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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第二章 -Near-
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協力とか分からない

「僕の方でヴァルフレアとアンブッシュは認識した。だから、ティアのマップにも相手の現在地は表示されているはずだ」


『あのねぇ……あなた、周りが見えていなさすぎ! 自分のマップをちゃんと見た?』


 苛立っているティアの問いに僕は首を傾げ、答えることもできずに自身のマップ画面に視線を落とす。空中機雷を突破する際に一応ながらも確認していたのだが、そのときにはしっかりと赤茶色の光点が動いているのが見えていた。だからこその指示だったんだけど、どうやら空中機雷群を突破した直後からまた戦況は動いていたらしい。

「……ジャミング、か」

『そうよ! あなたが無茶して空中機雷群から抜け出したあとぐらいから、マップにジャミングが掛かった。今じゃ、私の現在地も、スズの居場所も分かんない』

 マップの表示を2Dから3Dにタップして変更する。こんなことをしたところで、やはりヴァルフレアとアンブッシュの位置は分からない。そして、オルナを示す光点も消えている。これがマップジャミングのいやらしいところだ。これではパールをモニターに映しても、それを味方の光点として認識することもできないだろう。

 アンブッシュかヴァルフレアか。考えるまでもなく、バイオが選んだ武装だろう。バイオが他のプレイヤーがいざこざを起こしていたときに、「運営がジャマーを用意しているんだから」と語っていた。そこから考慮すれば、間違いなくアンブッシュが積んでいる。

 となると、アンブッシュはバイオの性格には似合わないほどの補助系統に特化した機体となる。あの薄気味悪い機体には、こちらに対する嫌がらせの全てがあるのだ。シュートネット然り、マップジャミング然り。

 ジャマーはこれだけじゃない。マップジャミング以外のものも搭載しているとすれば、マップ画面は今以上に役立たずになる。


 ようやく分かった。二人の戦法は、バイオが指示を出してシャロンがそれに応じ、続いてそのシャロンの行動全てに対してバイオがジャマー系でサポートに徹する。

 シュートネットはただこちらをいたぶるために用意したものではなく、純粋にヴァルフレアの空中機雷群を形成させるまでの時間稼ぎに用いられるべき武装なのだ。開始すぐに展開し切れないと判断したときはアンブッシュが先行して敵を引き付け、空中機雷群に誘い込んだところでシュートネットで捕縛。その間にヴァルフレアが残りの空中機雷を仕掛けて閉じ込める。


 ……一人で成立しない戦法。これをコンビネーションと呼ぶのだろうか。僕には分からない。僕はいつもワンマンプレイが大好きな、人の話をまともに聞かない馬鹿だったから、分からない。得意なことはチームを勝利に導くことだけで、協調性は、ほとんど無いに等しいんだから当然か。

「……どうする、かな」

 近くの石柱を一周してみても、アンブッシュを捕捉することはできなかった。これでは手詰まりだ。また無闇に動いたら、空中機雷群に閉じ込められるだろう。


『バッカじゃないの!! どうするもこうするも無いでしょ!!』

 一喝されて、僕はそのあまりの声量に思わず片手で耳を塞いだ。

『情報交換よ! マップ画面が頼れないなら、現在の状況を逐次、通信で行って現在地を互いに判断する!! 鉄則よ、鉄則!』


「でも、『セカンドストーンヘンジ』はだだっ広いし、円を描く石柱も平均して配置されているから、現在地の情報交換なんてしたって意味無いよ」

『あなた、それでも元『氷皇』なの!? あなたのそのディープな、呆れるほどのこのゲームに対する情報量はなんなのよ! このマップに特徴が無いなんて、あなたそれ本気で言ってる?! 言ってないよね!? もし本気で言ってんなら、私はあなたのことが嫌いになるから!』

「嫌だ……嫌いになられるのは、嫌だ」

『だったら知恵を絞って、現在地の特定に努めなさい! ついでに相手の機体の特徴についても教えて! フレンドリーファイアは無いって言っても、この霧のせいで近付かれた反射的に機体を動かしちゃう。それで間違って攻撃しちゃったら隙ができるから、さっさと教えなさい!』


