表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Armor Knight  作者: 夢暮 求
第一章 -Encounter-
8/645

準備時間

【-2-】


《高層ビル街にて敵対国の機体を発見しました。本国主要機甲師団の到着には時間が掛かり過ぎます。現兵力をもって、敵対国の機体を排除して下さい》

 コクピット内にアナウンスが入る。これはゲームのロールプレイにおいて気分を高揚させるための要素で、スキップはできない。慣れてしまえば、耳障りにもならない。そんなところにストレスを溜め込んでどうするのか。ストレス発散のためにゲームをやっているというのに。


 制限時間は二十分。ストック制で三回までリスポーン可能。制限時間終了時に両方ストックを残していた場合は撃墜数で勝敗が決定。どちらも一度もストックを利用していなければ、チーム内の機体耐久値の合計で決まる。


 対人戦には準備時間が五分ほど与えられる。準備が時間内に終われば、それより早くに切り上げることもできるが、それは最短で一分。この一分は据え置きゲーム機や携帯ゲーム機によくあるゲームデータのローディング中だとでも考えれば良い。なんにだって下準備は必要だ。僕ら人間もそうだし、機械もそれは変わらない。


 一般的に、早々にこの準備時間を切り上げるチームは戦略が完全に出来上がっている。即席のチームメンバーならば、与えられた五分の間に戦略を立て、各々が役目を果たせるように機体の武装を変更する。ここでの武装変更はいわゆる最終調整段階だ。


『ねぇ、スズ。ヒエさんとキィルクさんとは戦ったことある?』

 会話は拠点に居たときとは異なり、機体間での通信として行われる。合同通信と個人通信の二種類があり、前者は敵チームにも聞こえる通信で後者はチーム内、或いは個人にしか届かない通信である。この切り替えに関しては、特に操作が要求されるわけじゃない。HMDが脳の要求を読み取って、個人的な通信であるかチーム内に向けてのものか、敵チームも含めた全体であるものかを判断してくれる。僕がルーティと話をするという前提で声を発すれば、それは自動的に個人通信として扱われるというわけだ。

「どっちも無いよ。対人戦で何度も戦うとか、それこそ顔見知り同士じゃなきゃあり得ない」

 ランクで推測しても、ファーストキャラですら遭遇したことは一度だって無いだろう。

「あとさ、このマップだと遠距離武装は必須だから」

『えー』

「……あの銃爪(じゅうそう)で行こうとか思ってる?」

『思ってる。だって可愛いから』

 機体に可愛さを求める辺り、僕より女の子らしくしている。ああ、中身が女の子なんだから当然か。

 僕は見た目をそこまで気にしない。なにより、『Armor Knight』は機体、装甲、武装のどれもデザインが良い。見ているだけで、童心に帰らせてくれるほどにテンションが上がる。

「弾切れが怖いから、エネルギーライフルは一挺(いっちょう)でも良いから持たせておいて」

 実弾系は撃ち切ったら装填の動作を入れなきゃならない。確かに便利だけど、装填中は硬直が入る。間違いなくそんな硬直は狙われるだろう。その僅かな硬直は別操作の移行である程度まで殺せるけど、そんな高度な技術をルーティに求めてはならない。

 なので実弾ではなく装填を伴わないエネルギーライフルを勧める。連射に制限が掛かるものの、時間経過で弾数とも呼べるエネルギーは充填される。ランクが低ければ武装としての性能も劣るため、現時点では連射数は二発が限度。そのあとに一秒から二秒の操作を受け付けない時間が設けられる。それでも二発をテンポ良く撃ってさえいれば、気にはならない。

『分かりましたー』


 ……本当に分かっているんだろうか。


 コクピット内には上下左右と中央に大きく広がるモニターと、左右のやや下にある複数のコンソールに中央モニターのほぼ真下にあるマップ画面がある。コンソールには機体の武装情報と、変更する場合は所有している武装の一覧が現在は映し出されている。だが、このコンソールの情報は準備時間が終了すると消える。対戦中に武装の変更はできないということだ。

