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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第一章 -Encounter-
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対人戦募集

 外見が女性で、声質も女性であれば100%女性ということが確定してしまう。僕と違って、理沙はその部類に入る。

 ナンパやらなんやらと、とにかく女性とお近付きになろうとする男はあとを断たない。熟練者なら上手い避け方や身の振り方も心得ているが、理沙は初心者を卒業したてで、まだまだ未熟者だ。車の免許を取得して、でも初心者マークはいつまでも付けているみたいなところだろうか。

 そして、オンラインゲームの知識も豊富ではない。だから、僕のネカマプレイは実のところ、彼女のお守り役も兼ねているところがある。


 どうしてファーストキャラでプレイしないかと言うと、そのキャラに良い想い出が無いから。なので、理沙が「『Armor Knight』をやりたい」と言い出して僕を家まで呼び付けたときには真っ先にセカンドキャラで性別は男性を選ぶつもりだったのだ。


 にも関わらず、にも関わらず、だ。僕は女性キャラを作らされた。彼女の両親に呼ばれて一度、『NeST』を置いて退室したのがいけなかった。戻ってみたら、もう既に性別選択を終えていて、呆然としている僕に「さっさと身長とかスリーサイズの設定をしろ」と命じてきたのだ。その命令で、今のこの『スズ』というプレイヤーキャラクターは生まれた。作り直すことだってできたのに、僕はこのとき、その選択をしなかった。


 理沙の命令口調には逆らえないときがある。昔からそうなのだ。ただでさえ六連コンボを決めて僕をKOさせた女の子である。逆らえば逆らうほどに、僕という存在が全力で否定されかねないので、あのときは従うしかなかったのだ。従属体質なるものがあるのなら、まさしくそれだ。


 しかし、追々、聞いてみれば「男女でプレイしていたらカップルだと思われて、複数人でチームを組むときに気を遣われて遠慮されそう」という、彼女なりのちゃんとした理由があった……らしい。らしいのだが、上手く丸め込まれているような気がしてならない。


 全ての原因となったその騒動も、もう二ヶ月ちょっと前の出来事になる。今は下宿生活を始めているので、理沙と毎日のように顔を合わせて話すことはできなくなってしまったが、ここでは相も変わらずと言ったところなので、これからもきっと理沙との縁は切れないだろう。


 『くれぐれも、理沙が変なことに巻き込まれないように!』とは、僕が彼女の両親に呼び出され、言われたことである。

 これを言われるタイミングさえもう少しだけ遅ければ、僕はきっとネカマプレイなんてしていないと抗議しに行きたかったが、幼馴染みの両親にはなにかとお世話になったことがあるので、その恨み辛みを吐くことはできなかった。


 VRゲーム一般的に理解されにく上に受け入れられにくい。特に『Armor Knight』は拠点となる街や国はあっても、地続きでフィールドに出て戦闘を行うというシステムを持たない。クセのあるシステムも相まって、理沙の両親は彼女がなにやら騒動に巻き込まれないだろうかと心配で仕方が無いのだろう。だからその時は「分かりました、気を付けます」と宣言し、部屋に戻った。戻った直後に、彼女に飛び蹴りを入れたくなったことについては、もう語る必要もないだろう。

「やっぱり、違和感があるんだよ」

「胸を大きめにしようとしたとき、全力でそれを拒んだスズの顔は面白かったなぁ」


 ルーティの、ではなく僕のキャラクターたるスズの話だ。キャラ作成時に、面白半分で艶美な女性キャラを作らせようとしたことを僕は一生忘れない。一生忘れてやるものか。


「結果的に、この容姿に落ち着かせることができて良かったと思ってるよ……」

 塵一つとして思ってないが、苦笑しつつ僕はルーティに少しでも安心してもらえるように虚言を零す。

 彼女は僕の苦笑に対して、同じく苦笑いを浮かべていた。自分でもやり過ぎたという自覚があるんだな、きっと。その自覚をもう少し前に発揮して欲しかった。


 しかし、二ヶ月ちょっと経っても、幼馴染みのことを「ルーティ」と呼ぶことに違和感がまだ残っている。普段は名前を呼び捨てだったし、ここでも言ってしまいそうになることがある。向こうはもう慣れてしまっているようだ。僕だけ苦労しているのは、様々な要素が相まって不公平な気がする。

 立花 涼(たちばな りょう)。それが僕のリアルでの名前だ。キャラクターネームは『涼』の読み方を変えて『スズ』。女性だとしても決して不思議ではない名前が功を奏して――功を奏しているのか? ともかく、名付ける上では困ることは無かった。


「明日はバイトも休みだし、とことんやろうと思うんだけど、スズは?」

 これ以上はイジイジと僕に嫌みを言われると察したのか、彼女は話題を変えて来た。

「ルーティはそんなにログインしていられないだ……していられないんじゃないですか? 親を心配させちゃダメですよ」

「それ、私に会うたびに言ってない? 私も高校生で、」

「ストップ。こっち見てる」

「え、嘘」

 ルーティは僕から視線を外して、右に左にと顔を動かす。

 オンラインでの年齢っていうのはあくまでロールにするべきだ。リアルに等しくしなければならない理由はない。

 それなのに理沙は、自分の年齢を大衆に知らしめるような単語を口にすることが多々ある。そのたびに飢えた男に声を掛けられそうになり、その対応に辟易しなければならない。彼女が、ではない。主に僕が、である。

