澄み渡った頭は、次に取るべき自分の行動を1のあとに2が来る自然さで認識することが出来た。


 まずちくわは、自分のスペックを把握した。

 自分は職能アビリティーとして戦士ウォリアー武闘家ファイター符術士プレイヤーの三つの能力を有していた。


 現状わかる限りでは、これら[職能アビリティー]は覚えられる【スキル】に関係しているようだ。


 スキルとは技の事。

 この世界ではRPGの[ファイア]みたいに、選択することで発動させられるコマンドのことを[スキル]と呼ぶらしい。


 ちくわは戦士ウォリアー武闘家ファイター符術士プレイヤーの三つの職能アビリティーのスキルを覚えられるようだ。


 スキルの内容は多岐に渡った。


 戦士ウォリアーなら[疲労への耐性]とか[大荷物への耐性]とか。地味だ。


 武闘家ファイターなら[攻撃力強化]とか[防御力強化]とか。やはり地味だ。


 符術士プレイヤーだと、メチャ多い。

 そして説明文がよくわからない。


 例を挙げると、次のようなものがあるが、まるで他人のゲーム画面をのぞき見てるようなむなしさがある。読むのはお勧めしない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[神託]


 使用制限一日

 修得ポイント:10

 ランク:G


 術者はオラクルデッキからカードを一枚引く。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[レアリティGのフォーチュンの誘引]


 使用制限五日

 修得ポイント:30

 ランク:F


 術者のオラクルデッキ内にあるフォーチュンの中から、レアリティGのフォーチュンが一枚、ランダムに選ばれ、山札の一番上へと置かれる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[気まぐれな手札の増加]


 常態化スキル

 修得ポイント:35

 ランク:F


 戦闘開始時、バトルデッキから配布されるカードの枚数が、稀に一枚増加する。

 ただし、術者がスキル[手札の増加]を修得していた場合、このスキルの効果は消失する。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[回収ギャザー


 消費マナ:1

 修得ポイント:5

 ランク:G


 周囲にあるカードを手元へと引き寄せる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 と、こんな感じだ。

