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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第二章 -Near-
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二人でミッション

 ようやくティアと仲直りをしたのち、彼女が欲している長刀『クレッセント』を解禁するために、ランク8のミッションに行くこととなった。というか、手伝うことを条件にした仲直りでもあるので、これを拒んだらティアとはまた喧嘩した状態に戻る……らしい。それはなんとなく嫌だったのと、ついでにミクロン単位であった僕の悪いと思っている部分から来る罪滅ぼしとしての意味合いもある。


「昔、ゲームを買うために学校をサボったことがあったんだ」

 言いながら僕はオルナのコクピット内で、武装の変更を行う。

『へー、さすがはゲーマー。でも、怒られるんじゃない?』

「親の目を盗むためにいつもの時間に起きて、いつもの時間に中学に行くというフリをして家を出たわけ。そんな早い時間にゲームの販売店が開いてるわけもないのにさ」

『まさか、開店するまで待ったわけ? そんな開店前に行かなきゃならないほどのビッグタイトルなゲームだったの?』

「それが、僕の中では物凄い期待していたゲームだったみたいだけど、世間じゃそうじゃなかったみたい。ポツリポツリと僕みたいに開店を待っている人も居たんだけど、その頃にはもう、周りの視線が嫌になってて、なんでこんなことしてるんだろうな、なんて考えたりもした」


 据え置き機や携帯ゲーム機のほとんどがパソコンと同じでダウンロード販売に移行してしまったが、それでもパッケージ版を用意するゲームメーカーはある。でも、やはり需要はダウンロード版の方が大きく、供給側であるゲームメーカーはコスト面でも安くなるダウンロード版への完全移行を進めている。

 だから、棚に荘厳に並ぶパッケージは、僕がバイトしている個人経営の、中古も扱うようなゲーム屋さんでしか見られなくなった。


 コレクターとしての意識は無かったけれど、そのときはまだダウンロード版よりも直接、手に取って“買った”と実感することのできるパッケージ版の方が好きだった。だからこそ、学校をサボってでも買いに行きたいと思ったのだ。


『結局、買えたの?』

「買えたけど、学校から親に連絡が行って僕は怒られた。でも、家族会議は開かれなかったかな。だって、ゲームをそうやって学校をサボってゲームを買いに行ったのって僕だけじゃなかったし。姉が中学時代にそれを実行して、怒られていたから親は『またか』って思ったらしいよ」


 なんでティアに暇潰しで昔話なんてしてるんだろ。それも、とても些細な昔話だ。こんなことを話そうだなんて、今まで思ったこともなかったのに。


 近接戦闘用にソードは必須だけど、二本はさすがに重過ぎる。そして右腕の武装はパイルバンカーだから、エネルギーライフルとソードを同時に扱うことはできない。だからエネルギーライフルも一挺だけに削る。

『スズにお姉さんが居るの? それ、脳内設定とかじゃなくて?』

「幼馴染みが現実に存在していたことで、その脳内設定という説は覆されたんじゃないの?」

『まぁ、そっか』

「ちなみに妹も居る」

『スズが女性を演じられるのは、そのお姉さんと妹さんのおかげってことか』

「身の振り方、というか女性らしさ、みたいなのは演じやすいかな。でも、僕は男だからそんなのを知っていても、なんにも得しないよ」

『私と出会えたんだから、得してない?』

「むしろ、不利益を被っている」

 通信の向こう側でティアは怒りを露わにしているだろう。けど、ミッションに行く前のような怒りとはまた別だ。


 いわゆる、じゃれ合いみたいな。ちょっかいを出して、それに反応して互いに面白がる、みたいな。リアルじゃ気味悪がられて、こういった言葉でのじゃれ合いなんてできっこないけど。


