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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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運であろうとなかろうと

「ここでオーバードライブとか馬鹿なんですか!」

 機材を運ぶ中、たまらず僕はバイオに向かって声を荒げる。まだ廊下だし、病室までは担当医に案内されつつなので、結構な距離があるから神楽坂さんからは睨まれるだけだったが、これが病室前だったなら僕は全てを台無しにする一手を取ってしまうところだった。

「20秒ですよ!? たった20秒! せめてあの防御システムを強制破壊してから使えば、」

『っるせぇ、黙って見ていろ!』


 一蹴されてしまった。けれど、僕の言っていることは正しいはずだ。現に、20秒のカウントダウン中にバイオは必死になって操縦していた。喋っている暇すら惜しいと言った具合だった。強制破壊さえしていれば、もっと余裕を持つことだって出来たはずなのに。


『先のことなんて分かんねぇ! だったら今、全力を出し尽くすんだよ!』


 パラディンよりも機動力を得たアサシンが縦横無尽に飛び回り、パラディンのあらゆる方向から銃弾を浴びせる。パラディンは留まらず、機動力で劣っていても最短距離を進むことでアサシンに近寄り、刺突を放つ。紙一重でかわしたアサシンは、近距離でありながら尚も軽機関銃を撃ち続け、そして高度を取るために急上昇する。パラディンの放つビームは一発、二発とアサシンに浴びせられ、装甲の一部が剥げ落ちる。しかし、アサシンは止まれない。バイオも操縦を止められない。残り10秒ほどの間に、決着をつけなければならない。


 サールサーク卿は更に操縦を最適化している。あのままだと強制破壊する前にジリ貧になっていたかも知れない。だったら速度は出来る限りイーブンにして、近距離でも無理やり銃撃するのが得策か? だとしても、オーバードライブはあまりにも早計だ。


「分からない……全力を出すんなら、他に幾らでもあるのに……その選択をする理由が、分からないんだよ……」


 僕はゲームを楽しむ以上は全力を出す。操縦テクニックは経験の積み重ねだ。けれど、時々の判断は“直感”に頼っている。その一瞬、その一時における最善の手段を僕は無意識に選び取る。

「君はいつもゲーム内では迷わない。だから、悪手とも思える一手を、誰かが選ぶ理由が分からなくなる。そうだろう?」

 神楽坂さんが囁くような声で言って、それを聞き取った僕は小さく肯いた。肯くことしかできなかった。


 装甲を浮遊させながら飛び回るパラディンと、迷彩色でスラスターのリミットを解除したアサシンが三度ほど交錯し、パラディンのビームが空を貫き、あと5秒。


『ぁあああああああ!!』

『そんな伸るか反るかの賭けに!』

 アサシンが弾丸を撃ち続けながらパラディンへと迫る。しかしパラディンはここに来て冷静に尖鎗を回し、そして迫り来るアサシンに狙いを済ます。

『俺が負けてたまるか!!』


 尖鎗はアサシンの右上腕部を穿ち、同時に破壊する。手に握り締められていた軽機関銃は壊れた右上腕部と共に地上へと落ちて行く。同時にアサシンに設けられていた5秒も尽きた。が、アサシンは肩からガスを噴射し、辺りを煙に包み込む。しかしオーバードライブ後であるため、その煙の量はたかが知れていて、すぐにその目晦ましは晴れてしまう。


『俺はまだお前に負けていられ、』

 サールサーク卿が言葉を止めてしまうほどに研ぎ澄まされたバイオの呼吸音。合わせて、アサシンの左手が上腕部に収納されて、替わりに中から刀身が見えた。


「仕込み……刀……煙幕は、これを展開する時間稼ぎのため、だったのか」


 アサシンの左腕は真っ直ぐにパラディンへと突き出される。刀の切っ先が防御システムに触れた直後、収束して塊となっていた装甲が瞬く間に凍て付く。凍て付いた装甲が砕け散る。ギラギラと煌めく氷の欠片の合間を縫うように、切っ先がパラディンの頭部を刺し貫く。

「これにも『氷結』のエンチャント……」

『どうして、ゲージがあと一撃で溜まり切ると、分かった……?』

『分かったんじゃねぇ。これはテメェがさっき言った、伸るか反るかの……賭けだっただけだ』

 スラスター性能が大幅に低下したアサシンはパラディンの頭部に仕込み刀を突き立てていることで辛うじて同じ高度を保てている。だから、ここで縦一文字に仕込み刀を振り下ろせば、勝ちだ。