 そして、そのあとモニターの向こう側に広がるのは、『高層ビル街』という仮想の世界にあるフィールドである。

『セミオートとマニュアル、どっちが良い?』

「素直にセミオートして」

『えー、マニュアルの方が面白そうなのに』

 ロボットの操縦方法には色々とあるものの、ゲームとしての部分から操縦、動作にシステムアシストが入るようになっている。オートならば簡単に操縦できるが、これが強く、急激な戦況の変化に対応し切れない。セミオートならば一部の難しい操縦に補助が入るが、移動などの簡単な操縦はプレイヤーに委ねられる。マニュアルはシステムアシストはとても弱いが、制限を超えた動きすら可能になる。

 熟練者のほとんどがマニュアル操作をしているかと言えばそうでは無い。あくまでシステムアシストの強弱なので、プレイヤースキルでどうとでもなる。ただ、「一番強くなれるのはマニュアルのプレイヤーだ」という噂は消えない。


 大抵の人は車と勘違いしているんじゃないかと思っている。「MT免許ならATの車も操縦できるから就職でも幅が利く」みたいな。リアルとゲームを一緒にしないでもらいたい。


 話が逸れてしまった。とにかく、始めて二ヶ月ちょっとのルーティにはセミオートが向いている。一週間前にシステムアシストに文句を言うようになったが、セミオートに変更してからは幾らか自由が利くようになり、その文句も言わなくなったわけだし。

 だからって、マニュアルにそのまま一気に行くのは無謀だけど。

『スズはマニュアルなんでしょ?』

「僕のどこに初心者らしさがあると思う?」

『ズルいなぁと思って』

 なにをどう至れば、ズルいという感想を持つのか、甚だ疑問である。

「あと前に教えたけど、」

『はいはい、負けなきゃ勝ちでしょ。でも、ズルは良くない。正々堂々と戦って、負けないように勝つ』

「……なんか、目の前に居るときよりも僕に対する発言が雑になってない?」

『そりゃスマホで話すときの法則と一緒だよ。あと一人称が戻ってるよ』

「そんな法則なんかないよ」

 あるとしても、僕は電話口だと緊張する方だからルーティとは違う。

「あと、ルーティとの個人通信じゃ外には聞こえないから別に『僕』を遣っても良いだろ」

『そういうことをしているから、いつまでも街でも『僕』を遣っちゃいそうになるんじゃん』

 ルーティの言うことも最もであるが、そもそもこの苦労を押し付けた張本人に説教されるのはどうしてか。

『最終調整終わり。そっちは?』

 まぁ、ここまで陰気に文句を並べたって仕方が無い。拒否せず受け入れてしまったのは、僕の側なんだから……。

 そう、僕が悪いんだ……僕が、悪い? 本当に、僕が悪い?

『スズ?』

「ああ、御免。こっちもすぐに終わるよ」

 軽く自問自答していたせいで、返答が遅れてしまった。


 武装の変更は、特にしない。どこでも通用する当たり障りのない武装でやっているので、面白みがないと言われればそれまでだけど、何度となく対戦をし続けていると、武装の変更すら億劫になる。その武装変更をできる限り少なめにしたいと思うならば、オールラウンダーな武装に落ち着く。これで負けることもたまにあるので、その時ぐらいは武装の変更を考えたりもするが、結局、やらずに終わる。面倒臭がりがよく陥ることだと思う。


 コンソールの『準備を終えますか?』に対する問いに『はい』を選択する。続いて、奥底から唸るような駆動音が響く。コクピット内が小刻みに揺れ始め、機体の起動が完了する。


 モニターに広がる高層ビル。そして、モニター上部に浮かび上がる10秒からのカウントダウン。同時に自機体の位置がマップ画面に薄水色の点として表示される。


 『よろしくお願いします』『よろしくです』とヒエさんとキィルクさんから通信が入ったので、ルーティと二人揃って『「よろしくお願いします」』と返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