『準備はできた?』

「んー……オッケー」

『パイロキネシスを華麗に倒す様を見させてもらおうじゃない』

「華麗には倒せないけど、楽しくは倒させてもらうよ」


 あのCPU専用機体と戦闘するのは面白いし。


 コクピット内に駆動音が響き、続いて計器類が音を立てて起動する。Armorの頭部パーツに備わるアイカメラが捉えた景色を、前面のモニターに映し出された。下部のマップ画面には水色の光点が二つ示されるが、これは一つが僕の乗っているオルナで、もう一つはティアの乗っているパールの位置を表している。

 モニター上部にミッション名とミッションランク、更に攻略条件として『特定機体の撃破』が表示される。


《我が国内より、敵国の新型機体が開発、そして隠匿されているポイントを特定しました。また、我々の侵入を先ほど、彼らも感知したようです。大規模な攻勢に出られれば、それだけ我が国は大きな打撃を受けることとなります。反乱分子は残さず殲滅の上、パイロットは速やかに目標を破壊してください》


 ミッションアナウンスを聞き流しつつ、操縦桿を握り、そして両足をペダルに乗せる。駆動によって小刻みに揺れるコクピット内であるが、僕にとってはミッションや対戦が始まる前限定の、言うなればリラックスタイムだ。

「効率重視? それとも遊びも入れる?」

『今日は大して時間が取れそうもない。効率重視でお願い』

「了解」

 初心者なら初めてのミッションには、戦々恐々としながら臨むこととなるが、僕らは互いに初心者の皮を被った経験者だ。このミッションだって、敵国の新型機体=パイロキネシスだと分かっているし、その目標を発見するまでに至るセクションやルートだって知り尽くしている。ティアは苦手と口にしてはいるけど、さすがに初ではないだろう。テオドラの頃に何回かは受注しているはずだ。でなければ、彼女の性格的に「効率重視で」という返事はして来ない。

『私は左。スズは右から』

「ジャマーを壊したら報告頼むよ」

『分かってる』


 マップは『高層機体倉庫』。ArmorやKnightを収容している施設。

 ミッションにはセクションがあり、段階を踏んで攻略していかなければならないものもある。このミッションの場合は、階層ごとにエリアジャミングを発生する機体があり、それを破壊しなければ次の階層に進めない。他のゲームで言えば、ボスの取り巻きみたいなところだろうか。エリアボスと呼ぶには弱すぎるし、爽快感のあるゲームではよく登場していた拠点兵長という扱いでも良いかも知れない。


 モニターに『ミッション開始』が表示され、同時に僕はオルナを、ティアは機体――パールをガス噴射によって前進させる。彼女の機体はテオドラの頃に比べれば、Armorということもあって武装や装甲のレパートリーが欠けるためか少々、無骨なものに変わっている。それでも流線型を描くような努力は成されており、なによりテオドラのときに乗っていたラクシュミと同じくして、カラーリングが白銀色だから目立ちやすい。剛剣『ダイタロス』が無い分、むしろこっちの機体の方が女性らしさが滲み出ているようにすら思える。いや、ティアは女性なんだからこれが普通なんだけど、相変わらず新鮮さがあるというかなんというか。


 第一階層に入り、パールは左に曲がる。僕はそれを見届けたのち、右に曲がってマップを頼りに、壁に沿ってエリアの外周を舐めるように機体を走らせていく。

 これは閉鎖的なマップではセオリーとなってくる戦法だ。初っ端からど真ん中を先行して進むと外周に配置されているCPU機体全ての集中砲火を浴びることになる。それを避けるために、まずは外周の機体を叩いていく。

 MMORPGには索敵範囲に入れば問答無用で攻撃を仕掛けて来るアクティブモンスターと、索敵範囲に入ってもこちらに危害を加えてこないノンアクティブモンスターが存在するが、『Armor Knight』のCPU機体は全てをアクティブモンスターの括りに入れてしまって構わない。ただ、これは逆に言えば“索敵範囲さえ見極めていれば多数を相手取らなくて済む”ことになる。よって、中央付近に陣取っているCPU機体は外周にさえ沿っていればこちらに反応しない。


 高ランクになると一定範囲を巡回するアグレッシブな機体も配置されるが、低ランクの容易さにここは甘えてしまおう。

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