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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第二章 -Near-
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高層機体倉庫

「ぉっと」

 小さく声を漏らす。前方から飛来した実弾を浴び、マップ画面に赤茶色の光点が記される。

「先制されるのは仕方無いにしても、防げなかったのは注意力散漫だったな」

 攻撃を受けたことで敵機体の位置はマップに表示された。ミッションによっては、たまに機体の配置が変わる。この位置だと、ちょっと珍しい配置になっているだろうか。

 頭の中に叩き込んでいた攻略法から機体の配置を引っ張り出し、マップ画面と記憶を照らし合わせて、大体の当たりを付けるように画面をタッチして“ピン”を置いていく。その情報はそのままティアのマップ画面にも反映され、そしてティアが置いたピンもまた、僕のマップ画面に反映される。僕はそういったピンの色を赤茶色にしているが、ティアはどうやら深緑色であるらしい。そのおかげで、どっちが置いたピンなのかはすぐに分かる。


 このマップの特徴を簡潔に言わせてもらうと、薄暗くて、広い。『ワンダースフィア』のように上昇と降下の限界に差異や『高層ビル街』のように格子状に道路、『海上空母上空』のように定期的にミサイルが飛来するといったものはない。あとは、ミッションとしての階層構造ぐらいだろうか。


 あと、極端な集中力や直感力は不要だ。熱中はしても、空間を把握する“狂眼”には深く頼らない。そんなものに頼ったら、ゲームの面白味が激減してしまう。

 パッチペッカーみたいな許せない相手と戦うときぐらいで丁度良い。ずっと集中するというのも疲れるし。


「僕とティアのピンがマップの同位置に置かれている地点は、敵機体が待機しているのは確定か」

 けれど、互いに離れた位置に置いてあるピンは確定情報とはならない。とは言っても、ティアが敵機体となにかを見間違えるはずもないので、むしろ僕のピンが当たっているかどうかが怪しいところである。


 これだけ情報がすぐに出揃えば、対処は難しくない。今まさに僕の機体へ攻撃を浴びせている機体の先に二機は索敵範囲外で、反応して来ない。なので、最低限必要な耐久力まで削り取られない内にさっさと仕留めてしまおう。


 やや左に寄りつつ、しかし中央付近の機体を反応させないギリギリのところで切り返しながら実弾をできる限り避け、次に一気にブーストを掛けて薄暗いエリアを直進し、敵機体を捉える。オルナが近距離に入ったことで、CPUの判断として近接戦闘に攻撃がシフトされる。

 敵機体が振るったソードをバックダッシュでやり過ごし、そこから来るウェイトを抜剣の動作で殺して、即座に近付いて機体をまずは袈裟に切り、続いて、逆袈裟に切り返す。二撃浴びせたところで後退して、脚部からダガーナイフを取り出し投げ付けてトドメだ。

 この機体は装甲も厚くないし、耐久力も大してない、いわゆる雑魚機体だ。こんな機体に苦労している暇はない。


『こっち二機、外れ』

「こっちはまだ一機。外れ」

『遅い。もっと早く』

 そう脅されてしまった。


 エリアジャミングを掛けている機体は見分けが付かない。つまりは総当たりになってしまう。でも、弾数の制限があるようなFPSでもないし、機体の耐久力にさえ気を付けていれば詰むような要素もなく、そして制限時間も余裕をもって取られている。


 ただし、効率重視となればそんな余裕のある時間は考慮しない。RTAほどではないが、できる限りの速度でミッションを進めていく。見知った仲でなければ間違いなく嫌われる行為だ。この辺りはマナーの問題になって来るが、初めてチームを組んだ相手に、これを求めてはならない。やるのであれば「効率重視」でチームを募集する。そうすれば、いざこざは起きない。チームを作って、ミッションを始めてから「効率重視です」なんて言った日には、まず雰囲気が最悪になるだろう。


 ピンを置いた位置に待機する二機の索敵範囲に入ったので同時に対応する。片や、ソードを抜いて近接戦闘の動き。片や、実弾系の銃を抜いてオルナへと連射を開始した。CPUにチームプレイというものが存在するかどうかは定かじゃないけど、こういう動きはよく見られる。

 振られたソードを避けて、まずは後方で援護射撃をしている機体を狙う。CPUの近接戦闘はクリティカル距離を意識していないので、意識すれば簡単に避けられる。むしろ、こっちに意識を向けていると、援護射撃によって耐久力がゴリゴリと削られる。こういった場合、明らかに脅威なのは後ろで攻撃してくる機体だ。

 ダガーナイフで牽制しつつ、敵機が思い通りに動いたところでソードを振るい、二撃浴びせて下がる。


「削り切れなかったか」

 呟きながらソードを収納してエネルギーライフルを抜く。

「でも、これでさすがに落とせるだろ」


 エネルギーライフルによる三連射を浴びせて撃墜する。ウェイトを殺し、ブーストを掛けて、後方から切り掛かってきた機体のソードを避ける。振り返り、エネルギーライフルで同じく三連射を浴びせて、ソードに持ち替え、その間に接近されたところで振るわれた一撃を剣身で受け止め、流し、捌き切って袈裟と逆袈裟の二撃を浴びせて離脱する。


『こっち三機目。外れ』

「こっちも三機目撃破。っと、今のが当たりっぽい。エレベーター」

『了解』

 エリアジャミングの機体を仕留めたなら、他の機体を相手にする必要は無い。すぐさま僕はマップ画面に映るエレベーターのポイントに向かってオルナを走らせた。


 『高層機体倉庫』は地上四階、地下三階の計七階の構造となっている。それで“高層”とは名ばかりとも思ってしまうのだが、機体を格納する場となれば天井は高く、そして地盤と床は分厚い造りとなる上に内部も広く取らなければ機体を格納する充分なスペースを確保できない。地上四階だけで標高60m以上100m未満の高層建築物の基準は満たしている。

 構造自体は単純で、物凄く広い長方形の部屋という表現が合う。けれど階層の移動があるので無駄に広く感じてしまう。


 しかし、その中でドンパチやり合っても、柱が粉砕されたり天井が崩れたりすることがない点は、現実味に欠けているだろう。そもそも、こんな異様に広く、異様に天井が高い建築物がある部分においても少々、ご都合主義が過ぎる。この辺りはやはり、仮想世界だからという言葉で片付けるしかない。狭過ぎたらプレイヤーが動き辛く、そして敵機が密集してしまう。そうなると多数の索敵範囲に引っ掛かり、常に多数を相手取らなければならなくなる。だから、これぐらいの広さが設けられているのだろう。

 ゲームとはプレイヤーに優しく、CPUには厳しいシステムを搭載しているものなのだ。たまに逆パターンのゲームもあるが、狙ってその難易度に落とし込んでいなかったゲームに対しては、いつも開発者を殴り掛かりに行きたい気持ちになりつつ、必死にそのゲームをクリアしようともがくのである。

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