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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第二章 -Near-
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忠告と発表

「どうかした?」

「チャット、ログ……」

「ログ?」

 確かにチャットをすればログは残る。でも、それがなんだと言うのだろうか。

「リョウにチャットしたとき、ルーティと一緒に会話の共有の意味で、チャットログをコンソールで開いていたから、もしかしてそれを……覗かれたのかも」

 それは初耳だ。あのあとでティアとルーティがすぐに意気投合できたのはそこでのやり取りがあったからか。


「ふふ、あなたは注意力が散漫みたい。あれを見て、その後すぐにあなたとスズが一緒に遊ぶようになれば誰だって一つの答えに至るのに」

 シャロンはティアが正解に辿り着いたと知ってからか、ほくそ笑んでいた。

「安心して。私は別にこのことを話すつもりなんてないから。ただ、言いたいだけ。あなたたちはバイオにはきっと、敵わない。だから、あなたたちはバイオになにかを言われても、戦ったりしないで」


 シャロンがコンソール画面を開き、ログアウトの文字をタップする。

「なんで私のことを知っているの? スズのことを知っていたとしても、私の……リアルの私の名前なんて、知ることはできない!」

 ログアウトの完了には三十秒ほどの時間を必要とする。まだこの世界から出ていないシャロンに向かって、ティアが荒々しく訊ねた。

「あなたは、現実でもほぼ同じ容姿でしょう?」


「会ったことが……あ、る?」


「さぁ? 会ったことがないと分からないことじゃない?」

 三十秒が経った。シャロンという女性は光を発しながら消えて行き、そこに宿っていた意識はリアルの望月の体へと帰っていった。

「なんなの、あの子」

「僕に言われても」

「口調が男になってる」

「それどころじゃない気がするんだけど」

 指摘されたので、すぐさま声の調子を整えた。

「“死に近い人”って、どういう意味だろう?」

「私に分かるわけないでしょ。あの子はあなたの知り合いなんじゃないの?」


「友達未満知り合い未満、名前を知っている程度」

 友達以上恋人未満を真似てみようと言ってみたが、これっぽっちも似ていない上に回りくどくて分かり辛い表現になってしまった。


「要するに顔と名前しか知らないってことでしょ。話したことは?」

「話と呼べるほどの話をしたことは一度だって無いよ」

 だって他人に興味が無いから、とは付け足さなかった。それは僕の性格をティアもよく分かっていることだからだ。そんな簡単にコミュニケーションが取れているのなら僕はここまで陰湿で陰険で根暗でコンプレックスの塊みたいな精神を宿してはいない。

「私のことを見たことがあって、しかも名前まで知っているなんて……私一体、どこであの子と出会って……それに、バイオに敵わないとかまで言っていたし、何様なの? なんか苛々してきた。ちょっとスズ、蹴飛ばして良い?」

「そこで良いよと答えられるほど私はマゾじゃない」


 暴力的というか短気だよな、ティアって。


 けれど、あんな意味深なことを言うだけ言って、ログアウトするなんてまるでこっちの不安を煽っているかのようだ。


「要はバイオってプレイヤーには気を付けろってことでしょ? 忠告として捉えておいた方が良いんじゃない?」

 僕は忠告されればそれに従う主義だ。歪んだ方の僕は真逆だけど、抑え込めているんだから、考えることじゃない。

「それだけだったら、良いんだけど」

 ティアはどこか心配しているようだ。確かにリアルのことまで知られていたら、落ち着かないだろう。僕はシャロンが望月であると分かっているので、個人情報をバラされたならば、同時に望月の個人情報をバラ撒くという手段に出られるが、ティアはそれができない。情報量がフェアじゃないからこそ、しばらくは頭の中でずっと考え込んでしまうだろう。それで塞ぎ込みはしないのが彼女の凄いところでもあるけど。


「現在、ログイン中のアズールサーバーの皆様ー。どうか、ご清聴くださーい。ギルド『スリークラウン』よりご報告でーす」


 僕とティアはほぼ同時に顔を上げ、ログイン広場の中央に立つ猫耳と獣の尻尾を生やしている女性――にゃおの発した声に耳を傾けた。

「『スリークラウン』が周囲に報告するようなことって、なにかあるの?」

「ティアも『スリークラウン』に入ってなかったっけ?」

「入っていたけど、特になんにもなかったわ」

「それもそうだ」

「……なにか知ってるの?」

「『スリークラウン』で発表するべきことっていったら、一つしかないよ」

 あとは聞いていれば分かる。そう視線で促すと、僕に対して不満そうな顔を見せたのちにティアは、にゃおの次の言葉を待つかのようにジッと彼女から視線を離さなくなった。


「皆様のおかげでー、このたびようやく、ようやっとー! あたしたちのギルド『スリークラウン』の、新たなサブギルドマスターが決まりましたー!」


「『スリークラウン』のギルドマスターを支えるサブギルドマスターは二人。それは昔からずっと変わらない。ただ、その席はもう様変わりしているけれど。昔は『炎将』、『雷神』、『氷皇』だった。でも今は『炎帝』で、サブは、あの言動のせいで『雷狼』と知る人も少ないけど、にゃおだ。そして、もう一つの席はずっと空いたままだった。それが決まったんだよ。だから報告する。『スリークラウン』ではそれが決まりだ」

「それって、あなたの代わりに役目を果たせる人が決まったってことになるんじゃ……そういえば、私もサブのギルマスを薦められたことがあるけど、断っちゃったし、ついでにテオドラは消しちゃった」

