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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第二章 -Near-
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理沙の事情、そして不安

 なんだかんだあったものの、バイトをしっかりとこなしたのち、僕は帰宅し、畳に大の字になって寝転ぶ。


 疲れた。とにかく疲れた。威勢の良いことは言ったけど、こうして自身の言動を省みたら怖ろしくって仕方が無い。

 なんであんな強面(こわもて)な人と喧嘩腰で話さなきゃならないんだよ。刺されたり、殴られていたらどうするんだ、本当に。馬鹿過ぎる……というか、もっと危機感を持つべきだ。ああいう人とは関わらないようにして来たじゃないか。これからだって、関わらないようにするべきだ。あの人で最後、あの人で終わりだ。もう絶対にあの人以上に怖い人と出会ったり、関わったりするものか。


 終わったことなのに、今になって冷や汗が溢れ出す。


「望月とお近付きになりたいわけでもないのに、なんで世話なんて焼いているんだよ、僕は」

 呟いて、上半身を起こす。

 望月に恋い焦がれているわけじゃない。振り向いてもらいたいわけでもない。強い自分を見せ付けたいというプライドすら無い。カッコイイと思われたいわけじゃない。僕はカッコ悪い人間だ。なにより、彼女からの評価を僕が気にする必要は無いと思っている。

 そんな自分が、なんで望月のために頑張らなきゃならないんだ。


 考え方を変えよう。


 望月の兄は理沙を傷付けた。どうにも、発言の中に確証となるものが無かったために、「実は嘘をついているんじゃないか」という疑いを持っているのだが、ついて良い嘘と悪い嘘というものはある。僕が本気で理沙を傷付けた犯人を捜しているのに、嘘であったとしても犯人だと名乗り出て来たならば、取り敢えずコテンパンに叩きのめさなきゃならない。だって自ら望んで悪者になった者に、僕は一切の慈悲なんて与える気は無いから。

 リアルじゃ全く歯は立たないだろうけど、ゲームで決着を付けるという方向に話を持って行けた。狙ってではない。偶然、そうなった。僕がゲームに執心であるように、あの人も“愚者”である以上、ゲームに関して吹っ掛けられた勝負からは逃れられない、ということだろう。

 望月のためじゃない。理沙のために叩きのめす。こう考えれば、僕の今日の言動の全てに意味が見出せる。冷や汗も止まってくれる。震えていた体にも力が入る。

 嫌だ嫌だ。面倒なことは大嫌いだ。『やれやれ系主人公』だと自身を評価したことはあるが、まず僕は主人公になれるほどのカリスマ性は無いし、「やれやれ」と思いながら、自身の強さを振りかざしたことは恐らく、一度も無い。

 いつも嫌だ嫌だと考えて戦っている。面倒事には巻き込まれたくない。楽な戦いがしたい。楽に戦って、楽に勝って、楽に終わらせる。それで良い。だってゲームだし。そのためなら自分を犠牲にしたって良い。自分以外が勝利に導いてくれるなら、僕はどんなワンマンプレイだってやってのける。


 それじゃ、今までと一緒である。

 変わろう変わろうとしているのに、どうして未だにこの根幹は変えられないのか。やはり根が張っている分、引っこ抜くのは難しいのだろう。


 陰鬱な気分になって来たので、少しでも気持ちを上向きにしようと思い、理沙に電話を掛ける。こういう時、彼女に蹴り飛ばされるレベルの後押しをされると、かなり心が安らぐ。

「もしもし?」

 ツーコール目で電話に出たことは分かったが、理沙から返事が無い。そのため、こっちから声を掛けなければならなかった。

『……』

「もしもし、理沙?」

 返事がやはり無い。何故だろう? 電話を掛ける時間帯が悪かっただろうか。ひょっとすると、この前の入院があったから色々と立て込んでいるのかも知れない。

『……もしもし』

「理沙? いつもより元気が無さそうだけど、なにかあった?」

 僕は空気が読めない。読めないが、声量がいつもより小さい上に、言葉の端々になにやら気怠(けだる)そうなものが込められていると、さすがに気付く。気付いたのに、すぐ「なにかあった?」と訊くのは、やはり空気が読めていないんだろうけれど、言ってしまったものは仕方が無い。

『ねぇ、涼。『Armor Knight』だけどさ』

「うん」

『しばらく、やめようよ……ううん、しばらくじゃなくて、もうやめよう』

「本気?」

『……ちょっと、色々、あって』

「理由を言ってくれないと、僕は理沙に無理やり再開させられた立場だから納得できないんだけど」

 スズで最初から始めて、しかもネカマまで強制させて来たクセに、自身の都合で「やめよう」と言われた。ならば僕は怒って良い。怒って良いのだが、ここで感情をぶつけるのは筋違いというか、理沙に元気が無さ過ぎて、怒れば更に元気が無くなってしまうのではないかという恐れから、慎重になる。

