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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第二章 -Near-
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協力と呼ぶには程遠いけれど

『単調だよなぁ、テメェは!!』

 見えて来た機影の一つが上空に行き、残った機影は霧が晴れてアンブッシュだと分かった。


 アンブッシュは時間稼ぎのためか右腕のシュートネットを構え、そして電磁ネットを発射する。甘んじてそれを、受ける。


 全身が引き攣る。痛い。苦しい。辛い。でも、負けたくはない。


 まだ僕を負かすには足りない。


 拘束時間は約五秒ほど。その間にオルナの上を取ったヴァルフレアが、先ほどと同じくして空中爆撃を始めようとしていた。

『またレインボム? 飽きないわね、ほんと』

 上空にオルナのアイカメラを向けると、モニターにはスカートを展開させて、まさに爆撃を始めようとしていたヴァルフレアに対して、パールが長刀一本で突貫する姿が映し出された。


 装甲の薄いヴァルフレアにとって、近接戦闘による直撃はそのまま、撃墜を意味する。シャロンもそれを知っているだろう。だからこそ、ヴァルフレアはバックダッシュでスカートの展開によるディレイを殺す。レインボムは落とされる前に収納されたため、不発に終わる。しかし、すぐさま体勢を整えたヴァルフレアは右手に握るショットガンをパールに向けた。


 電磁ネットによる拘束から解かれ、僕はオルナのアイカメラで霧の中に消えようとするアンブッシュを捉える。逃すわけには行かない。ティアのその後を気にせず、猛追する。


 石柱の陰に隠れたところを確認し、用心深く石柱を巡る。そして突如としてモニターに飛び込んできたアンブッシュが短刀を構えて襲い掛かって来る。

 直感的に振るったソードで短刀を受け止め、同時に右腕のエネルギーライフルで照準を定める。


『喰らうか!』


 ソードを弾き、アンブッシュが石柱に張り付いて、滑るような動きで石柱の表面を走っていく。ソードを弾かれたことによって生じたウェイトをブーストで消し、そのまさに害虫のように逃げるアンブッシュを再び追う。

『兄さん!』

『ばら撒いて、離脱するぞ。仕切り直しだ』

 シャロンとバイオの通信が入る。


 またレインボムの範囲に僕を入れるつもりか?

 いや、合同通信で作戦を口にするわけがない。だからこれは、ただのブラフだ。


「レインボムじゃなくて、確実に仕留めたいならここはショットガンでしょ」

 パールの加速力がどれほどかは知らないが、きっとヴァルフレアには敵わない。ショットガンでパールを撃つと見せ掛けて、そのまま離脱していたのなら、もう合流されているだろう。

 石柱を一周した先で飛翔したアンブッシュを追い掛けると、前方にヴァルフレアが見えた。


 見えたということは、あと数秒でこちらに達するということ。

 達したときにすることは、もう分かっている。

 機体を回す。天地逆転は、なにもシャロンだけの技術じゃない。


 ショットガンを構えたヴァルフレアの一発目は右足の装甲をパージさせて防ぎ、続いて放たれる二発目を左足の装甲をパージさせて防ぐ。


『右手のショットガンを二発、撃ったわね?』


 そこにパールが飛び込んできて、エネルギーライフルを――“投げた”。この通常ではあり得ない投擲に混乱したのか、それとも反射的に避けてしまったのか定かじゃないが、ヴァルフレアが僅かに下がった。


 下がって、右手のショットガンをリロードさせた。


 その最中にパールが急接近していることに、気付いていてもシャロンの思考は追い付かないらしくヴァルフレアの動きが鈍い。

『入った!』

 パールが斬撃のモーションに移った。システムアシストにより、そのモーションには追尾が約束される。それを妨害するか、振り切ることができるかはシャロンの操縦技術に求められる。


 リロードを完了させ、ヴァルフレアは右手を上げる。ショットガンで撃ち飛ばすつもりなのだろうけど、そんなことはティアが許さない。パールは直進するのではなく弧を描くように、更には機体の回転も加えることで、照準を惑わした。そして、長刀による斬撃が走り、ヴァルフレアの右腕を断ち切る。


