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雄叫びを上げたことがあるか!?  作者: 故郷野夢路
第一章 見知らぬ世界を歩く
3/25

第三話 ちくわ、秘薬を飲んだらウインクがしたくなる。

 スタテュ。

 多分ステータスという意味だろう。


 エファはさも自然な振る舞いで『スタテュ』と唱えていた。

 少なくとも彼女のいた世界では、ステータス表示は普通に存在するものだったようだ。


 ステータスを呼び出したエファは、その表示内容が見えるように、ちくわの隣へと並んでくれた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 名前:エファシオン

 年齢:15歳

 種族:人間


 職能アビリティー神官プリースト

 未洗礼:魔術士ウィザード精霊使シャーマン


 レベル:1


 グレイス:71/77 

 マナ:40/43 

 体力:88%


 攻:31/23 +8

 防:68/28 +40 

 速:34/37 -3


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ステータス表示はちくわの読める言語だったが、どうやらエファにも読めるものらしい。


 彼女は自分の名前の表示の部分を指差し、『ノン。エファシオン』と言った。


「ヴ、エセィエメムドゥ、ディル。スタテュ。……【スタテュ】」


 どうやら『あなたもステータスを呼び出して』と言っているようだ。

 彼女の意図をちくわも察した。もう呼ぶしかあるまい。


「ステータス」


 ちくわがそう一言発すれば、そのホログラム的幻影は、ちくわの目前へと出現した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 名前:田中山田ちくわ

 年齢:15歳

 種族:人間


 職能アビリティー戦士ウォリアー武闘家ファイター符術士プレイヤー


 レベル:1


 グレイス:87/90

 マナ:27/32

 体力:94%


 攻:121/33 +88

 防:88/37 +51

 速:36/43 -7


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これが自分のステータスか。ちょっとちくわは感動を覚えた。


 しかし、その感動を邪魔する忌々しき一文が、項目の一番上に表示されていた。

 更にあろう事か、その部分をエファが指差して、可憐な唇で言の葉にしてくれる。


「ヴォトルノン、タナカヤマダ、チクワ」


 彼女の口からその名前だけは聞きたくなかった。


「ノー! ノー! ちくわノー! ジスイズノットマイネーム!」


「オーララ! ク、フェルンコレル?」


 エファは驚いている。ちくわもちくわで、思わず全力で、なぜか英語で否定してしまった。


「カルムマン」


 エファはちょっと服のポケットからハンカチを取り出すと、それでちくわの額の汗をチョンチョンと拭ってくれた。

 女の子にこんなことされるのは初めてである。正直ちくわは恥ずかしい。


「……う。もういいよ」

「モウイー?」

「うん、そう。もういい」


 果たして意味は伝わっていたのだろうか? エファはハンカチを引っ込めたが、微笑みながら小首をかしげている。

 伝わってないようだが、お上品にかわいい。


 ちくわはいったん、深呼吸した。


 落ち着こう。

 落ち着いてる場合じゃないかもしれないが、そう言う時ほど落ち着かねばならないものなのだ。世の中というやつは。


 エファの見た目には、まあ慣れてきた。

 外国語で話しかけられても、シャイな日本人ほどにはどぎまぎしなくなってきた。


 そして、理解。

 どうやら自分は、本当に異世界に来てしまったらしい。


 なろう小説を読んでる読者だった時は、うらやましがってもいたが、正直チートがあればの話だった。

 もっとも、チートあったって引っ込み思案なちくわの事。

 異世界からの招待状が届いたところで、[謹んで辞退いたします]とお返事していたことだろうが……


 だって多分この世界、マンガもパソコンもない。

 ――え。ってことは、もうアニソンとか聞けないのか?

 スナック食べながらクーラー利かせた部屋でゲームもなし?

 まさかアイスすらないとか?

 っていうより、この世界でちくわは生きていけるのか?

 バイトだってしたことないくせに?


 チート無しで?


「うわ……」


 ちくわは改めてことの深刻さを理解した。

 やばい。チート無いとマジやばい。

 ってかぶっちゃけ帰りたい! [今すぐ帰るスイッチ]があったら真っ先に押すだろう――っていうのはちょっと……エファと会ったあとだと、すごい後ろ髪引かれそうだけれども。


 チートだ! チートさえあれば万事解決だ!


「エファ。さっきのカード、カード貸して。カ・ア・ド」


「カルト?」


 エファの差し出したカードをちくわは受け取り、急いでその内容を確認した。

 今もっともチート臭いのがこのカードたちだからだ。


 [勇気ある門出への祝福]で出現したカードは、全部で四枚。


 一枚目。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[弱者の霊薬]


 アイテムカード

 レアリティ:A


 このアイテムは、レベル1の者が服用した時だけ、レベルを4上昇させる。

 ――決断を恐れて好機を逃すな。富も力も儲け話も、ただ貯め込めばよいというものではない――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 二枚目。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[幸ある一週間への招待状]


 アイテムカード

 レアリティ:A


 このカードの使用者は、今から一週間、不幸が遠のき、それなりの幸運に恵まれる。

 ――収穫の時とは、どんなものにも訪れるものだ。その機会を見逃しさえしなければだが――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 三枚目。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[勇者の秘薬]


 アイテムカード

 レアリティ:C


 このアイテムの服用者は一週間、恐怖に強い耐性を持つ。

 ――真に恐れねばならぬものを見極めよ。他人があなたを愚か者と呼ぶことのないように――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 四枚目。なんかレアリティがすごい。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[レアカード五枚セット]


 アイテムカード

 レアリティ:SS


 このカードの使用者は、五枚のレアカードを得る。

 ――よいカードが出なかったからと言って、『希望は絶望の隠れ蓑』などと言うな――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 チート……これらはチートなのか? ちくわは首をかしげている。


