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2016年/短編まとめ

春ですね。

作者: 文崎 美生

ぽかぽか陽気の春休み初日。

――春休み初日なんて言ってみても、正直なところもっと前から春休みだった。

高校を卒業した元学生の春休みは早いのだ。

今日は世の学生の春休み初日なのだ。


そんな春休み初日(仮)だと言うのに、聞こえて来るのはカチャカチャガチャガチャ、忙しないゲーム機の音ばかり。

後はそのゲームのBGMとか効果音とか、詰まるところはゲームの音だ。

その音を聞いながら、日向ぼっこをする私の思考は溶けきっている。


ベランダ近くに寝転がっていたが、もそもそとゲーム音のする方へと体を動かしてにじり寄れば、んー、という声が聞こえて来た。

一応こちらに意識を向けてくれたらしいが、ガチャガチャという音は消えない。


欠伸を一つ漏らしながら、何してるの、と問い掛けてみれば、聞き覚えのあるゲームの名前。

最近新しく出たもので、前作は私もプレイ済みだ。


FPS――ファーストパーションシューティング――は私も兄も大好きで、得意な部類のゲーム。

主にシューティングゲームの一種で、主人公視点でゲームの中を移動し、武器や素手で戦うアクションゲームスタイルのものである。


女の子でこれが好き、得意、と言うと微妙な顔をされるが、兄と一緒にやるようになってしまったから、仕方がない。

ぼんやりとそんなことを考えながら、私買ってないよ、と告げると、はぁ?と返って来た。

ゲームの音が完全に止まる。


「え、マジで?」


「うん。マジマジ……買わなきゃなぁって思ってたけど、積みゲーいっぱい」


未だにクリアしていないゲームが複数ある私は、どうしても新しいゲームに手を出しにくい。

新しいものを買うと、今進めているものが疎かになることなんて、目に見えているというもの。

俺も積んでるけど買ったよ、という兄になんてこった、って顔をした私。


喉の奥でくつくつと笑う兄は、膝に置いていたクッションを床に置いて、胡座をかいたまま、その膝の上をぽんぽんと叩く。

そこに頭を乗せて、見上げれば基本的に表情の変化の薄い兄の顔にある笑み。

おぉ、絶景かな、絶景かな。


「買ったら一緒に出来るけど」


「うは、それは買わなきゃだ」


二人揃ってケタケタと声を上げて笑う。

そうして笑った後、兄はそのゴツゴツした大きな手で、私の頭を撫でてからゲームを再開する。

ガチャガチャ聞こえるゲーム機の音に、銃声とかキャラの喋る英語が陽だまりに溶けていく。


平和だなぁ、なんて完全に平和ボケしきった春の陽気に当てられた頭で考えても、そりゃそうだ、としかならないだろう。

ぽかぽか陽気には逆らえない。

春だと思えば、春だと感じれば、頭に花が咲くのだろう、見えないけどそんな感じ。


お昼寝したらゲームを買いに行きたい。

暖かくなってきたし、少し薄着で、明るい色の服を着て行こう。

それで兄と同じゲームを買って、何か甘いものでも食べたいなぁ。

新しく出来たパンケーキ屋さんでもいいし、新しい種類のクレープでも、コンビニで買う少しお高めのプリンでもいい。

何でもいいから甘いものを兄と一緒に食べたい。


それで、それで、帰って来たら一緒にゲームをしよう。

溶けきった思考で、ぽつぽつと呟けば、上から、プリン作るか、とか聞こえてくる。

私、兄さんのプリン好きだよ、完全に瞼を閉じて言えば、笑い声。


「昼寝終わったら、買い物行こうな」


柔らかい声と優しい手付き。

ふわふわと髪を撫でられながら聞いた声と、ゲームのBGMが酷く愛おしくて、陽だまりの中にゆっくりと意識を落とした。

目が覚めたら、兄と手を繋いで出掛けよう、そんな予定を立てながら。

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