 とにかくスキルについてわかったことは、これらは【修得ポイント】を支払って修得しないと、使えないということだ。


 ちくわが今持っている修得ポイントは100ポイント。


 かつてのビビりなちくわなら、敵にあった時の事を不安視し、早めに使えそうなスキルを修得していたかもしれない。


 でも今のちくわなら、そうはしない。


 スキルは敵と出会ってから覚える。


 敵を観察し、その性質をつぶさに把握し、最適のスキルを修得して戦闘を優位に運んでしまおうという腹積もりだ。


 そもそも修得ポイントをどうやって手に入れるかだってわからない。

 使えるスキルを見分けることも出来ていない。

 先走ってスキルを修得するべきではない、と結論付けた。


 ちくわはエファのスキルも見せてもらった。

 エファのほうは[未洗礼]なんて状態の職能アビリティーが二つもあった。今修得できるのは神官プリーストのスキルだけらしい。


 神官プリーストは回復役の職能のようだ。

 彼女は既にポイントを消費し、スキルを修得していた。

 [回復]という、説明を読むまでもないスキルだ。


 さすがは、ステータスの存在を知っていただけはある。彼女には自身の置かれた状況を理解する力と、危険に備えようという意思がある。

 自身が回復役という立ち位置であることも理解してるようだ。


 エファの攻撃力は31。ちくわに比べて90も低い。

 武器も攻撃力8の[レッピスの魔術杖まじゅつじょう]という、杖としての機能すら怪しい短い杖一本だけだ。


 つまり、エファは戦力としては当てにならない。

 もしも敵が襲ってきたら、戦えるのはちくわだけだ。


 ちくわは覚悟を固めた。

 エファを守れるのは、自分だけなのだ。


 そう理解した上で、ちくわはエファに提案する。ジェスチャーを交えつつ。


「エファ。[弱者の霊薬]はオレが使っていいか? その代わりってわけでもないが、お前の事はオレが絶対に守る」


 今のちくわはヒロイックなセリフも恥ずかしいほどすらすら言えた。

 弱者の霊薬はレベルが4上がるアイテムだ。回復役のエファに飲ませても、戦闘役の自分が弱くては、エファのレベルが高かろうとも意味など無いように思われた。


 できることなら薬を二分割して飲みたかった。公平だし、バランスもいい。

 が、それは出来ないのだろう。説明文に[レベルが4上がる]と書いてあるし、ちくわの直感めいたものもそう囁いていた。


「代わりにエファには[幸ある一週間への招待状]を譲る。多分お前がオレの生命線になるだろうから、そのほうがいい」


 [幸ある一週間への招待状]のカードを手渡されたエファは、それでちくわの言わんとしているところを理解したらしい。

 彼女はカードの説明文を再確認すると、カードを返してきた。


「イレェ、ウドゥユティリゼ。ダンジェエ、メィウルプゥヴ」


「わかんないな。……使いたくないのか? 取っときたいとか?」


 エファもエファでちくわの言っていることがわからない。


 彼女はカードを指差し、自分を指差して首を横に振った。

 次にちくわを指差し、カードを指差して頷いた。


「オレに使えって?」

「ウィ。ダンジェ」


 どうやらそうらしい。『ウィ』がイエスのようだ。

「ダンジェ……ダンジェ――危ない? 危ないって意味か?」


「アブ、ナイ?」


 秀麗な顔へと興味深げな色を表すエファ。

 ちくわは『危ない』と言って、なにかから身を守るようなジェスチャーをした。『うわあ』とか言いながら。


 エファはくすくす笑って、

「パルドン、ヌシィパ」


 どうやら伝わらなかったらしい。エファの笑顔が見れたので、まあよしとしよう。


「ん。そっか。オレのほうが[ダンジェ]って事だな?」


「ウィ、ダンジェ」


 どっちが使うにせよ、[幸ある一週間への招待状]は使っておくべきだ。

 右も左もわからない世界。

 せめて運ぐらいは味方につけておきたい。


 ならお言葉に甘えて、ちくわが使うことにしよう。

 どうせ運命共同体だ。


 善は急げだ。さっそくちくわはカードを使った。

 まず[幸ある一週間への招待状]を使用する。

 エファとちょっと目配せなどし合いつつ、なにが起こるかと楽しみに待ったのだが、特にこれと言った事は起こらなかった。つまらん。


 次に使ったのは[弱者の霊薬]。

 これは勇者の秘薬と同じように出現した。

 服用すると、ちくわのレベルが4上がる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 名前:田中山田ちくわ

 年齢:15歳

 種族:人間


 職能アビリティー戦士ウォリアー武闘家ファイター符術士プレイヤー


 レベル:5


 グレイス:145/206

 マナ:74/126

 体力:96%


 攻:147/59 +88

 防:111/60 +51

 速:40/47 -7


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「うっお、めっちゃステータス上がってやがる。マナなんて四倍か……MPみたいなもんなんだろうし、いいな」

「イレエトネ」


 隣でステータスを覗き込んでいたエファも、顔を明るくしていた。


 正直どれだけ強くなったのかわからないが、とにかく心強い気がした。

 ちなみに体感覚的には、まるで強くなった気がしていない。


 まあいい。次はいよいよ[レアカード五枚セット]を使ってみる。

 レアリティはSS。効果は五枚のレアカードを得るというもの。


 ちくわは[弱者の霊薬]みたいなカード出て来いと願いつつ――というより、めっちゃスゲエのが出てくるのを期待しつつ、レアカード五枚セットのカードを使用した。


 レアリティSSだろうと、派手な演出が起こるわけでもなかった。


 出てきたカードは、次の五枚。

 先に断ってしまうが、【めっちゃスゲエ】という感じのは出なかった。

 が、面白そうなのならば、出た。


 まず、別に面白くないカード。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[クズカード貯金箱]