 それはきっと『スリークラウン』の中でも大混乱を招いただろうな。有望だったプレイヤーが突如としてキャラクターまで消して引退した。きっとみんな、そう思ったに違いない。

 その大混乱を経て、ようやく二人目が決まった。だからこそ報告する。『スリークラウン』のギルドマスターをサポートする重要な役割を担うプレイヤーが誰なのかを公表することで、更にプレイヤーたちの関心を惹き付けたいという考えなのだろう。


 これが、にゃおの考えたことなのかそれとも『炎帝』の考えたことなのかはおいといて、だけど。


 にゃおが声で「ドンドンパフパフ」と効果音を表現しつつ、彼女の隣に青い髪の女性が立つ。女性というより、あれは少女と呼んだ方が良さそうだな。この世界じゃ外見的特徴は変えられてしまうから、実際はどういう姿か定かじゃないけど、隣に居るにゃおとさして身長差は見られない。

「本日より、ギルド『スリークラウン』のサブギルドマスターを務めることになりました、ラヴィット・ハットと申します。皆さん、どうかよろしくお願いします」

 聞いたこともないプレイヤーネームだ。僕がリョウを放り出してからギルドに加入した人なのだろうか。僕もどれくらいギルドメンバーが居るか知らなかったし、そこのところはハッキリと言えたことじゃないけど。


「ラヴィット・ハット。嫌いだねぇ、ぼくは」

 隣には、グッド・ラックが立っていた。

「おや、魅惑の妖精さん。今日だけで二度も会うなんて奇遇だねぇ。これからぼくとお茶でもいかがかな?」


「ウザいんですけど」

「いや~、断られることは分かっているんだけど、女性と見れば声を掛けたくなるのがこのぼくなのさ。まぁ、二度目であったし、悪気は無い。すまないね」

 言いながらグッド・ラックの視線は珍しくこちらを向いておらず、ずっとにゃおの隣に立っているラヴィットに向けられていた。


「ぼくはあの子が嫌いだよ。ラヴィット・ハット。兎の帽子。男のことを、兎の皮を被った狼ということもあるけれど、彼女は兎の帽子と来た。一体、どんな人間なのだろうね。とにかく、嫌いだよ。まぁ、声を掛けてしまうのはぼくの生き甲斐だから、嫌いだろうとなんだろうと、声は掛けてしまうだろうけれど」


 グッド・ラックが嫌う理由が見当たらない。ラヴィットは可愛いらしい容姿をしている。キャラクリエイトで相当、頑張っただろう。もしも、あれだけの可愛さを持った人物がゲームをプレイしているとなると、それはそれでリアリティが無さすぎる気もする。

 ただ、隣に仮想世界と現実世界、その両方で遜色無いほどの美女であるティアが居る以上はそれをハッキリと言い切れるほどの自信は持ち合わせていない。

 グッド・ラックは僕の返答を待つよりも早く、スタスタとログイン広場をあとにしてしまった。どこか寄るところでもあるのだろうか。でなきゃこのログインエリアという絶好のナンパポイントから離れるなんて、彼らしくもないことだ。


「ギルド『スリークラウン』からのご報告は、以上になりまーす! 皆様、彼女のことはこれから『氷姫』と呼んであげてくださーい!」


「氷って、リョウと同等のプレイヤーってこと? それって、凄腕プレイヤーじゃない。私、ギルドメンバーだったけどラヴィットとは一度も会ったことなんて……いや、一回だけ名前だけは聞いたことあるけど、そこまで強いプレイヤーだったかな……?」

「なんでもかんでもリョウを基準にして考えなくても。ティアがもしもキャラを消さなかったら、今頃、あそこにはテオドラが立っていたかも知れないんだからさ」

「それって、私が『氷皇』よりも劣っているのにサブのギルドマスターになっていたかもってことでしょ。リョウよりも弱いのにサブを務めるなんて、私には絶対にできっこない」


 だから、強さの基準をリョウに求めすぎなんだ。


「『氷姫』のラヴィット・ハットか」

 ログイン広場はギルド『スリークラウン』の報告が終わったためか、プレイヤーたちが一気にバラけた。シラけた空気ではなく、どこかピリピリとした雰囲気だろうか。ギルド『スリークラウン』は強さ重視でしか活動しないから、今に限ったことではない。この雰囲気も時間が経つに連れて払拭されるだろう。


「あのー」


「へぁっ?」

 一息ついたところで声を掛けられたので、変な声を出してしまった。

「な……なんですか?」


 先ほどまで遠目にしか見ていなかったはずのラヴィットが目の前に居た。慌てて取り繕ったが、バレずに済んだだろうか。この表情から察するに、バレていないな……うん。テオドラという基準があるから、バレているかバレていないかはなんとなく分かる。

「スズさんですよね?」

「え、あ……はい」

「この前の大会で、あのテオドラさんと共闘したスズさんですよね?」

 一度目は確認、そして二度目も再度の確認である。僕は肯くことしかできない。

「あの、パージの無敵時間を利用して攻撃を防いでいたスズさんですよね?」

 三度目も確認だった。

「は、い」

「私、あのときの試合を見てました! それで、思ったんです! あなたなら、この前に起こったリョウさんと同等の、それぐらいの強さを誇るプレイヤーになれるかも知れないって!」

 なれるかもとか言われたって、スズもリョウも同じ僕なんだから既に機体を除いて、操縦技術自体は同等である。

「それで、なんですか?」


「あなたをギルド『スリークラウン』に勧誘したいと思っているんです。どうでしょうか?」

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