『理由は、言えない』

「言えないなら、やめない。この前のことが怖くなったの?」

『それは、無い。それは無いけど……』

「……あのさ、理沙。僕は、物凄い自分勝手で、人見知りで、陰険で陰湿で根暗で、どうしようもないくらい空気が読めない馬鹿だけどさ、理沙だけはなにがあったって、守るって決めているんだよ。助けてもらったから、ね。それぐらいは当然だと思っているんだ。なにを怖がっているのかは分からないけど、なにがあったって僕はちゃんと守るよ……いや、この前は、ちゃんと守れなかったのか……分かんないけど、言っていてよく分からないんだけど、傍には居られないけど、心を守ることぐらいは、出来るんじゃないかって思っているんだ」

 だから、なにがあったからゲームをやめたいと言ったのかを話して欲しい。

『……ありがと、涼。涼のクセに、嬉しいこと言ってくれるじゃん』

「数秒前に自分がなにを言ったか、まだ思い出せないんだけど」

 多分、恥ずかしいことを言った。嘘をついたということは無い。でも、思い浮かんだことをそのまま口にしたので脳の記録がまだ追い付いていないように感じる。

『分かった。ゲームは続ける。でも、やめようって言った理由は言わない』

「なにそれ?」

 馬鹿にしているのか。

『だって、話したら涼がまた変な方向に行っちゃいかねないから』

 それを言われてしまうと、僕は理由を追及することができなくなってしまう。


 僕が“歪曲化”する可能性のある事態が、理沙の身の回りで起こったってことに違いないが、思い当たる節が無い。


『代わりに、なんで『Armor Knight』を始めようって言ったか、教えてあげる』

「あーそれを言ってくれるなら、一応だけ納得するよ」

 ゲームに全く興味を持たなかったはずの理沙がどうして、VRゲームをやろうと言ったのか。それは永遠の謎になると思っていた。

『あのゲームの中で、“小学校の時に友達だった女の子”を探しているの。なんで『Armor Knight』をその子がやっているか分かったかって言うと、』

「女子だけが持っている情報網」

『正解だけど、空気の読めない涼が分かるなんて、これはきっと明日は雨だね』

「一応、訊くけど……“あいつ”じゃないよね?」

『違うよ』

「そっか」

 なら安心だ。

『小学校までは友達だった、の。小学校六年生の時に、ちっちゃなことで喧嘩して、そのまま卒業して、喧嘩別れみたいになっちゃって……ずっと胸の中で残っちゃっていることなんだ。中学生の時に、その子の家に行こうとしたんだけど、引っ越しちゃったみたいで』

「でも『Armor Knight』をやっているってことは分かったんだ?」

『私以外で、あの子とメルアド交換していた子が居たから。そのままメルアドを教えてもらって、自分からメールを送れば単純な話なのに、出来なくてさ……謝りたいとは思っているんだよ。っていうか、私が悪いと思っているし。だけど、メールで謝るよりも、ちゃんと声で謝りたいと思ったから。でも、メルアドは知っていても、電話番号は知らないらしくてさ』

「だから『Armor Knight』か」

『そういうこと……巻き込んじゃって、御免』

「僕は巻き込まれたとは思っていないよ。だって主人公じゃないから。『巻き込まれ体質』なんて持ち合わせちゃいないんだ」

 いつだって自分から問題を巻き起こすかばら撒いている。パッチペッカーとの勝負も、今回の一件も、全て僕から吹っ掛けた。始まりが倉敷さんや理沙であっても、それを膨らませてしまっているのはいつだって、僕なのだ。

『そう言ってくれると、楽になるな。今まで黙っていて、御免ね。嘘、ついていたってことになっちゃうけど』

「僕が今まで理沙について来た嘘の数に比べたらマシだろ」

『そうだね、本当に涼は嘘を八百回ぐらいついていそうだからね』


 痛いところを突かれてしまったものの、なんだかんだで理沙は元気を取り戻してくれたようだ。元気を分けてもらおうと思ったのに、逆に元気を与えなきゃならなくなったのは、納得の行かないところであるが、陰鬱な気分が少しだけ晴れやかになっているので、僕はどうやら理沙の声を聞いただけでも安心できるらしい。

 なら、理沙はやっぱり僕にとって“大切な人”ってことだ。

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