「キャラクター、ネタ抜きで本人そっくりに作ったのも響いてるよ」

「なにが?」

 僕がそう呟くと、彼女は不思議そうに首を傾げて訊いて来る。


 ルーティは、理沙にそっくりだ。顔の造形などはスクロールバーを動かして調整、或いは提供されるパーツから選び抜くけど、その量は多く、粘りに粘ればリアルに似せることもできる。ルーティはまさにそれをやってしまった。所々に異なる点があるけども、それでもほぼそっくりそのままの移し身を作り出してしまった。彼女と一緒のときに垣間見た女性っぽさや、あの健康的な体付きが、そのまま再現されているのだ。

 普通に、どこにでも居る女の子よりは人目に付きやすい。十人居れば十人が振り返る、ではなく七人近くは振り返る。絶対的な美人ではなく、一般よりも一つ二つ上の美人。僕はそう彼女を捉えている。リアルでの理沙は陸上部だし、若干、筋肉質な体が気になったことはあるものの、やはり女の子らしい軟らかさは一部にちゃんと残っていて、こっちが目のやり場に困ることも何度かあったくらいだ。


「別に……ただ、年齢がバレないように気を付けるように」

「りょうかーい」

 分かっていない人ほど「了解」という言葉を口にするという思い込みは、僕だけのものでしょうか。

「それで、今日はなにする? 対人戦でも良いし、ミッションでも良いよ」

 呆れつつも、ルーティに指針を求める。


 『Armor Knight』はMOなので、マッチングしたのち対戦専用サーバーへと飛ばされる。いわゆるルーム制限と呼ばれるものだが、サーバーは昔に比べて膨大な量のデータを処理できるようになっているため、一つのサーバーへの接続人数は数千人単位となっている。それでも専用サーバーへの移動が必要なのは、さすがに対戦データまで一つのサーバーで処理し切れないからだ。


「ミッションはCOMだし、やっぱり対人戦が面白いかな。2vs2で勧誘してみる?」

「サーバーは選択しなくて良い? ランクは僕……私たちと同等かプラマイ2くらい。ステージは地上と空中どっち?」

「空中で」

「じゃぁ地上で」

 ルーティの言うことの反対を選ぶのが吉である。

「もぉ! なんで!」

「しばらくはミッションで感覚を覚えなきゃ。野良でも一杯一杯だったって話を聞いたことがあるんだけど?」

「う……嫌な想い出が」

 僕が1vs1のルールで色々とレクチャーしたのち、初心者として野良に飛び込み、最初に選ばれたマップが地上ではなく空中だったとき、ルーティはそれはもう散々な目に遭ったと聞かされた。

「野良のマッチングシステム、ちょっとは改善した方が良いと思うんだけどなぁ。初心者は初心者同士と組めるようにすべきだと思うよ」

「だから思い出させないで! 地上戦で良いから!」

 嫌がらせするために言ったつもりはなかったのだが、過剰に反応する辺り、相当に酷かったんだろう。空中戦初心者は、まず空酔いから始まる。ルーティは恐らく、最悪の形で対人戦デビューを果たしたに違いない。


 僕は嫌な想い出に苛まれているルーティと共に出撃ゲート前に移動して、そのすぐ近くにある端末に触れ、2vs2の対人戦についての募集を掛ける。


「2vs2はすぐ埋まるよ」

 最も手軽だし1vs1よりチームプレイの醍醐味を味わえる。それが2vs2だ。

「どう?」

 訊かれるまでもなく、すぐに募集は終わった。

「埋まったよ。相手は『ヒエ』さんと『キィルク』さん。どっちも……男性かな。機体もどっちもArmorで、ランクもほとんど同じ」

 出て来た対戦相手の情報を軽く説明しつつ、ルーティに向き直った。

「よっし、勝とうね、スズ」

「勝つよ」

 出撃ゲート前で待機していた僕たちのコンソールにアイコンが浮かび上がる。それを確認して、ルーティが先に対人戦の手続きを終えた。

「げ、『高層ビル街』だ」

 マップが決まったのちにルーティは露骨に嫌そうな顔をした。

「あー……面倒なところになっちゃったな。マップ選択はランダムだったし、しょうがないよ。それじゃ、準備が終わったらフィールドで」

「うん」

 肯いて、ルーティは出撃ゲート前から光の粒となって、対戦専用サーバーへと転送される。

 募集者本人である僕の手続きが終わらないと準備にすら入らないので、さっさと出撃ゲート前でコンソールを開いて、アイコンにタッチして手続きを終える。

 僕の体もまた光に包まれ、粒となり転送が開始される。この転送には十秒も掛からない。


 転送先には夢と希望の冒険ファンタジーが待っているわけではない。


 待っているのは、知識とプレイヤースキルが幅を利かせる、悪く言えば無法地帯である。良く言えば……なんだろう?

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