 勝つとか負けるとか、復讐するとか復讐しないとか、そんなことよりもまず、今の僕に必要なことをティアは要求してくる。会話すること。自分の知っていることを話すこと。口にして相手に伝えること。コミュニケーションを取ること。


 唇を噛み締め、そして恐怖を押し殺す。大丈夫だ。ティアは僕の、信じている人なのだ。拒否なんてされない。拒絶なんてされない。受け入れてくれる、受け止めてくれる。

 何度も言い聞かせる。なんで僕はこうも、人見知りなのだろうか。普段は何気なく話せるのに、こういう場面では言葉足らずになってしまう。大切なときに、コミュニケーションを放棄してしまう。

 矯正するんだ。自分から、進んで歩くのが人生だ。


「ヴァルフレアは薄い赤のカラーリングで関節部位の色は濃紺。あとはバーニアを操作せずに体勢を自動で整えてくれるスカート。あれを付けてた」

『女性素体限定の武装ね。でも、自動制御だけにスカートを使うなんて論外。そのスカートが空中機雷をばら撒く武装か、またはまだ別の武装を隠しているかのどっちか。他には?』

「銃……形から見て、実弾系統の銃を二挺持っていた。あれは、ショットガンだと思う」

『ショットガン? 確定情報?』

「水平二連だったから、その特徴で分かった。装填はポンプアクション式よりも遅いよ。でもポンプアクションのモーション抜きで二発撃てる。その後、装填モーション」

『銃器に詳しいの?』

「ただのにわか。僕の姉さんが、FPS廃人だったから、意味無く教えられた。二発撃ったあとに装填モーションが入るから、そこが隙になるのかな」

『そう。アンブッシュは?』

「見た目は蜘蛛。シュートネットを持ってる。それ以外はまだなにも分からない。ただ、マップジャミングはアンブッシュの武装で引き起こされている可能性が高い」

『了解。それで、スズの居場所は?』

 情報源を探る。僕の出発点から、石柱を何本ほど目に入れただろうか。そんなに数は無かった。そして、マップ画面から見て右上が出発点。そこから僕は真っ直ぐに進んだ。これだけの情報で良いのだ。

 必要なのは、“現在地”。マップ全域じゃない。

「円状に並ぶ石柱を時計に例えるよ? それできっと、十一時辺り。そこの石柱付近で動きを止めて状況を確認してる」

『なら、後退して十二時のところまで戻って。そこで合流』

「合流?」

『ええ、合流よ。だって、チームプレイって、そういうものだから』


 今までそんなことをしたことはあったかな。ルーティと一緒に戦っていたときだって、基本的に僕が彼女を守るための合流であって、あれはチームプレイとは呼べないものだった。

 ティアは僕に、協力することを求めている。このどうしようもないワンマンプレイヤーに、協力しろと訴えているのだ。


「僕、チームプレイとか……よく分からない」


『はぁっ!? このゲームでチームプレイがよく分からないとか、そっちの方が意味不明なんだけど!!』

 通信を邪魔するように、アラートが鳴る。モニターで、彼方から急加速して接近するヴァルフレアを捉えたために機体を大きく右に逸らして、まずその突進を避けるように努める。


 けれど、ジグザグに動く。それも急加速と急ブレーキを駆使して、異常なまでの加速度と異常なまでの停止を繰り返して、突撃を続けている。速すぎて目で追い切れない。そもそも目で追うことすら諦めてしまう。ジグザグとはいえ緩やかなカーブ。曲線を描いて動いているが、その合間に唐突な急停止が入るのだ。そして一秒も経たずに真横に飛ぶ。この移動にワンテンポ挟むのはパッチペッカーの直角の動きに比べればまだマシだけど、それでも常軌を逸している。


 あれで、シャロンはコクピット内でまともで居られるのだろうか。空酔いを克服したプレイヤーでも、あれだけの急加速と急停止に急転回を続けると、さすがに気分が悪くなる。だから、彼女は並々ならぬ三半規管の持ち主でもあるのだ。

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