『伸るか反るか……ふ、ふ、ふはは……ふはははっ! だったら、これはどうだ!?』

 パラディンの腰に据えられているエネルギーランチャーの砲身がアサシンの胴体へと向けられ、ビームが放たれる。アサシンとパラディンはもうほぼ隣接していると言っても良い。これだけ近付いていたら、狙わずとも当たるが――当たらないところもあるが、わざわざ胴体を狙った。残された片足を狙えばジョイントを外される。かと言って、腕にまでエネルギーランチャーが展開できない。だったら、ジョイントを外すことさえ出来ない、確実に耐久力を削れる胴体を撃っているのだ。


『お前の刀が俺の機体を両断するのが先か! ミスター・ルールブックの削り取ったお前の機体の耐久力が、照射され続けることで尽きるのが先か!』

『良いぜぇ! 乗ってやるよ!!』


 とは言え、もう勝ちは見えている。明らかにアサシンが両断する方が先だ。でも、バイオは一思いに振り切ることはなく、サールサーク卿の最後の意地を尊重するかのように――それは酔狂だ。どう考えても痛め付けるように、ジワジワと仕込み刀を縦に押し込んで行く。


 けれど、二人はその最後の時間を、最後の賭けを楽しんでいる。


 雄叫びにも似た声が合同通信でその場に居るメンバーの耳へと木霊し、二人の息がほぼ同時に続かなくなったところで、アサシンがパラディンを両断した。


『お前が強かったんじゃない』

『ああ』

『お前が俺に勝ったのは、ただの運だ』

『そうだ、ただの運。俺はまだテメェの足元にも及ばない』

『それでも、俺が負けた。お前に勝てているところなんて一つも無いと思っていた、俺が……負けた。一回ぐらい、勝たせてくれても良かっただろう?』

『はっ、それじゃ俺が負けっ放しだろうが』

『勝ち逃げは許さない。次は、運ではなく実力で勝たせてもらう』

『ボッコボコに負かされるのを期待している』

『……そうか…………負け、たのか。俺は』


 残骸となったパラディンが全ての機能を失い、落下した。


「どうだ?」

「バイオが勝ちました」

「奇跡だな。私からしてみれば、あの程度の実力でサールサーク卿に勝てるわけがない。それでも、君の友人が勝ったことには変わりない」

 そうだ。バイオがサールサーク卿に勝てる要素なんてどこにも無かった。それでも勝つことができたのは、サールサーク卿が勝てると決め付けていたことによる驕りと、あとはシャロンの存在。それらの歯車が噛み合ったことで、現実の機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナは動いたのだ。


「さて、放心しているサールサーク卿が異変に気付いてログアウトするまでの間に、機材をセッティングしてしまおうじゃないか」

 丁度、僕たちも御巫さんの病室に辿り着いた。


 対戦が始まってから三十分。頼んでもいないのに、そして言葉にしたつもりもないのに、シャロンもバイオも随分と粘ったものだ。つくづく、諦めの悪い兄妹だ。


『やべぇな。鼻血が止まらねぇ』

「オーバードライブ中はコクピット内の温度が上がりますからね……あと、力入れ過ぎて血管が切れた可能性ありますけど」

『しばらくログアウトしない方が良いんだろ? 俺の勘が、ログアウト後に同じように鼻血が止まらなくなってパソコンとキーボードだけじゃなく、床まで血塗れになると告げている』

「そうですね。妹さんと一緒に、しばらくゲーム内で待機しておいて下さい」

 シャロンだけは無傷、というわけには行かないだろう。神楽坂さんですら片足に違和感を覚え、骨にヒビが入っているのではと思うほどなのだ。パラディンに穿たれ、そのあとも防盾の破壊のために無理やり機体を動かしたシャロンにだって、なにかしらのダメージ――フィードバックは起こるだろう。ゲーム内では問題無くとも、現実に戻ったあとに問題が発生しかねない。

「僕はそろそろ予定があるので。他のみんなにもそう伝えて下さい」

 機材を担当医に渡し、ヘッドセットと小型HMDを外して電源を落とし、鞄の中へ収める。


「やれやれ、ゲームだけに限らず現実でも酷使されるとは……しかし、それが私の望んだことなのだから、愚痴を言っても詮無いことか」


 担当医と目配せしながら、神楽坂さんは機材を持って御巫さんの病室へと入る。僕は、足音で早期に察知されかねないのでサールサーク卿――松本さんがログアウトして来るまで、廊下で待機だ。

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