 アイテムカード

 レアリティ:C


 この陶製の貯金箱にはカードがいくらでも入る。

 この貯金箱を割ると、それまで入れたカードではなく、別のカードが一枚だけ入っている。

 そのカードのレアリティは、入れたカードの枚数に比例して高くなる。

 ――希望に過度に期待してはならない。希望が希望であるゆえんは、その不確定さにあるのだから――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[神々のスキルへの恩寵]


 アイテムカード

 レアリティ:S


 あなたは習得可能で、修得ポイントが55以下のスキルを一つ、習得する事ができる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次に、ちょっと面白そうなカード。

 盾だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[平等の盾の貸与]


 バトルカード

 レアリティ:C

 消費マナ:17


 この戦闘の間、レアリティC・ランクDのアイテム[平等の盾]を実体化する。

 [平等の盾]の装着者が攻撃を受けた時、そのダメージの半分は装着者へではなく、攻撃をしてきた者へと与えられる。

 [平等の盾]の装着者が攻撃をした時、相手に与えるはずだったダメージの半分は、装着者が受ける。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 使えるだろうか? 防御に徹する分には使えそうだし、エファにはいいかも。

 とにかく、ちくわはちょっとワクワクしてきた。


 次に、面白そうなカード。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[機械人メカニシャン タイプ:イプシロンへの変身]


 フォーチュン

 レアリティ:B

 イヴィル:2


 あなたは望むなら最長で三日の間、【機械人メカニシャン タイプ:イプシロン】に変身していられる。

 タイプ:イプシロンの武装。キャノン砲。左腕三連装ガトリング砲。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 カードにはそれぞれ絵柄が描かれている。

 [機械人メカニシャン タイプ:イプシロンへの変身]に描かれているのは、フランケンシュタインを彷彿とさせるような大男だ。

 大男は左腕がガトリング砲になっており、背中に鋼鉄製のバックパックを背負っている。バックパックからはキャノン砲が右肩越しに突き出している。


 つまり、メチャ強そうだ。


 ちくわは期待感で顔をつやつやさせた。

 まさかこのカードを使えば、こんな人間――らしきものに変身できるのか? 三日間も?

 っていうか、この世界は重火器とかある世界なのか?


 ちくわは非常にこのカードが気に入った。いずれ使ってやろうと思う。敵と出会ったらすぐ使ってしまうかもしれない。


 次のカードも、人をワクワクさせるものがある。

 レアリティもSだ。しょっちゅう目にしてるのであまりありがたみ感じないが。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[強欲な魔人の金欲コーデ]


 フォーチュン

 レアリティ:S

 イヴィル:3

 回数制限カード 使用残数3


 コーデとは[コーディネート]の略である。

 あなたは強欲な魔人から三日間、[身を滅ぼす盾][栄光と破滅の鎧][金の亡者の腕輪]を貸し与えられる。

 魔人より与えられるこれらの装備の質は、あなたの冒険者ランク次第で上下する。

 また、これらの装備は返却期限を迎えるまで、外す事ができない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 怪しい。非常に怪しい。

 危うい匂いがプンプンするが、金の匂いもプンプンさせている。


「ちょっと面白そうだよな? 使ってみたくないか?」


 エファに尋ねてみたら――意味が伝わったようだ。彼女はまじめな顔で首を横に振っていた。

 どうも彼女は、賭け事とかあんまり好きじゃないタチの人種のようだった。


 カードについてはまだまだわからないことも多い。

 バトルカードはわかるが、フォーチュンだのイヴィルだのは、よくわからない。

 これについてもおいおい調べる必要があるだろう。


 が、もうとりあえずは、動くべきだ。

 というか、動きたいもう。


 自分とエファのスペックは大体把握した。

 カードも使った。――まあ荷物にもカードはあるが、それは歩きながら内容を確認すればいい。

 なにより、この世界のことがまだ何もわかっていないのだ。


 正直気になって仕方ない。

 そろそろ歩き出そう。この世界を。

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