『くっ!』

 右腕関節とのジョイントを切って、ヴァルフレアが距離を置く。

「シャロン? それだけの速さだと、さすがにショットガンを搭載する数は二挺が限界のはずだ」

『またショットガンを使う? だったら、その左腕も切り落としてあげましょうか?』

 シャロンは両手でショットガンを持っていながらも、右手側のショットガンによる連射に拘った。

 それは撃ったならば、撃ち切りたいという願望だ。中途半端では済ましたくない。そういう思いが、一発を右手側、もう一発を左手側で、という発想に至らせなくした。だから接近するパールに対して、装填という隙を与えてしまった。

 もしも後者の方法を取っていたならば、きっとパールはショットガンによる迎撃を近距離で受けていただろう。


「逃がしませんよ、バイオ」


 この状況、間違いなくアンブッシュのフォローが入る。だからこそヴァルフレアの後方に垣間見えた機影目掛けて、僕はビームを連射させながらオルナを加速させる。


『兄さんのところには、行かせない!』

『待ちなさい、シャロン。あなたには私と一対一で戦う理由があるでしょう?』


 一方は僕への個人通信。もう一方は合同通信ながらも、まるで二人が会話しているかのような錯覚に陥るほど、言葉のやり取りが噛み合っていた。

 そんなことに意識が向けられるほど、今は余裕があった。後方から来るはずのヴァルフレアによる追撃が、来ないのだ。恐らく、パールが止めた。マップジャミングのせいで、どう止めたかは分からないけど、ティアに後方を取られることをシャロンは避けたはずだ。

 だから僕を追い掛けることはできない。

「男らしく、タイマンで戦ってはくれませんか?」

 尚も逃走を続けるアンブッシュを操るバイオに向かって、挑発的な言葉をぶつける。

「出来た妹を誇りに思えない、お兄さん?」

『……テメェ、いい加減にしろよ?』


「ははっ、ちっとも心に響かない脅しですね」


 もうそういった脅し文句は世の中にありあまるほどにありふれ過ぎていて、溢れ過ぎていて怖くもなんともない。リアルでは危ない感覚だが、ゲーム内ならば幾ら聞いても構わない。


 アンブッシュが翻り、オルナと向き合う。


『俺は女でも手を抜かねぇって言ったよな?』

「知っていますよ。でも、あなたこそ理解しなきゃならない。この世界は常に男女平等です。ゲームで男女によって差が出るなんて、それはゲームバランス的に、間違っていますから」

 2vs2であるところを擬似的に1vs1へと持ち込んだ。協力戦にはあるまじき状況を僕らは作り、それをもって僕らの今でき得る限りの連携ということにした。

『一々、癇に障ることを言うよな。テメェも、立花ってやつも!』

 アンブッシュがバックダッシュで霧に紛れて消える。けれど逃げる方角にしっかりとオルナを向かわせさえすれば、見失うはずはない。


 けれど、追い掛けても機影を捉えることはできなかった。


「……居ない? いや、あれだけ挑発したんだから、さすがに僕を仕留めに来るはずだ」

 ここでバイオが感情を殺して引き下がってティアを叩きに行くのはチームプレイとしては的確だ、と思う。でも、彼はそこまでのお人好しじゃない。妹に対して信頼、または切り捨ての精神があるのなら、ここは素直に僕を攻撃して来る。

 むしろ、気掛かりなのはバックダッシュで一瞬、霧に紛れたとは言え、どうして一度で見失うようなことになってしまったのか。


 動き方を変えた? それとも――


『優秀だからって、なにもかもが思い通りに行くわけじゃねぇ』

 バイオの通信に続いて、オルナの背部に短刀が突き刺さる。

「……まさか、兄妹揃って、そうなのか?」

 電磁ネットで電流を浴び過ぎたことで、筋肉が無意識に収縮を繰り返していたと思っていた。けれど、ここに来て、分かりやすいくらいに背筋が凍り、全身に鳥肌が立つ。

『あれは、中三の夏だったか……』

 過去の話を持ち出そうとするバイオの通信に意識を向けていられない。それよりもまず、背部に刺さった短刀による連続的な斬撃から逃れることの方が先決だ。アンブッシュが短刀を引き抜いた刹那にオルナを前方へと走らせて旋回させ、耐久力の減少を停止させる。

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