「エファ。これ、使い方……」


 なんと伝えればいいやら。ステータスをさも当然と呼び出したエファなら、このカードの使い方も知っているのでは、と思ったのだ。


 ちくわは『あなたはこのカードの使い方を知っていますか?』と尋ねたい。


 ジェスチャーするしかなかった。


 ちくわはカードを指差し、振ったり、石のような板枠で保護されたカードを曲げようとしてみたり、いかにも[どう使うかわからない道具]を手にした者のようなそぶりをし、エファに向かって首を傾げて見せた。


「コマンユティリゼ? モワオスィ……」


 エファは曇らせた顔を横に振った。声音から推測するに、自分にもわからないのだと言ったようだった。


「うん、うん、だよね。いいよ別に」


 少なくとも[勇気ある門出への祝福]というカードは、魔法のカードだった。

 光ったし浮かんだし、この四枚のカードに姿を変えた。

 きっとこれらのカードだって、説明文の通りの効果があるのに違いない。

 ってか、そう信じたい!


 四枚の中でもっとも気になったカードはどれだろう?

 ちくわが気になったのはこのカードだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[勇者の秘薬]


 アイテムカード

 レアリティ:C


 このアイテムの服用者は一週間、恐怖に強い耐性を持つ。

 ――真に恐れねばならぬものを見極めよ。他人があなたを愚か者と呼ぶことのないように――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 今のちくわはモブキャラよろしくビクビクしてる。ベルトに剣を吊ってるとはいえ、何かと戦えと言われたら


『ムリムリムリムリ!』


 とか情けなく拒否れる自信がある。

 もしもこの[勇者の秘薬]が説明の通りの効果ならば、これほど心強いものはない。


 使ってみよう。このカード。試しに。


 先ほどの[勇気ある門出への祝福]は勝手に発動していたが、このカードはどうしたらいいのか……

 とりあえず、ちくわはカードを頭上に高々と掲げてみた。

 そして――なんか言ってみよう。


「ええっと……カード、使用!」


 カッコわる――と思う暇すらなかった。

 反応があった。ちくわの頭上でホワッと光が灯ったのだ。エファも『アッ』と言って目を開いている。


 頭上で【ポンッ】という音がした。

 次にはちくわの目の前を、綺麗なガラスの小瓶が上から下へと通り過ぎていった。


「あああああああああ!!」


 ちくわは叫んだ。勇者の秘薬であろうガラスの小瓶が地面に落っこちた!


 ――――いったい、どれくらいの時間、ちくわは固まっていたろう。


 きっとものの数秒だったに違いない。

 ガラスの小瓶が【カシャン!】という音を立てて割れる事はなかった。

 地面に転がっている。


 大きく大きくため息をついて、ちくわは胸をなでおろした。


「出た……本当に出たよ。ちょっと信じらんない」


「ウィ」


 ちくわはガラスの小瓶を拾い上げた。近寄ってきたエファも、不思議そうな面持ちで小瓶を見つめている。


 さて、これはどちらが飲むべきだろう?


 エファは怖がっているのだろうか? この状況に。

 ちくわほど怖そうではないが、一応飲むか尋ねてみよう。


「ええっと、エファ……これ」

 とちくわは勇者の秘薬を指差し、次に自分の口を指差す。

「僕は、飲もうと思う。エファは?」

 とちくわは、エファに勇者の秘薬を差し出してみた。


 エファは首を横に振った。


「ノン。イレドゥトゥ」


 エファはちくわの持っている小瓶を指差し、何だか不可解げな表情を作って見せた。『大丈夫だろうか?』と言いたいのかもしれない。


「わからないけど、このカードが使えるかどうかは、試してみないといけないよ。僕は飲んでみるよ?」


 小瓶の蓋を開け、ちくわは飲むそぶりを見せた。

 エファは頷いたが、浮かない顔だ。カードから出現した物を気味悪がってるようだ。


 ちくわに気味悪がってる余裕なんてない。気味悪いというならこの世界からして気味が悪い。起きてまだ一歩だって動いちゃいない、まったく未知の世界なのだから。

 恐怖がまぎれるというなら、願ったり叶ったりだ。


 ちくわは小瓶に口を付け、勇者の秘薬をあおった。


 味は――微妙に苦い。しかしただの薬みたいな印象だ。


「……ふう」


 ちくわは勇者の秘薬を飲み干した。使用量は全量服用でよかったんだよな? と今更思う。


 そして、効果はすぐさま表れる。


 あっ。と思った。

 ちくわは【アッ】と思った。それ以外に表現しようがなかった。


 心の中に引っかかっていた何かが、不意に掻き消えていったのを感じた。

 背中の掻けない場所の痒みが、スーッと消えていったと言うべきか。

 いやいや、体が大きくなったというべきか。

 っというより、無敵んなったっつーか?

 まあありていに言って、


 もう怖いもの無しだ、これ。


「うわ。目え覚めた!」


 何を今まで自分はビクビクしていたのか。ちくわははっきり言って、人格が変わったのを理解した。

 今なら電車の席に座る時に、迷わず隅っこではなく、ド真ん中に座れる自信があった。

 イヤホンのCDのボリュームをシャカシャカ言うくらい大きく出来る自信が出てきた。これは要らない自信だけどな、という理性だってモチロン完備だ。


「うわー。なんだこれー。エファ、僕――ってか【僕】ってないな! エファ! 心配掛けたよな!? でもオレ、生まれ変わったから!」


 ちくわは自信満々の目で[安心していいんだぜ]と伝えたつもりになり、エファにウインクをして見せた。


 青い髪の美少女は、口元を手で押さえて目をパチクリさせている。

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