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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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-Epilogue 03-


「御巫が目を覚まさなかったら、笑い話にもならないことばっかりだな、俺の人生は」

 好き放題して、勝手に苦しんで、辛い思いをして、勝手になにもかも決め付けて、ちっせぇ男だ。


 あの頃に戻れたら、となんど思っただろう。何度、願っただろう。けれど、それももう終わりだな。それらを含めて、生きるってことだ。子供の頃みたいに、ワガママは言えなくなってしまったし、やりたくてやっているのかやりたくないのにやっているのかも分からない仕事をして、金を稼いで、幾らかを家に入れて、残りは貯金と趣味に使う。昼飯代にも消えることがあるな。あとは飲み会で金を支払わされることもあったか。なんにしたって、大人になってからやたらと金が付き纏うようになった。子供の頃は、そんなもんとはほとんど無縁というか、小学校から高校までの教育費だって、なにもかも親が支払っていて、それなのに小遣いは貰っていて、すっげぇ楽をしていたことが分かる。


 なんにだって金が必要だ。趣味だって、昼休憩のために喫茶店に入るのだって、金が要る。


 なのに、金じゃ買えないものも世の中にはある。難しいようで簡単な話だが、分かるようになるまで時間が掛かる。分かった時が、大人への第一歩ってところだろうか。


 あんまり大人大人と自分に言い聞かせていると、大人になり切れていない子供みたいにも思えて来るのは、困りものだが。


「ご注文はお決まりでしょう……か?」

 店員が注文を取りに来たが、俺の顔を見て固まっている。

「……なにか?」

 俺は確かに口は悪いが、知らない相手にいきなり突っ掛かってわけではないので、静かに訊ねる。

「あ……あんたは」

 あなたならともかく、あんた呼びはさすがに失礼だろう。

「……どこかでお会いしましたか?」

「高校三年間を血の色で染め上げたと有名な望月 啓二」

「ふざけてんじゃねぇぞ。卒業間際によく分かんねぇ噂が流れたのは知っているが、三年間ずっと血に塗れていたわけじゃねぇぞ」


 乱闘騒ぎは……あったか? あったかも知れない。血は……流れたか? 流れたかも知れない。だが、それも三年間で一回か二回、或いは三回……いや、四回か五回くらい……だぞ。


「失礼ですが、どうしてあなたが俺の噂を知っておられるんですか?」

「なにその敬語。さっきと全然違うんですけど」

「……わざわざ客として接してやろうと思ったが、もう知らねぇ。おいコラ、名前を教えろ。そのあとで店長を呼んで、テメェをクビにしてやる」

鳴澤(なるさわ)だけど?」


「…………あー、あーあーあー、勉強マニアの鳴澤。憶えている憶えている。俺の事を馬鹿にしていたクセに俺にテストの総合点で負けていた鳴澤じゃないか。しかも三年間、一度も俺は抜かれたことがねぇよなぁ。突っ掛かって来る割に、大したことねぇなって思っていたわ」

 鳴澤という女は殊更、俺に突っ掛かって来た。態度が悪いだの、クラスの風紀を乱しているだの、ガン飛ばししてクラスメイトが怖がっているだの、とにかくうるさかった上にしつこかった。


「ぐっ……くっ、事実だからなにも言い返せない」

「で? 俺より良い会社に入って、高い給料貰って、札束で俺の頬を叩いてやると言っていた鳴澤が、なにをどうしたら喫茶店の店員なんてすることになってんだ?」

 人の傷口を抉るのは心地が良い。たまらなく気持ちが良い。相手のオドオドしている態度や、なにより見下せるこの感じは、やっぱり俺にしか味わえない快感である。

「志望校には入ったし、卒業前にも内定は取れたのよ。それで就職もしたわよ」

「へぇ?」

「でも、社風が、あたしに合っていなかったから、辞めたのよ」


「新入社員がすぐに辞める理由トップテンぐらいに入っていそうな理由だな。そういうの聞くと、入社日に遅刻しそうだから辞めますとか、飲み会に誘われるのが辛いので辞めますとか、自分が思っていたような仕事をさせてもらえないので辞めますみたいなネットニュースが割とマジで存在するんだなって実感できるわ」


「ちょっと失礼だとは思わないわけ? 女性に強く当たり過ぎ」

「痛いところを突かれるとすぐに女は、女であることを言い訳にするよな。なのに、女の特権を主張する。これだから女は」

「男だって容姿で女性を判断するでしょうが。しかも合コンじゃ、わけの分からないテンションだし、気持ち悪いのよ。セクハラだと思っていないことをやったり、男女平等じゃなくて女尊男卑になりつつあるからやっぱり男尊女卑は正しかったとか問題のすり替えもするでしょ」

 非常に癪だがその通りである。女も女だが、男も男だ。

「男が上か女が上かみたいな、クソどーでも良いことを話したいわけじゃねぇんだよ。テメェは店員だろうが。さっさと俺の注文取って、仕事に戻りやがれ」

「へー、会社入ってすぐ辞めたことをもっとグチグチ言って来ると思ったのに」

「俺も人のことは言えねぇからな。高卒で工場勤務だ。テメェより稼ぎは良いのか悪いのか分かんねぇが、テメェが高校の頃に言ったように『頭だけ良くても良い会社には絶対に入れない』ってのは正しかったな」

 そこで一息ついて、鳴澤を見る。

「……なんだその顔?」

「丸くなったじゃん、望月。昔は自分のことなんて話そうとしない奴だったのに」

「あの頃はコンプレックスの塊だったからな。ついでに十代のプライドもあった。でも今、そんなプライドを抱えていてもなんにも上手く行かねぇ。年収やら仕事やらなんやらは期待される前に明かして、楽になりたいんだよ。合コンでもその方が逃げ出せるからな」


「そういや望月って女性が嫌いだったよね。あの頃の男って大体みんな女性と仲良くなりたいみたいな意思が見え見えだったのに、あんただけ近寄るだけで生理的に受け付けないみたいな顔していたし」

「そういうテメェは勉強から解放されて、随分と変わったみてぇだが」

 丸眼鏡ではなくなったし、容姿も気を遣うようになったらしく、髪型も変えて、随分と洒落ている。そのせいで名前を言われるまで気付けなかったんだが。

「でしょでしょー、どこら辺が変わったか言ってみー?」

「……テメェ、俺の言ったことを数秒で忘れてんじゃねぇぞ。さっさと注文を取れ」

 ウザい……が、まだマシだな。ああ、マシだ。


「いやー、望月があたしの働いている喫茶店に来るなんて思いもしなかったからさー。もうちょっと話をしてみたいんだけど」

「勤務中に私情で休んでんじゃねぇぞ。あとここチェーン店だろうが。寂れた喫茶店ならまだしも、チェーン店なら確率的にそうおかしくねぇだろうよ」

「じゃぁ仕事終わったあと、飲みに行かない?」

「テメェの仕事が終わる時間なんて考慮しねぇよ。昼休憩をさっさと済まして、こっちはこっちで仕事に戻らなきゃならねぇんだからな」

「望月は何時に終わるー?」

「人の話、聞いていたか?」

「うん聞いていたけど? で、何時に終わるの? あたしも長い間、働いているからバイト雇用じゃなくせ正社員でフロア担当しているから、上がりが夜になるからさー。あ、そだ、メルアド交換すれば良いよね。トークアプリやってる? それならもっと連絡取るの早いし」

「あのなぁ」

「ほらさっさとスマホ出して。でないと店長に気付かれて怒られるから。あたしもさー、暇じゃないから」


 だから仕事に専念しろと言ったんだが……?


「っつーか、接客業ってのはスマホ禁止じゃねぇのかよ」

「だからあんたのスマホに私のメルアド登録しておいて、あたしは今、持っているメモ帳にあんたのメルアドを書いて、仕事が終わったらメールする感じ。トークアプリの登録は飲みに行った時で良いでしょ」

「もう飲みに行くこと前提なのかよ……」

 俺は観念したようにスマホを取り出し、彼女に手渡す。

「ほうほう、スマホをそう簡単に渡して良いのかな? 彼女さんにバレたら大変じゃない?」

「構わねぇよ。妹とその他諸々との付き合いのメールや電話しかねぇし。彼女なんていねぇ……女との想い出なんて碌なもんがねぇからな」


 合コンで数合わせに連れて行かれ、酔わされたあとに、わけ分かんないまま目を覚ましたらラブホだったというのは、経験したと言って良いのかすら不明である上に、俺はその後、一週間はなにか思い出しそうになる度にトイレで嘔吐していたからな。酩酊(めいてい)状態での互いの承認無しでの行為は犯罪なんじゃねぇの? 俺が女だったら訴えているところだ、マジで。


「テメェはどうなんだ?」

「あたしはー……高学歴だと、男の方が学歴コンプレックスで逃げて行くっていうか、つまんない話ばっかりだから、合コンは避けているっていうか」

「低能な連中と話をするのは耐えられないってか? お高く止まってんな」

「そういうあんたはコンプレックスは無いわけ?」

「あるが、そんなもんを気にしていたら仕事も回らねぇ。ついでに、学歴で偏見を持ったり噂をする連中は総じてクズだ。たまに使えねぇゴミも混ざっているな。だが、俺より優秀だったなら上に行って居なくなり、俺より優秀じゃないなら勝手に辞めて行く。要するに、どっちにしたって気付いたら居なくなる」

「まるで自分がクズじゃないみたいに言っているけど?」

「俺よりクズな奴が居るからな。あれを見たら反面教師になる。クソガキだが、その点は助かってんな」

「望月よりクズって……」

「おいなんだその目は? いい加減にしろよ、店員。さっさと仕事を再開しろ」

 そろそろ周りの視線も気になりつつあるんだ。

「はいはい。ご注文はお決まりでしょうか、お客様」

 棒読み気味に鳴澤は言い、俺はイラッとしながら注文を終え、彼女は店の奥に早足気味に消えて行った。

「あ、啓二! さっきの約束破ったら承知しないから」

「客を名前で呼んでんじゃねぇよ!!」


 さすがに大声で叫んだ。


 面倒なことになっている。やっぱり女とか関わらない方が良いんじゃないか、俺は?

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